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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第3章 深罪激闘編
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第54話 愛憎Ⅰ:瞬く間の決着

 視点は移り、エルピス達の戦いが始まる少し前、〝渇愛(かつあい)の石室〟にて。

 リーベとシュトルツが、石室の前に現れた。リーベはこの石室に訪れた事はなかったので、シュトルツの手を借りたのだ。エルピス達を送った後が、リーベである。


「……やっと決着をつけられますわ」

「そうだな」

「……どうして封印時に始末しなかったんです?」

「ヴォルストの権能は、異性相手には特効……つまり必中必殺となる。オレも手中に落ちていただろうし、戦うのは分が悪すぎる」

「ではどうしてわたくしを頼らなかったのですか?」

「……あの頃のお前はまだ、『本質反転(アンヴェルシオン)』を完璧に扱えていなかっただろう?」


 そうなのだ。

 リーベは、この千年で『本質反転(アンヴェルシオン)』をものにしていた。しかし千年前は、まだまだ扱えるレベルではなかったのである。

本質反転(アンヴェルシオン)』がなければ、リーベに攻撃手段はなくなる。攻撃手段のないリーベなど、出来る事と言えば回復を繰り返す時間稼ぎ──俗に言う〝ゾンビ戦法〟しかないのだ。

 そんな事情もあり、シュトルツはリーベを頼らず、不意打ちでの封印に特化した作戦を練り、実行したのだった。

 ──が、今はどうだろうか?

 今のリーベは、『本質反転(アンヴェルシオン)』を完璧に扱えるようになっていた。自己回復の〝慈愛〟と攻撃特化の〝憎悪〟の切り替えも即座に出来るようになっており、戦力として申し分ない。

 どうして扱えるようになろうと思ったのかといえば、リーベ自身の考え方の変化である。

 リーベは元来、援護や支援こそ自身の花道と思っていた。しかし、今となっては支援と攻勢を両立出来てこそ真なる強者──という考えに変わっていたのだ。

 特に理由こそないものの、この変化は大きなものである。

 故に今、彼女は──


「それじゃあ、任せたぞ」

「ええ。すぐにでも終わらせなくってはね。アブーリアが待っているもの」


 それだけの会話を交わして、シュトルツは『転移』してしまった。シュトルツとしては時間が惜しいので、仕方のない事である。

 そんな事はすぐに忘却の彼方に押しやり、リーベは石室の中に入る。


 石室の内装は、他と変わらない。岩石に囲われ、床には巨大な魔法陣。魔法陣の中心には、深罪(しんざい)を封じている石柱があるのみ。──の、ハズだった。


「……そう、ですか」


 魔法陣がある床には、美しい色とりどりの花々が乱れ咲き彩っていた。その光景は、異様そのものである。

 〝色欲〟のヴォルストの能力は攻撃性のない反面、周囲への影響力は深罪の中でも随一。加えて封印が劣化してきているとあれば、この異様な状況も頷けるというものであった。

 そうとわかっているので、リーベの反応も少し気に留める程度のものだ。何も気にせず、リーベはヴォルストの封印を解いた。


 中心の石柱が砕け、中から美しい女性が姿を表す。その〝美〟を一言で表すとすれば、まさに〝魔性〟。

 リーベとは似て非なる白い髪に、紫色の瞳は魅惑の輝きを秘めている。


「………………あら、封印が解けましたの?」

「わたくしが解いたんです」

「言われなくともわかっていますわよ、リーベ。お久しぶりですわね、お元気でした?」

「ええ。今日が訪れるまでは……。今日はあなたを殺しに来たんです」

「そうだろうと思っていましたわ。あなたがあたくしサマの封印場所を訪れて封印を解く……討伐以外の何がありましょう?」


 リーベからすれば、全てが意味のない会話。それでも続けるのは、より魔力(エネルギー)を練り上げるため。

 しかしそれも、たった今終わった。もはや、会話をする必要はない。


「それじゃあ早速始めましょう」

「ウフフ♪ あたくしサマの権能は同性にも通用しますのよ? 堕ちたあなたは、特別にあたくしサマの恋人にしてあげましょう。何せ、〝竜〟は貴重ですから……ウフフ♪」

「妄言ここに極まれり、ですわね。会話は不要でしょう」


 そうしてリーベは、自然と『本質反転(アンヴェルシオン)』を行使する。

 純白のドレスがどんどんと漆黒に染まっていき、髪も同じく漆黒に。瞳は、攻撃性を秘めた真紅の瞳に変化していた。


「…………その姿は?」

「教えると思います?」

「いえ、まさか……まさか、そんな──」


 ヴォルストは、一瞬にして察したのだ。

 リーベが、何を行ったのか。リーベに起こった変化が、どういうものなのか。何が変わったのか。

 それ故に、恐怖している。脚をガクガクと震わせ、少しずつ後退している。


「いや……来ないで……」

「それは無理な相談だと、あなたが一番よくわかっているでしょう?」


 ヴォルストは、愛について一番よく知っていると自負している。それはただ単に気取っているだけなのだが、今はそんな事は関係ない。

 重要なのは、ヴォルスト自身が〝愛の反対は無関心などではなく、憎悪である〟と知っている事。皮肉にも目の前にいるのは、〝愛〟を司るリーベが『本質反転(アンヴェルシオン)』した存在だった。

 その感情の強さ、攻撃性……。一存在を破滅に追いやる事すらあるその感情を司るという事の重大さを、ヴォルストは理解してしまったのだ。

 だからこそ、何よりも恐れるように──


「では、さようなら」


 ヴォルストの視界が上下反転する。そのまま視点が下がって、ゴロゴロと、転がった。

 視界の端に、鎌の刃についた血を拭うリーベの姿が映る。そうしてようやく、ヴォルストは自分が反応出来ないほどの速度で首を落とされたのだと悟った。


(そうなのですわね……。リーベ、まさか『本質反転(アンヴェルシオン)』を……)


