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第46話 往訪Ⅳ:配属先と作戦を決めよう

「さて、それじゃあ改めて、〝憤怒〟のツォーンを誰が討伐するかだけど……」

「アヴラージュの発想が本当に恐ろしい。要らぬ心配が増えてしまった」

「ご、ごめんよ……」


 なんか、本当に申し訳ない……。

 でもさ、これで認識に齟齬があって、実のところ俺が言ったような効果だった場合の被害が減るかもしれないじゃん? ──と、正直に伝えてみた。


「そこなのだ。考え方が間違っていないから、尚の事厄介なんだよ」

「あははっ、やっぱり面白い人だね。じゃあ、これはどうかな? こんな発想をするなら、対処だって出来るだろう? かと言って、まだ『可能性』の域を出ない君に、〝強欲〟のハープズフト討伐は荷が重い、そうだね?」

「まあ、そうだな」


 あら? あらららら?

 こっれはちょっと不穏じゃないですかね?


「そういうわけで、ツォーンの討伐はアヴラージュ君に任せようと思うんだけど、どうかな?」

「どうかな? じゃないし! どういうわけだよ!?」

「こんなおっそろしい発想を出したのは君だ。ツケは払わないと」

「そういう問題なの!? もうちょっと強い人がやった方が……」

「安心しろ。お前は十分強い」


 普段なら嬉しいけど今の状況からすると一ミリも嬉しくない……!!

 まあ仕方ないか──とは思えないが、二人からの圧が怖いため了承する事にした。


「はぁ……まぁ、わかったよ。じゃ、〝憤怒〟のツォーンは俺が当たるとする。問題は……〝強欲〟のハープズフトだろ?」

「……シュトルツ、彼に深罪の権能は伝えたの?」

「ああ。権能効果から封印場所まで、事前に伝えてある」

「通りで話が早いと思った。そうだね、問題は確かに、ハープズフトだ。けど──」

「ハープズフトには、オレが当たるとしよう」


 !?

 シュトルツさん!?


「お前……いいのか?」

「? いいも何も、オレの因縁だ。一番の責任をオレが負うのは、当たり前の事だろう?」


 うーん、そう言われたら言い返せない気も……。


「ただ、オレだけで勝つのは不可能だ。少なくとも、誰かもう一人は増援がほしい」

「うーん……ちょっとさ、場所移さね? この話し合い、どうも俺達三人で決められるようなものじゃない気がする」

「……それにはオレも賛成だ」

「僕もそう思うね。でも、どこに行くんだい?」


 それは……俺も、思ったけど……。

 流石に、こんな街の喫茶店で大人数で話し合うわけにはいかない。

 かと言って、そんな都合の良い場所があるわけ──って、あ!


「シュトルツが作る『仮想異空間』はどうだ?」

「………………」


 うわぁ、すっごい嫌そうな顔。

 なんでだろう?


「……何か問題でも?」

「あのな、『仮想異空間』ならって簡単に言うが、かなりエネルギーを食うんだぞ。ただでさえ、『空間創造』というのは難しいんだ」

「そこは、空間の範囲というか、広さを抑えればなんとか……」

「……まぁ、いいだろう」


 あれ、もしかしていい案だった?

 ……そうか。シュトルツは、誰かと戦う時しか『仮想異空間』を作って来なかったんだな? 戦闘狂だし、有り得そうだ。その場合、それを作ってその中で戦わなくちゃいけない相手って事で、当然広く作る必要もある。広さを削減するという発想がないのも納得だ。

