第50話 邂逅Ⅳ:Dragon×Dragon
さて、大怪獣対決が始まった。
「グォオオオオオオッ!!」
「グルォオオオオオオッ!!」
張り合う俺もおかしいと思うが、とりあえず咆哮がうるさい。
竜語(?)を翻訳すると、端的にはこうだ。
『来いやァアアアアアアッ!!』
『うるせーなァアアアアアアッ!!』
こんな感じ。
不毛な争いである。ちなみに竜語でも相手に伝わるので、『思念通話』とか使わなくても問題はない。
「グルルルルル……」
「アグッ、ググ……」
この強みがあったか──なんて、苦しみの中で考えている。なんとツォーンのヤツ、その長い体で俺の首に巻き付いてきやがったのだ。
ってか、本当に苦しい……。
『苦しいか? 苦しいかよ? ほらほら負けちまうぜ?』
…………。
俺のトラウマ掘り返しやがって……ゴミ野郎が……!!
《アヴ? どうして今更そんなトラウマを……》
苛ついて巻き付いているツォーンの体を引っ掻くと、その傷が焼けた。
……お?
これは……?
《……無意識で能力、使えたね》
これは画期的な成長なのでは!?
『テメェ……何しやが──』
『さぁね。でも、これで……!』
ツォーンに出来た焼け傷に触れると、更に傷が焦げた。ついでに燃えた。
「グォオオオオオオ────ッン!!」
絶叫し、俺の首から離れたツォーン。
作戦……ではないが、とりあえず成功である。
『ハッハーッ! 効いてやんの!』
『テメェ……やっぱぶっ殺してやる』
『やっぱ?』
『……お前が、〝竜〟だなんて思わなかったんだ。最初は、ただの狡賢い人間かと思ったんだよ』
『……それがどう関連するんだ?』
『オマエと殺し合うの、楽しいんだよな』
なんだコイツ、急に絆かなんかでも感じたのか……?
『ただ……テメェは人間側、俺は魔族側。殺し合うのが性ってヤツだ。だったら思う存分、楽しもうぜェ!!』
そう言いながら、火のブレスを吐いてくるツォーン。
……コイツも戦いを楽しむ派か。シュトルツと気が合いそう。
俺は迷いなく、『氷結吐息』を放つ。
『チッ、冷てェな……』
『衝撃、刃、炎、氷。俺の吐息攻撃は常に四択だぞ、気ィ引き締めろ!』
『厄介な野郎だ』
ただし、長引かせる意味はない。
炎、氷、衝撃、刃の順に放って、まず肉体をボロボロにする。
それから、人間態に戻る。同時に、黒銀蒼の竜剣も手にとって──
「持ってくれよ、黒銀蒼の竜剣」
剣に、炎を──。
纏わせた炎の温度はどんどんと上昇し、暗い赤色から赤、橙、黄、白、そして蒼へと変化する。
「蒼炎……蒼炎剣?」
『テメェ……何だ、そりゃ……?』
「さぁ? なんか……炎纏わせたら、こうなった」
ただ、温度が上がっただけだろう。何度なんだ?
《だいたい千六百度から二千度だね》
たっか!
これなら……本来の切れ味も相まって、ツォーンの体も簡単に焼き斬れるかも。
『チィ、もう戻るしか──』
「させねぇ!!」
せっかく的がデカいんだ。そのままでいてくれなきゃ困る。
角と尻尾、翼を生やし、飛翔する。竜にはならず、言うなれば〝竜人態〟の状態で──
『はァ!? テメェ、その姿は──』
「蒼刃」
すれ違い際、二連撃。
「グルォアアアッ!?」
ツォーンの体にできた傷口から噴き出す、紫色の血。
《……まさか無意識に、〝完成形〟への変身を可能にするとはね》
は?
