第45話 往訪Ⅲ:勇者一行
そうこうしている内に、陸地が見えてきた。
『そろそろだ、備えろ』
うん?
備えろって、何に──
そう聞こうとした次の瞬間には、俺は空に投げ出されていた。
「──は?」
「透明化しているとはいえ、着地の衝撃や砂煙まで消せるわけではない。翼を出せるだろう。済まないが、自力で着地してくれ」
嘘だろ……?
こ、こっ、この──
「こぉの無責任ヤローーーーーっ!!」
「手軽にゲルドバード大陸に辿り着けたんだ! 文句を言うな!!」
クソ、んな事ぁわかってんだよ……。
内心でボヤきながらも、仕方なく竜の翼を展開して海に面した岩場に着地する。魔人だが、翼など出せないアブーリアはリーベに抱きかかえられていた。
ちょっと嬉しそうである。なんとも羨ま……けしからんね。
「……不可視化を解きますね」
魔法を解除したらしい。魔法をかけてもらった時も解除された時も感覚はほぼないので、わざわざ言ってくれるのはありがたい。
──そんな、呑気な事を思ったのも束の間だ。
「────何奴っ!?」
ちょっと大きめの火球が目の前に迫っていた。
それを、リーベが物理法則を書き換えて消し飛ばしてしまう。
リーベが対応したその異常現象を目にし、全員が戦闘態勢を取る。俺は黒銀蒼の竜剣を、リーベは謎の巨大な鎌を、アブーリアはリーベ程ではないにしろ巨大な鎌を手に取っていた。
「……放った魔法が消えた。一体、何者?」
目の前に現れたのは、桃色の髪をツインテールに纏め、薄紫色の瞳を併せ持つ少女のような存在。が、見た目通りの年齢とは思えない。
何より──側頭部から生えるのは、一対の禍々しい山羊の角のようなもの。竜形態のシュトルツに生えていたものにも、似ている。
そして、実際に現象が引き起こされるまで悟らせなかった卓越した魔法隠蔽技術。後は、ただの人間とは思えない程大きな魔力。間違いない、魔族だ。
「お前、魔族か」
「し──」
何を言おうとしたのだろうか?
それを言い終わる前に、凄まじい衝撃が少女の魔族を包み込み破壊した。それが魔法によるものなのか、はたまた別のものなのかはわからないが……とんでもなくヤバイ奴なのは間違いない。
警戒態勢は続行──って、あれぇ?
シュトルツ、完全に体から力抜いてない? 戦闘態勢、解いちゃってるんだけど……。
ドユコト……? シュトルツが無駄な事をするような性格にも思えないし、そんなすぐに油断する奴じゃないし……。
なんて考えている内に、立ち昇っていた土煙が晴れた。
そこから現れたのは──
「やぁやぁ、済まないね、急に驚かせて」
緋色の短髪と眩い金色の瞳を持つ、整った顔立ちの美しい好青年だった。かなりのイケメンである。俺が元いた世界にいたなら、俳優とかそういう仕事をしていそうである。あとはアイドルとか。
ただまぁ、ルディアの方が美形だよね。アッチは〝人外の美〟って感じだけれども。
「大仰な挨拶だな、エルピス」
「いやいや、こんなの挨拶ですらないよ。それより、久しぶりだね。〝誇り高き戦士〟シュトルツ」
「その呼び方はやめろと言っているだろう、〝勇者〟エルピス・アンドレイア。……本当に久しぶりだな」
何やらシュトルツと青年が仲睦まじそうに会話を交わしている……。というか、青年を〝エルピス〟と呼んでいたぞ……?
