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第47話 邂逅Ⅰ:Missing Link

 ──目の前には洞窟のようなもの。御札みたいなものも貼ってあって、正直言って気味が悪い……。


「ここが、例の〝憤懣(ふんまん)の石室〟ねぇ……」


 そんな事を思いつつも、足を踏み入れてみる。


「えっと、中心に『封印』の魔法陣が──って、あったあった」


 石で出来た部屋のような空間の中心に、巨大な魔法陣があった。本当に大きくて、入口に立ったらもう魔法陣の線に触れてしまいそうである。


「これの線を一本でも塞ぐと封印が解ける……んだっけ。結構……てかかなりギリギリの封印だったんだな」


 千年経ってこれなら、実力としても結構ギリギリだったのかもしれない。当時は不意打ちで、ズル封印みたいなもんだったらしいし、真っ向からだと……とシュトルツが心配するのも頷ける。

 勿体ぶっていても仕方ないので、すぐにでも討伐を始めよう。待たされるシュトルツも可哀想だし……っと、その前に。


「内向性対衝撃結界(アンチショックバリア)っと」


 事前に学んでおいて良かった。実は、リーベに教えてもらっていたのだ。この結界は『音』も閉じ込めてくれるので、戦闘が外に認識されづらいという強みもあるので、使っていて損はない。

 さてさて、〝石室〟の前に来た瞬間から燃え滾る竜(ボルケーノドラゴン)になっていて、ずっと熱を溜めている。初手瞬殺狙って、行きますか。


「さ、始めるか」


 思わせぶりにそう呟いて、魔法陣の一番手前の線を一気に消してやった。

 すると──


「言うなればボス戦……そんなスリルがあるね」


 魔法陣の中心にあった石柱が砕け散り、その中から金色の髪の青年が現れた。


「……やっと解けたのか」

「解けた? 解いたんだよ」

「……お前、誰?」

「俺はアヴラージュ。お前を今からぶっ殺す奴の名前だ」


 どうせ戦うんだし、敵対心マシマシでもいいだろう。


「……気に入らないな。寝起きのストレッチにはちょうどいいだろうし、お前から殺してあげるよ。その後に近場の人間を鏖殺してやる」

「こっちだって気に入らねーよ」


 かくして、戦いが始まった。

 先手は俺。背中から出した噴出口(マフラー)から液体魔子を勢いよく噴出し、加速。今回は地上戦なので、蹴りである必要はない。なので──


極熱赫灼拳打(ボルケニックナックル)──ッ!!」


 拳で十分。脚の方が威力は出るが、地上戦なのでね──って、あら? あらららら?


「────受け止められるとは、思わなんだ」


 速度も減衰してしまい、そのまま投げ捨てられてしまった。


「俺も、思ったより速くてびっくりした」


 嫌味かよ、クソが──なんて思いながらも、震い割る竜(クエイカルドラゴン)に『形態変化(トランス)』して構え直した。

 今のは一応、瞬発的に最高効率になっていた筈の超炎熱化加速推進バーニングアクセラレーション……。それでも超灼熱熔化加速蹴撃ボルケニックアクセラレーションの速度には達していないが、十二分に速いはず……。

 初見殺しで余裕──なんて思っていたのに、まさか対応されるなんて思ってなかった。シュトルツにも通用したからって、ちょっと甘く見すぎていたのかもしれない。


「また姿が変わった……。何だお前、何なんだ」

「……話すと思うか?」

「思わない。だから、痛めつけて聞き出す──!」


 そこから、ツォーンの怒涛の攻撃が始まった。基本的には殴打一辺倒だが、一撃一撃が重い……!


砂岩手(ストーンハンド)!」


 とりあえず、まずは拘束。巨大な岩の手を幾つも作り出し、ツォーンを握り潰して圧殺しようと試みる。

 ──が。


「グギギギギ……何だよ、何なんだよ、これェ……!!」


 ……押し返される。

 だったら──


「〝衝撃浸透〟──土震衝波浪(グランドフォース)!!」


〝震動〟と〝断裂〟が伝播・振動するので岩の手も壊れてしまうが……それでも、ダメージは大きいだろう。


「ゴッハァッ──っ!?」


 砕け散った岩の手の中から出てきたツォーンは、全身の皮膚がひび割れ、そのひびから紫色の血が吹き出している。

 大ダメージあり! このまま攻めきって──


「クゥソォがァ──────っ!!」


 あ、やっべ!