《ボク達〝竜〟の中で、人間態と竜形態の中間……キミの言う〝竜人態〟というのは、ボク達の中で〝完成形〟とされる形。人間態よりも強く、竜形態よりも身軽。両形態のいいとこ取りが、その〝竜人態〟》
ほーん……。
ツォーンはなれるのか?〝竜人態〟に。
《いいや、なれない。なれる可能性があるとすれば──》
……ふーん。
だったら、たった今俺は大いなる優位性を得たというわけだ。せっかくの異世界転生だし、一度くらいこういうのがあってもいいと思ってたんだよね。
けどそうなると、『特化形態』は尻尾の有無だけのほぼ〝竜人態〟というわけじゃ……?
《そうだね。だからこそ、強かったんじゃないかな》
そういうわけね。
『……テメェ、なれたのか』
「いや、たった今初めてなった」
『とんでもねェ才能のバケモンだな。少なくとも俺が封印される時までには存在していなかった……。ここ千年で生まれた近代種の癖に、どうしてここまで強いんだろうなァ?』
ちょっと察し良くないか、コイツ?
《伊達に一万年を生きていないからね》
そうだった。
ちょっと馬鹿っぽくて忘れていたが、深罪はみんな一万年以上生きてるんだったな……。そりゃ、長年の経験もあって察しがいいのも納得だ。
「俺に聞かれたって知らねーよ!」
そう言いながら、『蒼炎』を纏わせた剣で一閃。
『グッ……ウ……。コ、イツァ……竜形態じゃ……不利、だな……』
ツォーンが人間態に戻った。力より速度を重視したらしい。
早く勝ちたいのに、コイツ無駄に頑丈なんだよな……。
「クソ、傷が残っちまった……。もし生き残れたら、百年は痛むかもな」
「嫌味かよ」
「褒めてんだぜ?」
早く勝たなきゃならねーってのに……。
ピリピリとした空気感が充満している。
先に動くのは──
「……やめだ、やめやめ」
「────は?」
「殺し合うのはもうやめだ。傷も痛むしな。けど、また殺しに来てやる。一旦退くぞ、トレークハイト」
「……いいのか? 自分を殺そうとしてきた奴だぞ」
「いいんだよ、珍しいモン見たしな。どうせ、俺以外の深罪ンとこにも向かうんだろ? だったら、ハープズフトには気をつけるんだな。アイツもなれるからよ。じゃあな」
一方的にそれだけ言い残して、ツォーンとトレークハイトは森の中に消えて──
「あっ、おい。この『結界』解けや」
……なかった。
そうだった、内向性の対衝撃結界張ってたから出られないんだった。
「はいはい。締まんねーな」
「お前のせいだろ」
なんで俺は敵と漫才してるんだろう? 全く理解出来ない。
「今度こそ、じゃあな」
「覚えてろよ。コイツも言ってるけど、いつか殺しに来るからな」
こんなに怖い「じゃあな」があっただろうか。最後まで怖い奴らである。
《消耗せずに済んだのはいいじゃないか。さ、それじゃあシュトルツのところに向かうよ》
それじゃあ、転移を──
《あ、それは無理かも》
は? なんで?
《彼も、周囲への被害に配慮して『結界』を張っているようだね。キミが使うのより遥かに高性能で、能力干渉も断ち切る効果があるようだ》
…………何してくれてんだ、あの野郎?
《自力で飛んでいくしかないね》
ちくしょうが……。
とりあえず〝竜人態〟に変身し、飛翔。
出来る限り急いで行くけど……これでシュトルツが割と余裕そうだったらどうしよう?
《まぁ、別にいいんじゃない? 勝率が上がる分には損なしでしょ》
それもそうだな。
《ところで、キミ〝超炎熱化加速推進〟は使わないのかい?》
……あっ、確かに。
なんで忘れてたんだろう? 最初から俺が消耗している前提だったからか?
《さぁね》
というわけで、空中で燃え滾る竜に『変化』。同時に尻尾も生えた〝竜人態〟──〝灼熱竜人態〟になった俺は、空中で熱の蓄積を開始する。液体魔子は使わない。今回は、魔子を変換した〝熱子〟を、直接。
「超炎熱化加速推進──」
待ってろシュトルツ。
すぐにでも──
思ったよりツォーンの事が好きになって残しておく事にしました。多分完結後は頻繁にアヴと遊んでると思います。