 なんて事もあり、俺達は一旦場所を移して話し合う事にしたのだった。


   ◇◇◇


 場所は移って、シュトルツが作り出した『仮想異空間』。今回はリーベに手伝ってもらったとかで、消費魔力も削減出来ているらしい。

 なんというか、アニメで見る〝作戦室〟のような雰囲気である。空間(へや)の中心にはテーブル兼モニターがあり、地図が映し出されていた。


「凄い、それっぽい雰囲気だな」

「……(うち)を真似てみたんだが……どうだ?」

「いい趣味してるぜ、ホント!」


 ちょっとテンション上がってきた。

 見てみると、地図には五つの点があった。

 点が指しているのは〝石室〟である。


貪婪(どんらん)怨羨(えんせん)憤懣(ふんまん)渇愛(かつあい)悪食(あくじき)……五つの石室だね」

「あった方が便利だろう?」

「空間創造って、こんな便利な事まで出来るんだな」

「基本、想像力だ。物理法則には囚われてしまうが、その範疇内であれば大体何でも出来る」


 そうなのか異世界。

 それでいいのか異世界。


「まぁ、それはいい。さっさと作戦会議を始めるぞ」

「とりあえず、〝強欲〟のハープズフトはシュトルツが担当する……って事で、みんな、いいね?」


 仕切るのはエルピスさんでいい。俺は従うだけでいいし、俺が仕切っても変になるだけだしな。ここは、意見を出すだけに留めておこう。


「俺は異論なし! ただ、誰かの増援がほしいらしいけど?」

「……オレとしては、アヴラージュが一番いいな」

「なんで俺!?」

「多分、お前がオレ以外の中で一番強い」


 うーん、嬉しいんだけどね、その信頼は。まぁ面倒とか言ってる場合じゃないのは承知なんだけど……なんか、エルピスさんの方が強い気もしなくもない。


「まぁ……否まないでおこう。んで、〝憤怒〟のツォーンは俺が。残った〝嫉妬〟のナイト、〝色欲〟のヴォルスト、〝暴食〟のフェレライ。この三人を誰が担当するか──」

「いいでしょうか」


 おっ?

 リーベが自ら意思決定とは珍しい……。いつも『残り物でいいよ』ってタイプだったのにな。


「どうぞ」

「〝色欲〟のヴォルストは、わたくしが相手をしても宜しいでしょうか?」

「……どう?」

「オレは構わん」

「僕達〝(ゆう)()〟は残り物でもいいかな。どれが弱いどれが強いなんて決められないし、僕達なら多分、ほぼ全員に勝てるしね」


 なんという自信でしょうか。これは慢心か、それとも永劫を生きた経験からくる自信か……。どちらかは知らないが、信じてみてもいいかもしれない。


「ありがとうございます。ヴォルストの能力は強力ですが、トレークハイトと同じく攻撃性の能力ではない。わたくしでも、『本質反転(アンヴェルシオン)』すればすぐに対処可能ですわ。それに……」

「それに?」

「わたくし……許せないのですよね。情欲を〝愛〟と言い張る、ヤツの性根が。〝愛〟を司るわたくし、リーベ・フリューリングの誇りにかけても、〝色欲〟のヴォルストだけはわたくしの手で引導を渡したいのです」


 お、お、おう……。

 なんだか、凄い殺意を感じる……。

 並々ならぬ執念を持っていそうなので……ここは、任せるのが良いだろう。


「じゃ、じゃあ、任せるよ」

「ありがとうございますわ♪」

「ついでに、リーベにはアブーリアも着いていった方がいいんじゃないか?」

「うん? それはどうしてかな?」

「一応さ。多分、リーベの手の内は知られているだろうし」

「けれど、ヴォルストに対して人間を連れて行くのはリスクなんじゃないか?」

「コイツは魔人だ。が……確かにそうかも。うーん……どうしようか……」


 これもこれで問題だな……。


「あの」

「はい、リーベ」


 挙手したリーベに、エルピスさんが振る。


「ついでですわ。〝嫉妬〟のナイトも、わたくしが担当しましょう」

「いいのかい? 連戦になりそうだけど」

「〝怨羨(えんせん)の石室〟はプリティヴィエの北西。ヴォルスト戦が早く終わるという前提ですけれど、すぐに『転移』出来ますから。アブーリアがわたくしの増援として来てくれるなら、ヴォルストとの戦いが終わるまで〝怨羨(えんせん)の石室〟で待機、というのはどうでしょう?」