となるとつまり、もしかするとこの青年が──
「……貴方が、勇者?」
「うん? 君とは初めましてだね。如何にも、僕が人類最強の〝勇者〟エルピス・アンドレイアだとも」
この人が、勇者……。
「エルピス、急に進まないで。私達は貴方ほど速く移動出来ないんですから……」
「俺は出来るぞ」
「脳筋バカは黙っていてくださる?」
今度は、次々と人が現れた。
ヴァイキングのような兜を被った、小柄な男。
水色の長髪の上に魔女の帽子を被り、オマケに魔法使いのローブを纏った少女。
聖職者の修道服を着ていて、頭巾から美しい金髪と長く尖った耳を覗かせる美女。
貰っている情報と当てはめていくなら、小柄な男がシュタルク、魔法使いがラインハイト、聖職者がアインザッツ……って事ね。
「あなた方は……?」
「僕の知り合いの知り合い……かな?」
「そう、でしたか。自己紹介させていただきますね。私は、エルピスが勇者の冒険者チーム〝勇希〟の魔法使い、ラインハイト・シュヒテルンと申します……」
「続けて……わたくしは、同じくチーム〝勇希〟の聖職者、アインザッツ・ハイリヒハイト」
「俺はシュタルク・ベシュテンディヒだ」
「そしてそして──僕こそが! チーム〝勇希〟の華麗なるリーダー! 勇者〜〜〜〜っ、エルピス・アンドレイア〜〜〜!!」
最後だけ超ハイテンション……。その直前はめちゃくちゃ短いし……。
──こうして、俺は目的の勇者一行と出会った。
◇◇◇
それから少し時間は流れ、俺達は一旦人数を絞り、ヴァーユラン連邦共和国の首都〝マルト〟にある喫茶店内で談笑していた。
メンバーは、俺、エルピスさん、シュトルツ。
「俺が今まで魔族と出会わなかったのって、やっぱりエルピスさんが討伐して回ってたからなのか!」
「うんうん、そうだよ。もっと褒めてくれてもいいんだよ」
「ナルシストめ……」
「そんなつれない事言うなよ、シュトルツ。君だって、もっと僕の事を褒めてくれたっていいんだぞ?」
「御免だ。それに、昔何度も褒めてやっただろうが」
「そんなまるで不本意だったみたいに……」
「ああ、不本意だった」
シュトルツとエルピスさんは旧友同士という関係らしく、その関係性としては千年来の友、らしいな。始まりはやはり、深罪達の封印だという。
「あの時は大いに助かった。どうもオレ一人では、あんな奴らとの連戦なんて出来よう筈もないからな。エルピスに出会えた事は、幸運だった」
「そこは運命と言っておくれよ、運命と。僕達の出会いは、言わば奇跡じゃないか」
「それもそうだが……そこまで誇張する気にもなれん」
「相変わらずつれない奴だ」
文句は言いつつも、シュトルツ自身満更でもなさそうである。
「……で、急にどうしたんだい? 僕にね、伝えられているんだよ。今日さ、冒険者ギルドのヴァーユラン連邦共和国〝ウェントゥス〟支部をフラッと訪れたんだよ。魔族の目撃情報がある、ってね。そしたらさ、受付人になんて言われたと思う? シュトルツ、君が、僕達の居場所を特定しようとしていたなんてね」
「……何が言いたい?」
「君達は、僕達チーム〝勇希〟に協力を仰ぎに来たんだろう?」
む……飄々としていたエルピスさんだったが、そこはやはりシュトルツの知り合い……相当な切れ者のようだ。おちゃらけた雰囲気の皮を被っていて、その深奥は依然として掴めていない。
「君が僕を頼るとなると、生半可な問題じゃないね。あるとすれば深罪の件……かな? あれから千年だもんね。奴らの力は強すぎて、リーベと君だけの力じゃ抑えきれなくて、封印が摩耗してしまっているのかな?」
「……鋭いな。その慧眼は衰えていない、か」
「勇者として、ずっと活動しているからね。それで、どうするんだい? 再封印か、討伐か」
「オレとしては討伐が好ましい。……が、色々と未知数だ。あの時とは、状況の何もかもが違う」
頭がいい人同士の会話って、ついていけないよね。
そんな感じだ。二人が行っている事は、二人の認識では事実確認に等しいのだろう。おさらい、というか……。しかし、俺からすれば「なんで知っているの!?」って感じなんだよ。
「それは……悪い意味で言えば、奴らと君の信頼関係。良い意味で言えば、そこにいる君かな?」
そう言って、エルピスさんは俺に視線を向けた。
シュトルツも言っていたな、俺を『可能性の塊』だと。そういえば、ルディアも転生したての頃にそんな事を言っていたっけ……。
「ああ。そいつはアヴラージュ。ルディアの連れだが……」
「ルディアの? じゃあ、肝心のルディアはどうしたのさ?」
「……行方不明だ。今は、深罪共の討伐ついでに捜索中」
「……そうかい。それで、各地に点々としている封印の石室を巡るついでに見つけようって、そういう魂胆なんだね。というか、大丈夫なのかい? ルディアは──」
「アヴラージュもいるんだ。アヴラージュとルディアはかなり仲が良くてな……なんというか……その、ルディアの事でかなり憔悴している。触れてやるな」
あの。
なんか要らぬ誤解が生まれそうなんでやめてもらえませんか?
