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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第3章 深罪激闘編
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第55話 愛憎Ⅱ:勝負の駆け引き

 リーベは、一度解除していた『本質反転(アンヴェルシオン)』を再度発動し、姿を変化させていく。白から、黒へ──。

『格納空間』から取り出した〝忌憎の鎌(ハーヴェスター)〟を手に取り、構える。


「……は? ちょっと……何、それ……」

「あら、アイテルカイトから習っていないんですか?『本質反転(アンヴェルシオン)』を」

「ちょっと待って、『本質反転(アンヴェルシオン)』……? いや、いやっ、そんなわけない……だって、だってあんた、あたしがいる頃は使えなかったじゃん!!」

「千年経っているんですよ? わたくしがこの技術を、使えないとでも?」

「な、なっ……」


 そう言葉を交わしている内に、リーベは更に、憎悪(エネルギー)を練り上げる。より強く、硬く、刃に宿らせて──。

 しかし──


「────くっ、そぉ!! くそ! くそくそくそ!! なんであんたなんかに扱えるんだ! あたしは幾ら練習しても上手く行かないのにぃ!!」


 ナイトが激昂した。


「アイテルカイトに教えてもらっても出来ないし、アイツあたしら裏切ったし……しかもそうじゃん、あん時アイツが協力してもらったのあんたじゃん。それをあたしの前でそれ使うってさぁ──」


 ナイトの魔力が、膨らみ始めた。


「嫌味かよ──ッ!!」


 そうして膨張し続けた魔力は、弾ける──



   ◆◆◆



 轟音が響く。何かが弾け砕けるような、そんな大きな音。

 アブーリアは、瞬時に集中力を〝石室〟に注ぐ。

 ──見ると、洞窟のような形状だった石室──平たく言えば大きめの丘──が砕け散っていて、中で戦っているであろう二人が外界に露出していた。

 元より、リーベが『認識阻害』の魔法効果を付与した結界で包んでいたので、民間人にバレる心配はない。そもそも、ここは辺境であるので、人は近寄らないのだ。

 しかし、問題は──


(多分アイツが〝嫉妬〟のナイト……。だが、妙だぞ? 話に聞いていた……『本質反転(アンヴェルシオン)』したリーベの七割程度……そんな感じじゃないぞ、あの魔力量……)


 〝嫉妬〟のナイトであろう存在の魔力量が、アブーリア達の想定よりも遥かに大きかった事だ。

 アブーリアに知る由はないが、現在のナイトは、彼女の権能である『嫉妬の海(タイダルエンヴィ)』で魔力量、体力量、膂力、敏捷の数値があり得ないほど上昇している。その原因は、『本質反転(アンヴェルシオン)』を扱えるようになったリーベへの嫉妬……はたまた、それを使わなくても勝てるという実力の誇示なのか……。


(だが……面倒だな、あの魔力量。魔法技術や権能がどれほどかは直に感じてみないとわからないが……想定より早く、出番が来るかもしれない)


 そう思い、アブーリアは事前に『格納空間』から鎌を出しておく。

 まだ銘こそないものの、よく手入れされた鎌である。


(これ)と俺の身体能力でどこまで()れるかわからんが……ここまで来たらやるしかない。放っておくという選択肢も、ない)


 静かに決意したアブーリアは、戦局を見極める事に注力し始める──



   ◆◆◆



 くっ、ここまでとは──と、リーベは唇を噛む。

 ナイトの〝嫉妬〟の矛先が自分に向くとは想定しておらず、かなり苦戦を強いられているのだ。


「死ね、死ね、死ねぇ──ッ!!」


 ナイトの攻撃方法は、徒手空拳と魔力弾。遠近両立のバランスタイプ。

 対して、リーベは中距離。〝忌憎の鎌(ハーヴェスター)〟の射程と切れ味を活かした、命を刈り取りに行く戦法(スタイル)

 相性が悪かった。リーベがそれらしい〝攻撃〟をするためには『本質反転(アンヴェルシオン)』する他になかったのだが、それが仇となってしまったのだ。ナイトは既にリーベの攻撃範囲、得意分野を分析完了しており、すぐに近距離攻撃に特化している。離れられても、遠距離攻撃を駆使してまた距離を詰める。


(信じられないほど戦い方が上手い……。決して侮っ(ナメ)ていたわけではありませんが、これはちょっと……)


 現在のリーベは、防御一辺倒。攻撃を受け、往なし、体制を立て直す。失った体力は魔法で回復し、それで失った魔力は時間経過で回復。


「ほらほらどうしたよ!! あんたの『本質反転(アンヴェルシオン)』もその程度ぉ!?」


 すっかり勢いづいたナイトだが、油断はしていない。常に周囲を警戒しており、罠や協力者の存在にも気をつけているのだ。

 しかし、リーベにも対抗策はある。それが、憎悪の黒竜(エヌ・ドラゴン)の真骨頂──変化した権能『心無虐殺(デスストリーク)』。無条件で対象の生命を奪う、理不尽そのもの。

 だが、そんな権能にもデメリットが一つ。発動条件として『自分から触れる』というものがある。ただの『接触』ではなく、自分の意思で、自分から触れなくてはならない。

 が──


(隙がない……!)