「クソが、クソが、クソがクソがクソがクソがクソがァ────っ!! 俺の体にこんなキズをつけやがって! (いて)ェよ、(いて)ェぜクソがァ!!」


 め、めちゃくちゃキレてる……。

 ってか、マジでヤバいぞ……どんどん魔力量が上昇してる。でも、『力』の認識が『魔力』ってわかっただけでも十分か……負けたら終わりだが、負ける気はない。

 そして、どんどんと全身の傷が治っていっている。それは許容出来ない。


砂岩大魔砲(ストーンキャノン)!!」


 今度は岩の砲弾を四発。一発一発がデカいので最大四発しか同時生成・発射出来ないが、やはり威力は折り紙付き。

 (プラス)で、少し器用な事もしている。

〝石室〟の壁から切り取った岩を整形して作った〝砂岩砲〟には、シュトルツやツォーンの魔力が千年かけて染み込んだ〝魔力岩〟になっている。『能力効果』を自由に付与する事も、実は可能。

 なので、俺は〝砂岩砲〟の一発一発に『震動』と『断裂』の効果を加えた『爆弾』とし、着弾すると『能力効果』を発揮するように設定しているのだ。

 つまり、防御手段はナシ。当然〝衝撃浸透〟の効果もあるのでね。ダメージを無くす手段は、〝回避〟しかないというわけだ。

 はてさて、ツォーンはどうするのかな?


「全部ブッ壊してやるよ!! テメェも! 人間もォ!!」


 あっ、引っかかった。

 ツォーンは本当にブチギレていて、そういう『解析』とかも出来ないようだった。なので、俺の罠に嵌る。ツォーンは、俺が放った〝砂岩砲〟を殴って破壊しようとしていたのだ。


「なっ──ゴフッ──」


 ツォーンの拳が砂岩砲に触れた瞬間、俺が仕込んだ『能力効果』が炸裂するのを感じた。ヤツの体内に、凄まじい『震動』が響き渡る。内部で炸裂した衝撃が、ツォーンの全身を破壊していた。


「ゴハッ、ゴボッ、ゴパァ──っ!?」


 よぉし、全弾命中。

 容赦はない。このまま攻め立てる!

 ──その時、〝石室〟の入口から一陣の風が入り込んだ。

 なぜかわからない。わからないけど、俺は咄嗟に、そっちを見てしまったのだ。

 そこには──一人の、青年がいた。


「おいっ! アンタ、なんでこんな場所に──」


 どうして戦場に人がいるんだよ!!

 視線の先にいる青年は、逆光のせいでよく姿が見えない。ただ──


「────っ」


 見覚えのある、()()()()()()()()()()()だけが、燦然(さんぜん)と輝いていた。


   ◆◆◆


 時間は少し巻き戻り、青年とツォーンの戦いが始まる少し前。

 記憶を失ったルディアとトレークハイトが、青年を尾行していた。


「アイツ、〝石室〟に真っ直ぐ向かっているぞ……」

「…………」


 ルディアは黙っている。


(彼を見ていると、心の中で何かが引っかかる。守ってあげたくなるような、そんな、変な何かが──)


