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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第3章 深罪激闘編
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第53話 勇希Ⅱ:走馬灯

最近ギリギリになってばかりです……。

 出会いは、一万年前。

 既に二万年以上生きていたラインハイトにとっては、いつもと何ら変わらないヴァーユランの風景。


 ──の、はずだった。


 その場に、その青年が現れるまでは。


『貴女は、他のエルフとは少し違う……ようですけど?』

『…………どうして、そう思うんですか?』

『なんとなく、かな。なんとなく、ちょっと違う気がした。それだけだ。僕はただ、貴女(あなた)が少し、寂しそうに見えたから』


 当たっていた。

 この世界の国家にも、学校はある。職業別の専門学校のようなものもあり、ラインハイトは一時期、そういう学校に通っていた事もあった。見た目が幼いので、年齢自体はかなり簡単に誤魔化せたから。

 ──そのどれもが、とてもつまらないものだった。


 ラインハイトが生きてきた二万年間で、人類文明は激動の歴史を歩んだ。魔法技術も、文化も。しかし魔法技術は……ある一時を境に、劣化し続けている。

 現代より一万と五千年前に起こった、人間と魔族の戦争──〝人魔大戦〟。勇者エルピスが生まれる五十世紀前の話だ。

 当然、当時五千年を生きていたラインハイトも参戦している。その、両親も。

 問題は、その戦いで人類側の有力な魔法使い達がかなり殺されてしまった事だった。ラインハイトの両親も、その戦いで命を落とした。

 各国首相から、元来魔族の技術とされてきた〝魔法〟という技術の解析及び普及促進を任されていた大魔法使い達の、その末裔達。これらを失ったのは、人類側にとって大きな損失となる。

 それからというもの、魔法技術というものは失われていくばかり……。程度が低くなりすぎている。ラインハイトが生き残ったのも、他の仲間が庇ってくれたから。もはや、大魔法使いはラインハイトを含め一握りの数しか残っていないのだ。