 触れる事が出来なければ意味はない。

 権能効果を共有している〝忌憎の鎌(ハーヴェスター)〟の刃で触れる事も可能だが、刃物というのは案外脆いものなのだ。刃の側面から魔力を纏った拳で殴られれば、如何に〝忌憎の鎌(ハーヴェスター)〟と言えども割れてしまう。


(それだけは避けなければ……。(これ)を失うと、私の攻撃方法は徒手空拳のみ……。シュトルツから習っておくんでした……)


 今更、そんな事を後悔するリーベである。しかし、まだどこか余裕があった。それは──


(危機に陥れば貴方が助けてくれる。リスクこそ高いですが……信じていますよ、アブーリア)


 リーベにとって可能性とリスクの表裏一体、まさに切り札(ジョーカー)であるアブーリアの存在。

 現在、アブーリアは完全に気配を消して潜伏しているようだった。アブーリアの気配を見慣れたリーベですら位置を把握するのに結構な時間を要するほど完璧に自分の存在を隠匿しており、見慣れていないナイトに見つけるのは不可能だろう。

 彼が参戦したならば──


(勝機はある。彼依存の作戦に放ってしまいますが、わたくしの手で彼が介入する隙を作り出す!!)


 刃側を自分に向け、ナイトの拳を〝忌憎の鎌(ハーヴェスター)〟の柄で受け流し、柄頭でナイトを叩く。そのまま鎌を押して、ナイトを地面に押さえつけた。


「なっ──くそ!!」


 当然、そんな状況に甘んじているナイトではない。

 体内の一部の魔力を衝撃波として解放し、リーベを少し浮き上がらせる。ほんの数センチだが、ナイトにとってはそれで十分。身を捻ってリーベを蹴り飛ばし、立ち上がった。

 守勢から一転し、今度は攻勢に出るリーベである。


「……さっきまでと違うじゃん!!」


 近距離戦を警戒しているのか、魔力弾でリーベを襲うナイト。それを全て回避したリーベが取った行動は──


「──は?」


 得物(カマ)の、投擲(とうてき)

 それはないでしょ──と内心で叫ぶナイト。そんな事お構い無しに、リーベは徒手空拳を用いてナイトに襲いかかる。


(一気に攻勢に切り替えた? それに、得物を投げてくるなんて……。『本質反転(アンヴェルシオン)』したあんたの攻撃手段(エモノ)(これ)じゃなかったのかよ!!)


 そう考えながら、鎌から離れるナイト。当然、リーベに『鎌を手放してもいい理由』……つまり遠距離での権能効果があると踏んでの行動である。

 しかし実際は、〝忌憎の鎌(ハーヴェスター)〟を介してリーベの『心無虐殺(デスストリーク)』が発動するのは『リーベ自身が鎌に触れている時』のみ。手から離れれば、権能発動の心配はない。

 ──が、当たり前だがナイトはそれを知らないのだ。知られていないならば、余計な心配をしてくれるはず──とリーベは踏んでいるのである。

 そんな中でリーベが行う攻撃は、やはり徒手空拳のみ。同じく魔力弾を扱う事もあるので、戦法自体は似通ったものになった……が、リーベの徒手空拳はよく見積もって付け焼き刃程度。ナイトも特に洗練されているわけではないが、ずっと徒手空拳で戦っていたナイトの方が有利で技量もあるだろう。

 なので、徒手空拳はダミー。飽く迄も、アブーリアが介入しやすい地点への誘導が目的。


(急に素手で()り始めたから驚いたけど、コイツ全然ダメダメだ。あたしの方が確実に強い……!)


 しかしナイトは、そう考えてしまう。リーベは、(なり)()り構わず勝利を掴み取りに来たのだと、そう考えるのだ。

 形成はすぐにまた逆転し、ナイトの方に傾く。流石のリーベも、徒手空拳(同じ土俵)では押され始めた。

 ではどうするか──


「っ──」


 狙いすましたかのように〝忌憎の鎌(ハーヴェスター)〟が刺さっている地点へと下がったリーベが、もう一度〝忌憎の鎌(ハーヴェスター)〟を手に取る。

 すると面白い事に、ナイトはリーベが持つ未知の権能(デスストリーク)を警戒して攻撃を止めるのだ。


「あら? 攻撃しなくていいんですか?」

「……あんた、なんか権能を隠しているでしょ」

「当たり前じゃあないですか。『本質反転(アンヴェルシオン)』すれば権能も反転し、変化する……それくらいは、アイテルカイトから教わっているでしょう?」

「わかってんだよそのくらい! 問題はあんたがどんな権能を隠し持っているかだ!!」


 リーベの本来の権能の名は、『救浄全癒(レストアトリート)』。絶対的な癒しを司る万能な能力で、魔力を消費すれば如何なる病や怪我、精神(メンタル)も癒してしまう、そんな能力。

 それの『反転』となれば、『治癒』の逆である『殺害』の権能となる。そこまでは、流石のナイトも理解している。

 問題は、その発動条件を含む様々な制約である。『視界に入れたものを無条件で殺害』などという理不尽極まりないようなものではないのは確かなのだが、細かい制約を知らない限り迂闊に行動が出来ない。


(目星はつく。距離は関係していない。近距離発動ならば、格闘戦の途中であたしは死んでいるはず……。となると発動に距離は関係なく……いや、微妙にある可能性もある。その発動が『接触』に関わるものならば──)


 そう考えたナイトは、にやりと口角を歪ませる。


「あんたの権能、わかったよ! 発動条件は直接的な『接触』だ!! どーだあたしは──」


 そこまで言いかけた時、ナイトは不審に思った。

 今は、命を賭けた殺し合いの真っ只中。そんな中でこんな隙を晒しているのだから、リーベが殺りに来ない筈はない。しかし今──リーベは、止まっている。

 何かがおかしい──と、ナイトは気付いた。

 魔法で強化されたナイトの目が見たものは──リーベの瞳に映る、巨大な鎌を持って背後からナイトを狙っている青年の姿だった。

ヒスる描写って、難しいよね。結構難儀した。

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