その中途半端に口ごもるのも誤解に拍車をかけている気がする。
「あっ、ふーん。そうなんだ。早く見つかるといいね」
ほら、なんか誤解されてそうですよ。
これって、要らん発言をしたシュトルツが全面的に悪いよね?
ジトッとした視線をシュトルツに向けながら、俺は内心でそうボヤいた。
すると、シュトルツから『スマン』という視線が。スマン、じゃないでしょうよ!
「そうだな。道のりは、長そうだがね」
かと言って否定する要素もないので、俺はこの場ではそう言っておいた。
「それで、どうする? どの深罪から狩る?」
聞いた?
討伐の動詞が〝狩る〟だってよ。この勇者さん、勝つ気満々だよ。頼りになるね。
というか、その『可能性』が俺なら、俺の実力を知らないエルピスさんにとっては博打も良いところだろうに……。それでも信じていそうなのは、偏にシュトルツへの信頼故かな。
「一番の近場で言えば、〝憤懣の石室〟……〝憤怒〟のツォーンだな」
「ツォーンか……彼の権能は厄介だよね。殺るなら、一撃で殺る必要がある」
権能……。確か、『憤怒』って名前だっけ。効果は、『怒りを力に変換する』だったような。
俺としては、この説明にも不安が残る。概念竜というのは、大概『概念の拡張』による権能効果を持っていたりする。俺が良い例で、燃え滾る竜の能力も、『炎』から『熱』を連想し、更にそこから『マグマレベルの熱での熔解』へと至っている。
で、俺にとって何が不安かって……得るという『力』だ。これが単純な『魔力等のエネルギー』を指すのか、はたまた別の能力を得るのか……その結果によっては、『力に変換する』という文言の権能を持っている奴の危険度がバク上がりする。
ちょっと不安過ぎるので二人に伝えてみたところ──
「ふむ……」
「面白い着眼点だ。シュトルツが興味を持つのも頷ける」
「だろう? コイツは、こういう発想をするから怖いんだ。それが当たってしまうと、ツォーン……それ以上にハープズフトの危険度が凄まじい事になる」
なんか勝手に怖がられているけどさぁ……。
最悪を危惧するのって、普通じゃないの? それとも、発想そのものが問題なのかな? いやまぁ、どっちでもいいけど……。
「やれやれ、問題が増えてしまったな……」
ちょっと申し訳なくなりながらも、話し合いは進むのだった。
三人が話し込んでいる間、他のメンバーは街を見て回っています。
勇者一行とシュトルツ、リーベには面識があるので、会議が終了し次第『思念通話』で伝える事が出来ますから、自由行動しているのです。
で、今いる『ヴァーユラン連邦共和国』についてですが……。完結後()に世界旅行編でも出そうかななんて思っているので、その時に詳しく書くかも。え? 完結詐欺だって? ……触れないで。