『おい、ルディア?』

『え? あ、ああ、ゴメン。それで、彼は?』

『依然、進むのをやめないぜ。どうやら、たまたまこっちの方向に来ているわけじゃあないようだ』


 二人は、会話がバレるのを懸念して常に『思念通話』で会話していた。そのお陰もあってか、未だ青年にバレてはいない。


『そうこうしてる内に〝石室〟に着いちまった……。アイツ、何を企んでいるんだ?』

『わからない。けど、〝視〟ていなくちゃいけない──と思う』

『わかってるよ。同僚の危機なんだからな』


 青年が、石室の入口に立ったと同時に姿が変わった。彼の作戦が始まった瞬間である。


『本当に何なんだ、アイツは? 同じ概念竜に、アイツのように〝人間態で姿が変わる〟奴なんていたか?』

『……いや、いなかったと思う。彼は、何かが違う』


 そんな事を話し合っている間に、青年が〝憤懣(ふんまん)の封印〟を解いた。


『封印を……解いた!? アイツ、一体何が目的なんだ!?』

『わからない。再封印か、討伐か、それか協力者なのか……』


 しかし二人とも、〝彼はツォーンと戦おうとしている〟というのは内心わかっている。

 彼の背中を見ていたルディアは、自身の変化に更なる違和感と困惑を抱いていた。


(彼は一体何なんだ。どうして、どうしてボクの心をここまで揺さぶる!!)


 不可解な心の動きに戸惑い、苛立つ。

 そしてルディアは、その違和感を解消し、原因を究明するために、強硬手段に出た。


 一歩踏み出す、ルディア。


「おい、ルディア? 行くなよ、待てって」


 背後からトレークハイトの声が聞こえたが、ルディアの耳には届かない。一歩、また一歩と歩みを進めていく。

〝石室〟の中では、青年とツォーンが戦いを始めている。それを間近で見て、彼の姿を、力を、瞳を、しっかりと〝見る〟ために、石室の入口に近づいていく。

 覗き込むと、青年が放った岩の砲弾が、ツォーンを貫いていた。しかも、全身がひび割れ、血を流している。


「なっ、アイツ……!」


 慌てて追いかけてきたトレークハイトも覗き込み、咄嗟にツォーンに加勢しようとした。それは、同じ深罪(しんざい)として当たり前の行動だろう。ルディアにも、止める意味と理由はなかった。


「待って」


 ──なかった、のだが。


「……は? どうした?」

「…………もう少し、見ていよう?」


(ボクは……急にどうしたんだ? どうしてこんな意味のない事……)


 困惑しながらもトレークハイトを下がらせ、もう一度青年を見据えた。

 すると──


「おいっ! アンタ、なんでこんな場所に──」

「────っ!!」


 目が合った。

 ルディアは目を見開き、目の前の青年もまた、目を見開いた。

 目の前にいる青年の琥珀色の瞳が、一瞬──潤んだ気がした。


   ◆◆◆


 ああ、ああ──っ!!

 見紛うハズもない。だって、だって、今、今目の前にいるのは──っ!!


「余所見するたァ、余裕そうだな!!」


 背後からツォーンの叫び声が聞こえる。しかし、今はそんな事どうでもいい。俺が唯一、今唯一目を引かれるのは──


「キミッ!!」


 ルディアが俺に走り寄ってくる。

 視線の先は俺ではなく、俺の背後にいるツォーン。

 ──流石に、意識を離し過ぎたか……。

 慌てて振り返った時にはもう遅く、ただ──背後にいるツォーンの魔力が、立ち昇る炎のように肥大化したのが見えただけ。

 そうして暫く時が経ち──俺の視界を、眩い閃光が包み込んだ。


   ◇◇◇


 ──一瞬、意識トんだ……。

 前は……見えない。暗い……。

 ただ、外の光は入り込んでくる。目が潰れたとか、そういうわけじゃないらしい。痛みもないし、それは明白なんだけれどね。

 しかし……何が起こったんだ? 背後で、ツォーンの魔力が膨れ上がるのは見えた。もしかすると、魔力解放か? それだけでこの破壊力って……。ちょっと、怒らせ過ぎたのかもしれん……。


「……無事、かい?」

「…………お前」


 ルディアが、俺の上に覆い被さっていた。

 ──ああ、思い出す。シャムと戦った、二回目の時も、こうやって庇ってもらったっけ。

 ずっと、助けられてばかりだな、こう思い出してみると。どんな時も、傍で支えてもらっていた。おんぶに抱っこだったわけだ。

 そんな俺が、今度はルディアを助ける。いや、助けなくちゃならない。だから、探した。果てしない不安にも駆られたし、ルディアがいなくちゃって、何度も考えたさ。


「────やっと、見つけた」


 もう二度と、手放さない。

 神に祈りを──


「──欠損部再生(リジェネレーション)

やっと再会しましたよ。

ずっとぼろぼろですねこの二人。

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