 加えて、そんな大魔法使い達の偉業に基づく魔法といえば、一番弟子等に機密情報として受け継がれるようなものばかり。時と共に失われていくのも納得である。


 そんな壮大な背景もあり、ラインハイトは常に退屈していた。

 この、唯一人の神人類の青年──後の、勇者エルピス・アンドレイアに出会うまでは。


 ラインハイトは、エルピスが築く勇者パーティ〝(ゆう)()〟の最初のメンバーだった。彼が冒険者活動をするに当たって、仲間を集め始めたのも同時期。

 それからの生活は、ラインハイトにとって退屈とは真逆なものだった。

 常に世界を渡り歩き、様々な人々に出会い、問題を解決し、戦い、救けた。

 様々な〝モノ〟を見た。

 仲間も増えた。


『どうか私も連れて行ってくれません?』

『キミは聖職者(シスター)だろう? ボク達、ただの冒険者だぜ?』

『それでいいのです。私も、見聞を広めたい。あなたのチーム、未だに二人でしょう?』


 自由奔放な聖職者(シスター)のアインザッツと出会った。

 アインザッツは仕事に疲れた聖職者。故に自由奔放で、司祭の対応からしても「好きにしてくれ」というものだった。


『いやぁ、助かったよ』

『……別にどうって事はない。偶然(たまたま)通りかかったから助けただけだ』

『いや、どちらにしろ助かったさ。君、もの凄く強いようだね』

『……伊達に長い間、生きていない』

『よかったら、うちのチームの〝戦士〟にならないか?』


 ()(もく)で、それでいて強い戦士のシュタルクに出会った。とても希少な種族らしい。それはもう、その強さも納得出来るほど。

 ドワーフの父と、人間の母を持つ、交雑種(ハイブリッド)雑種強勢(ヘテローシス)。アグニル王国とヴァルネリ共和国の間にある〝デテルミネ〟という小国の出身。


 こうして、四人揃ったチーム〝(ゆう)()〟は新たな始まりを迎える。

 人類文明を魔族から守る、人類最強の勇者パーティとして。


 その数千年後、ある青年と出会った。


『やぁ。キミ達、強いんだってね?』

『……知らない顔だね』

『当たり前さ、初対面だもの』


 灰色(グレー)の髪に、どこまでも深い青色の瞳を持つ青年。名を、ルディア。「少し試させてよ」という青年を前に、ラインハイト達は──惨敗した。

 手も足も出なかった。

 決して、エルピス達が弱いわけではない。四人全員が、世界有数の実力者だった。

 しかし、格が違った。なぜなら、ルディアは──。


 その更に数百年後、チーム〝(ゆう)()〟に大きな依頼が来る。


『封印を手伝ってほしい、だって?』

『ああ。ボクの友達が困っていてね。キミ達なら実力も十分だと思うから、どうかよろしく頼むよ』


 ルディアから、ルディアの友達だという存在の協力。誰か、何かを封印しようとしているとの事で、それを手伝ってほしいとの事だった。

 ラインハイトは、奇妙にして難儀な依頼だったのを覚えている。

 なぜならそれは──


 ──世界に七柱、〝大罪〟を宿す竜の内の一柱、〝強欲〟のハープズフトの封印依頼だったから。


 無茶だ、ダメだと、ラインハイト含むチームの仲間は皆、エルピスに反対した。

 それなのに、エルピスは──


『ボク達が力になるというのなら、受けようじゃないか。それでこそ〝勇者一行(パーティ)〟だろう?』


 そう言って聞かず、最終的には依頼を受け入れてしまった。


 そうして行われた戦いは、熾烈そのもの。ラインハイトが攻撃に回る隙もなく、常に、そのルディアの友人である〝シュトルツ〟という男と、ルディア、そしてエルピスとシュタルクの強化(バフ)と回復に専念しなければならず、しかもほぼ休み無し(ノータイム)で行わなければならない。

 それが三日三晩続き、そうしてようやく〝強欲〟のハープズフトを封印に持ち込めたのだ。

 エルピスも、『不用意に受けるんじゃなかった』と後悔するほど。シュタルクやアインザッツ、ラインハイトはこれを『地獄』と称するほどだった。


 それからは、いつもと変わらぬ日々。

 人々の悩みを解決し、魔獣を討伐し、魔族を殺す。大戦以来、魔族は魔界に帰っているというが、まだ人間界に残っている者もいる。そういった魔族は常に、人間を襲撃する機会を伺っているのだ。

 そんなものを看過するわけにもいかず、見かければ討伐していた。

 変わらぬ日々を過ごしてまた千年、現在──


 ………

 ……

 …


「うっ、ぐっう……」


 (うめ)き声を上げる事しか出来ない。〝暴食〟のフェレライに首を掴まれ、絶体絶命。それが、今のラインハイトの状況だった。

 エルピスが必死の形相でフェレライに刃を向けている。シュタルクもだ。アインザッツも、もはや支援魔法を使おうとはしていない。全てを、攻撃のみに集中させているようだった。

 死に際とは冷静なもので、ラインハイトはそんな分析までしてしまっていた。

 ──もう自分が助からないと、割り切っているから。


(ああ、この一万年間……楽しかった……)


 そんな事まで、思ってしまう始末。

 しかしそんなラインハイトも、看過出来ない事があった。


(……私が死ねば……エルピス達にかけた魔法効果さえも消えてしまう……それだけは……それだけは看過出来ない!! 少しでも、少しでも勝利に──!!)


 そうして、ラインハイトはとある魔法を構築していく。

 元素魔法の中でも最強の魔法。自身の命すらも薪にして、莫大な魔力を遺す。


 ──元素魔法:生命昇華(サクリファイス)


 以前シルティオスが使った〝輝ける生命の昇華サクリファイスラディアント〟は、この魔法を自分なりに改造したものだった。シルティオスのそれは、生命を攻撃力──及び破壊力に変換するもの。

 しかしこちらの使い方は──


「……ラインハイト?」


 ラインハイトの胸の中心から、淡い光が漏れ出す。


(急がなければ……フェレライの権能の発動は彼女の尺度で決まる。今私が死んでいないのは、彼女が今の状況を楽しんでいるから。ならば、そこにつけ込む──)


 同時に、別の魔法も構築していく。二万年と少しの間ずっと戦い、魔法の練度を上げてきた。それに加えて凄まじい魔法の才能を持つラインハイトだからこそ出来る神業──〝二重発動(デュアルスペル)〟。

 ラインハイトの生命の灯火を消費して生み出された魔力は莫大。それこそ、魔王にすら匹敵するほどに──。

 その半分は、エルピス達にかけた魔法効果の保持に。残った全ては──支援魔法:限界突破(ブレイクリミット)に。

 エルピス達に付与した支援効果は、既に最大効果のもの。これ以上は上がらない──普通ならば。この支援魔法を使った時のみ、既に限界値に達した支援効果を更に引き上げる事が出来る。しかも、今回使われる魔力も膨大なのだ。大いなる支援効果を(もたら)す事になるだろう。

