第48話 邂逅Ⅱ:OverLay Soul
ルディアの頭を、温かな光が包み込む。リーベにかなり厳しく教え込まれているので、多分間違いはない。キチンと、治っているはず──
「……ルディア」
「アヴ……」
ああ、良かった。
この呼び方をするのは、俺が知るルディアしかいない。
というか、あー……ツォーンの魔力解放で〝石室〟が完全に壊れている……。天井ぶち抜いて空が見えていた。
「……ボク、忘れていた。キミの事、何よりも大切な、キミの事……!」
「ああ、ああ……。想い出してくれて、ありがとう」
「キミのお陰だ。キミが、諦めなかったから……」
「俺は何もしていない。ただ、歩いていただけ。風が導いてくれた。風がね」
本当に、俺は何も出来ていない。俺がした事と言えば、ただ、誰かのために動いただけ。シュトルツに頼まれたから、成り行きで。
でも結果的に……こうして再会する事が出来た。だから、運命には感謝しなくちゃな。
「でも……やっぱり、上手くいかないね」
「──え?」
「見えていないね、これ」
ルディアが、自分の鳩尾を指差した。
──そこには、俺がツォーンに向けて放ったものと思われる〝砂岩砲〟が。
一気に、血の気が引いた。
俺は、最低限の治癒しか出来ない。ルディアの脳を治す事にだけ特化し、そこだけを拘っていた。身体損傷は専門外。
それが、完全に裏目に出ていた。
「や、いや、そんっ、そんなっ、そんな……」
「キミのせいじゃない。咄嗟だったんだ。ボクも……そんな可能性までは、思いつかない。……よく聞いて。ツォーンは、魔力解放の衝撃波を放つ代わりに今は長い時間をかけて全身の治癒中だ。それが終わるまでに、ボク達は全快しないといけない」
余裕そうに振る舞っている。
けど多分、相当痛い。痛いし、辛いだろう。こんな傷を負ったら、俺だって痛いし辛いし怖い。
「手はある。キミはボクに、身を任せて。キミとボクの間にある〝廻廊〟を介して、ボクとキミを『融合』させる」
「────は? それ、って……」
「大丈夫。ボクの自我は死なない。キミの中で回復したら、多分外にも出られるさ。それにこれは、二人のためだ。ボクはキミの中で回復する代わりに、ずっとキミをサポートする」
ずっと一緒だ──と、ルディアが呟いた。
ずっと、一緒。なら、もう怖いものなんてないんじゃなかろうか?
二人なら、どんな状況だって打開出来る──そんな気持ちにさせてくれる言葉だった。
「──ノった、その手!」
ルディアの手と俺の手が重なる。
──今この瞬間、魂重ねて──
◇◇◇
力が漲る。
何か変わったのだろうか?
感覚は……変わってない。手を開いて、閉じて……。力も、ちゃんと入る。体の所々にあった傷は……消えている……。
消費した魔力も元通りになっているぞ……?
「な、なんだァ、テメェ? さっきまでと違ェじゃねーか!」
そういえば魔力の限界量も増えている。大慌てでレアスキル『俯瞰』で視てみた。
もう〝自然を統べる竜〟に戻っているが……どこかおかしい。右目が青くなっている。ルディアを思わせる、どこまでも深い青に。しかも前髪には、ルディアのような灰色のメッシュが入っているじゃないか。
《驚いたかい?》
ああ、めちゃくちゃ度肝抜かれたよ……。本当に『融合』してるんだな?
《そうだね。今のキミは、言うなれば〝自然を統べる原初の竜〟……長ったらしい名前だけど、そんな感じになっているんじゃないかな? とりあえず今は、『神速思考』を発動した状態で会話しよう》
オーケー。ってか、本当に融合してるんだ……。
《うん。だから、ボクの権能の一部を貸し与えるよ。ボクの、『万物創造』をね》
急にえぐい権能出てきた……。
そんなモン持ってたのかよ?
《ああ。でも、守る物が少ないボクじゃ、宝の持ち腐れだ。キミが扱う方が、よっぽど強いだろうね》
その自信はどこから来るんだか。
とりあえず、シュトルツ主導で〝深罪討伐〟が進められてる。それで俺は、〝憤怒〟のツォーンと戦っているわけ。シュトルツはハープズフトと、リーベはヴォルストと。で、勇者エルピスさんのチームがフェレライと戦ってる筈。
んで重要なのが……俺は、即座に目の前の奴に勝ってシュトルツの加勢に行かなくちゃならない。
《そういう事情があったんだね。記憶がないにしても、キミの所に導かれたのは運命だったのかも。けど、要らないものも取り寄せてしまった》
要らないもの?