 おお、これなら問題はないはずだ。


「これでいいんじゃないか?」

「ダル……待たないとダメなのかよ」

「間違っても一人で挑もうとしないでね、多分負けるから」

「……言われなくてもわかってる」

「ウフフ♪ 本番が楽しみですわね♪」


 ルンルンだな、リーベ……。なんかシュトルツもエルピスさんも、『リーベの知らない一面を見た』って感じの表情をしているし……軽く恐怖すら抱いていそうである。

〝美人は怒ると怖い〟というのは、どの世界でも共通らしかった。


「そして、そうなりますとエルピスさん方が当たるのは……」


 あ、フェレライになっちゃうわけか……。

 実を言うなら、ツォーンよりフェレライの相手の方が嫌だ。万が一があると……本当にマズ過ぎる。

 そうだ、これは確認しておかなきゃ。


「なぁ、シュトルツ」

「何だ?」

「フェレライのさ、『暴食の泥沼(グラトニーマイア)』ってさ、『手』で触れたものが能力効果範囲内なのか?」

「む? ああ、そうだが?」

「……エルピスさん達……というか、俺達の中で攻略出来る奴っているの?」


 いないよね? ──と、そう思ってしまったのだ。


「……うーむ、難しいな」

「だよね?」

「だが、案外とエルピス達なら勝てるかもしれないぞ」

「僕達で? それは、どうしてだい?」

「フェレライは基本的にかなり幼稚だ。知能も人間の子供レベルで、短絡的で短気で、しかもコンビネーションに対し非常に弱い」


 ああ、そういう事ね。

 俺やシュトルツのように、1on1(ワンオンワン)の方が強い……よりも、四人で一組のコンビネーションを売りにしている冒険者チーム……その中でも最強の勇者パーティともなれば、フェレライに対して特効にも等しい効力を発揮するかもしれない……というわけね。


「四人一組のコンビネーションを売りにしているエルピスさん達は、フェレライに一番勝てる確率が高いわけね」

「そういう事か……封印当時、僕達が手伝ったのはハープズフト戦だけだったからね」

「絶えず強化(バフ)と回復、アインザッツとお互いを回復し合うのを繰り返す魔力消費地獄はもう二度と味わいたくないものです……」


 あ、ラインハイトさんから愚痴が飛び出した。アインザッツさんもコクコクと頷いている……。

 かなり大変だったんだなと、他人事にもそう思ってしまうのだった。


「フェレライは本当に幼稚だから、エルピス達でも十分に対処可能だろうさ」

「だといいんですが……」

「ただし、触れられると普通にアウトだ。フェレライの『手』には、十二分にも気をつけるように」


 しっかりと念を押している辺り、精神性は別としても権能は本気(マジ)でめちゃくちゃ厄介なんだろうな……。


「まとめるぞ。〝憤怒〟のツォーンの相手はアヴラージュ、〝色欲〟のヴォルストの相手はリーベがして、決着(ケリ)をつけ次第、アブーリアと合流して〝嫉妬〟のナイトと交戦して貰う。〝暴食〟のフェレライの相手はチーム〝(ゆう)()〟にしてもらい……〝強欲〟のハープズフトにはオレが当たるが、アヴラージュは決着がつき次第コチラの増援に来てほしい」

「マジか……」

「こればかりは頑張ってほしい」

「……善処します」


 これこそ、前世で学んだ処世術。『出来るだけ頑張りますよ』という意思表示はしておいて、責任からは逃れる術なのだ。


「……本当に頼むぞ。もしオレが負けたら終わりだからな」


 責任の増強に来ましたか。逃げられなくなっちゃったよ。


「わかったって。その代わり、最善の時間稼ぎを頼むよ?」

「フッ、任せておけ」


 ──こうして、対深罪(しんざい)の作戦が決定したのだった。

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