 ヴォルストも、その存在については聞いていた。能力が他を魅了し包み込む〝色欲〟……言わば〝包容〟するような能力だが、それが『反転』するとなると、節制……言い換えれば『拒絶』のような能力になるとヴォルストは理解していた。

 強力極まりないのだが、無節操で()(いん)な性格のヴォルストとしては必要ない……どころか、嫌悪感すら抱く始末。

 しかし……その『拒絶』の能力があれば生き残れたかもしれないというのは、なんとも皮肉なものだった。他を完全に『拒絶』し弾く、その力さえあれば、というのは……。


 そんな思考を最後に、ヴォルストの意識と生命は途絶えたのだった。



 ◇◇◇



 ヴォルストの絶命を確認したリーベは、早速〝怨羨(えんせん)の石室〟で待機しているアブーリアに連絡をした。


『今終わりましたわ』

『……意外と早いな。なるべく早く駆けつけてくれ』

『わかっていますわよ』


 なるべく手短に連絡を終わらせ、『転移』の準備を進めるリーベ。

 そんなリーベは、ヴォルストの死骸から抜け出す光に──


「……? ……何もありませんわね……」


 ──結局、気づく事はないのだった。



 ◇◇◇



 場所は移り、ゼルハーク大陸の北北東にある〝怨羨(えんせん)の石室〟。

 入口の近くに積まれた石の上に、一人の青年が座っていた。リーベからすれば見慣れない青年で、根本は鮮やかな飴色だが先になるに連れて(あさ)()色になる短い髪と、ビターな輝きを秘めた()(はく)色の瞳を併せ持つ青年。

 しかしリーベは、その顔を見た事があった。それは──


「……アブーリア、ですか?」

「ん? ああ、そうだが……」

「……随分と、雰囲気が変わりましたね。染めたんですか?」

「いや、地毛だ。黒く染めてたのを戻した。……簡単に言えば、自暴自棄になって黒仙(コクセン)なんかに従ってたあの頃との決別だよ」


 そう語るアブーリアの瞳にはもう、前のようなウジウジとした迷いはなかった。どっちつかずな、そんな迷いは。

 それを聞いたリーベは、少し微笑んだ。アブーリアがいれば、ナイトとも──と。


「では、早速封印を解きましょうか」


 そう言ってその場を仕切りつつも、リーベはそこはかとない不安に襲われていた。

 相手は〝嫉妬〟のナイト。彼女もまた、恋愛的な感情に(まつ)わる概念を背負う竜。アブーリアはもしものための保険……とはいえ、彼女がリーベに〝嫉妬〟しないとも限らないのだ。

 だからこそ──


「アブーリアは保険。わたくしが危機に陥った時のみ、交戦を許可します。それ以外は、石室から離れた場所……わたくしの状態が確認出来るギリギリの距離で待機です」

「……了解。割とダルいが、それが必要なんだな?」

「ええ」


 アブーリアとしても、自分も加わった方が手っ取り早いと思いつつもリーベに従うのだ。なぜなら、リーベの指示はいつも的確だったから。

 そうして、リーベとアブーリアは、お互い真逆の方向に移動を開始する。



 ◇◇◇



 早速、石室内部に侵入したリーベ。

 ナイトの権能は、性質的にはツォーンのそれと同じ。効果こそ違えど、似てはいるのだ。なのでやはり、ヴォルストほど周囲への影響力は強くない。というか、無い。

 なので、それほど異常な風景というわけでもなかった。何も思う事なく、リーベは地面の魔法陣を砕く。敷き詰められた魔法陣は、線を一本でも塞がれるとすぐに瓦解する。どんな魔法でもそれは当たり前なのだが、この複雑かつ劣化した封印術式ではそれが顕著だった。

 すぐに石柱への影響力が消え去り、石柱が砕け散る。中から出てきたのは、ゴシックロリータ服を着た少女。ピンク色のメッシュが入った綺麗な長い黒髪と黒曜石のような瞳を併せ持つ少女。


「…………ふわぁぁぁ……よく寝た……。外の空気を吸うのは何年振りだろう……? 九百年? いや、千年だっけ……? まあ、どうでもいいけど……」


 どこかふわっとした口調で話すその少女こそ、〝嫉妬〟のナイトである。


「お久しぶりですね、ナイト」

「……あれ? あれれ? どこぞの美徳ちゃんじゃん。なになに、このあたしにまた〝愛〟を説きに来たの?」

「そう見えますか?」

「見えないね、あたしを討伐しに来た顔だ」


 ふわっとした印象のナイトも、伊達に千年を生きていない。そういう事もわかるのだ。長い付き合いゆえに──。


「わたくしもわたくしで時間が惜しい。早く終わらせましょう」

「なになに、あたしの事、時間気にしながら片手間で殺せるって、そう思ってるってわけ? 回復とか支援一辺倒のあんたが? チョー笑えるじゃん」

「本当にそうかは、戦ってみればわかりますとも。安心なさって、すぐに楽にして差し上げます」


 リーベは挑発的である。アヴラージュやシュトルツがいる場面では、絶対に見せないような口調と雰囲気。まぁ、二人がいる時は必ず二人とも前衛につくので、そもそも見せる場面がないという話でもあるのだが……。


「…………へぇ? 言うじゃん。そんな力とか、手に入れたのかな? メンドーな……」


 ──かくして、ナイトとリーベの戦いが始まろうとしていた。

リーベはやっぱりここぞって時活躍してくれるんです。『アンヴェルシオン』ってめちゃくちゃ扱いづらい要素だな……こんな厄ネタ作ったの誰ですか。

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