《まだ視界に入っていないんだろうけど、この場には〝怠惰〟のトレークハイトも来ている。最悪だね。防御役に徹する事が出来るトレークハイトと、攻撃一辺倒なツォーンが組んでしまった》
ああ、そりゃ厄介だ……。
《けど安心して。キミの〝最後の力〟を、ボクが引き出してあげる。それを加えた持てるモノ全て出し切れば、十分に勝てるだろう》
おっ、キタキタっ!
《引き出すのは〝土・風〟属性で──》
あ、〝土〟属性は大丈夫。
《え?》
自分で引き出して、自分で力に昇華したんだ。褒めてくれ。
《え、え? 凄いね。成長したんだね、ボクがいない間に》
いない間って言ってるけど、そこまで間空いてないから。結構すぐ再会出来ただろ。三日ぐらいは……経ってるかな?
《まぁいいや。すぐにでも、〝風〟属性の力を引き出すよ!》
よぉし、任せた! 時間稼ぎはしておく!
「……ルディアが、消えた? 何が起こったんだ? というか、記憶は……?」
「流石に困惑するよな。まぁ、言うわけないけど」
「カンケーねぇ!! ブッ殺すだけだァ!! おいトレークハイト、協力しろや」
「当たり前だろ」
二人とも構えたぞ……? ルディア、まだ?
《もう出来るよ》
早くしてくれ、ボコされる前に!
──そう願った、その時だった。
一陣の風が吹く。その風は、俺を中心に渦を描いている。
その風が自分の体に染み込んでいくような一体感を感じながら、俺の体が『変化』するのを感じる。
レアスキル『俯瞰』で見てみると、髪は翡翠色の長髪で、灰色のメッシュが入っている。瞳の色は左が萌黄色で右がどこまでも深い青色。
オマケに、側頭部から緑から紫にグラデーションする一対の角が生えていた。
《キミはこの姿を何と名付ける?》
うーん、そうだな……。
〝風〟の拡張概念だから──吹き荒ぶ竜とか?
《いいね! それじゃあ、思う存分暴れよう。シュトルツが待っているんだろう?》
おう! ──と内心で答えた俺は、とりあえず良くわからないまま能力を発動した。
ツォーンが向かってきている。ルディアが『神速思考』というレアスキルで一秒を一万倍に引き伸ばしていたので、もうホントに止まって見える。文字通りだ。
《準備は出来たかい?『神速思考』を解除するよ》
よぉし、ばっちこーい。
っと、時間感覚が戻った。唯一おかしかったのは時間感覚だったな──じゃなくて。
「なっ!?」
「フッ」
向かってくるツォーンの拳を受け流し、後頭部に大気圧縮断切をぶちかました。
「がっ……てっ……めぇ!!」
「ヘッ、そんなもんか、〝憤怒〟の深罪も」
「余裕かよ」
あ、そうか。ツォーンだけじゃないんだった。
えーっと、どうするのがいい?
《キミの新しい能力を使ってみよう。キミの能力は風を拡張した『斬撃』らしいね》
斬撃? つまり……ああ、俺の中で『風』のイメージが〝大気圧縮断切〟になっているから、必然、『斬撃』になるわけかな?
《その通りだ! やっぱり、キミは飲み込みが早いね》
経験だよ。
名を冠するとすれば──『疾風刃波及』かな。
《いいじゃないか。無意識的に能力効果を知覚出来ている証拠だ》
「うるぁああっ!! 死ねェェェ──ッ!!」
ちょっと、説明タンマ。
ツォーンがヤバイ。今までは回避に徹してたけど、気ィ抜いたら殺られる。
《四肢の主導権をボクに渡してくれれば、全自動反撃出来るよ》
どんだけ便利になるんだよ、お前と融合すると。
《不可能はないね》
それが誇張なしだから怖いぜ、まったく……。
それじゃあ、主導権を渡す。渡し方わかんねーから、奪ってくれ。
《了解》
「おるぁああ──って、あ?」
「ほっ」
ツォーンが放った拳を掴み、ねじり、引いて受け流し、顔面に腕で横薙ぎ。
「ごはっ……」
「おお……ガチで全自動だ……」
《正しくは、ボクが動かしてるだけだけどね》
そういうわけか。
それじゃあ改めて、俺の『疾風刃波及』について、詳しい説明を頼む。
《よし、いいだろう。キミの能力は──》
────そういうやつね。
全自動反撃解除! こっからは──
「チィ、何から何まで違ェじゃねーか……」
「真の、反撃開始だ」
レアスキル『俯瞰』は、三人称視点の『魔力探知』を多用した先にあるレアスキルです。お手軽に『三人称視点化』が可能であり、とても便利です。
『サイクロンエフェクト』の説明ぼかしてますが、次回書きます。