 この魔法は、消費魔力が大きすぎるのだ。だから常用なんて出来ないし、ラインハイトでも命を懸けねば扱えない。


(──ああ、叶うならばもう少しだけ、みんなと冒険がしたかった……)


 死を悟ったラインハイトは、最期までそんな事を考えるのだ。



   ◆◆◆



 何かを察したエルピスが動きを止める。


「……ラインハイト?」


 その少し後、アインザッツが呟いた。

 チームの全員の視線が、ラインハイトの胸に集中する。そこから放たれているのは、魔法によるものだと推測される淡い光。

 死の間際でラインハイトは藻掻(もが)いているのだと、全員が理解した。しかし玉に(きず)だったのは、反応が少し大袈裟だった事。


「────あ?」


 そのせいで、フェレライにバレてしまった。

 エルピス達がそんな反応をしなければ、エルピス達を真っ直ぐ見据えて視線を固定していたフェレライには、或いは──。

 しかし、それはもう机上の空論と化してしまっている。もう、バレてしまったから。


 すぐに、ラインハイトの瞳から生命の輝きが消えた。幸いにも、その前に既に、術式は完成しているようだった。否、むしろ、死んでからである。

 全員が、力が漲るような感覚に襲われた。

 それは、ラインハイトが最期に遺してくれた効果(モノ)


「……小賢しい真似しやがって」


 そう吐き捨てて、フェレライはラインハイトの亡骸をポイッと投げ捨てた。


「チッ」


 フェレライが、ラインハイトの亡骸の頭を踏みつける。

 生命への冒涜。その行為は──エルピスの心に、怒りの炎を燃え上がらせた。


「……オマエ……僕の仲間を、よくも……」


 怒りで表情を歪ませたエルピスが、ラインハイトの亡骸を抱えながらフェレライを睨みつけていた。

 誰一人、目で追えていない。エルピスが近づき、ラインハイトの亡骸を抱えるのを。エルピスが、フェレライに話しかけるその時まで、誰一人。


 エルピスとしても、ラインハイトが殺されてしまった事に憤っているのではない。寧ろ、それはラインハイト自身も覚悟していた事だ。

 パーティのリーダーとして、犠牲は出したくない。しかし、出てしまうものは仕方ない──という考え方をしているのだ。

 だが、何より許せなかったのは、フェレライの〝生命への冒涜〟である。それが、エルピスは許せなかった。

 相手は魔族。エルピスとてわかっている。が、それでも──


(許せないものは、許せない)


 そう、考えるのだ。


「…………ヘヘッ、やっとニヤケ面が取れたな」

「そんな事はどうでもいい」


 瞬く間。その少しの間に、エルピスは行動を完了していた。


「──は?」


 フェレライの肩から血が(したた)る。

 そしてその足元には、腕が転がっていた。


「……は? はぁ? い、いつの間に──」


 やはり誰一人、追えていない。

 シュタルクでさえも。


「……見えなかった。少しも……アイツが止まってから、ようやく……」

「私達の魔法で動体視力等の身体能力が大幅……どころかこれ以上ないほどに上昇しているというのに……ですか……」

「ああ。全く、何一つだ」


 エルピスは、フェレライの背後から動かない。

 何もかもを壊してしまいそうなほどの怒りを抱いているはずなのに、どこか冷静そうなのだ。


 ──どうしようもない怒りを抱いた時、彼の理性(こころ)は自動的に冷静に戻ろうとする。

 冷静沈着。仲間の犠牲程度じゃ揺るがない。そんな勇者の姿に戻ろうと。

 しかし、そんな事じゃ治まらない。彼の怒りは、義憤は。


「まっ、待て!! 待ってくれ!〝存在〟を食ったわけじゃない! 生命と記憶だけ……! 戻せる! 生き返らせるから!」

「…………」


 また、しかし。だからこそ、今の彼は最高の状態であるとも言える。

 冷静さと、激しい怒り。

 凪と嵐。そのどちらかではなく、中道。中庸。

 エルピスはこの状態を、自覚している。

 だから彼は──こう名付けた。


(なぎ)(あらし)


 静かに、激しく。自らが持てる全てを〝勇剣(ヴァルール)〟に込める。盾なんて使わない。

 ぶっつけ本番。たった今完成したその御技は──


「クッソォ──」


 フェレライの体を流れるように斬り刻み、生命を絶った。

エルピス大活躍! 喜べませんけど。

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