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第44話 往訪Ⅱ:竜騎上の後悔

 と、いうわけで。

 冒険者ギルドの、帝都〝ミーティ〟支部にやってきた。帝都はかなり広かったのだが、地図もあったし何よりシュトルツが道順を全て覚えてくれていたので迷う事がなかったのだ。なので、かなりスムーズである。

 ちなみに、リーベとアブーリアは置いてきた。アブーリアはダルいらしく動かなそうだったし、リーベは軍医で、その万能治癒能力故にかなり忙しいそうだ。必然、来るのはシュトルツと俺の二人だけとなる。


「しゅ、シュトルツ元帥閣下。き、今日は──」

「そう畏まるな。今日は、いち冒険者として来たのだ」


 げ、元帥だったの!?

 いや……でもまぁ、そうか。この帝国の軍は完全実力主義だろうし、異世界転生とかいうチート取得前提みたいなイベントを経てこの世界に来た俺を正面からボッコボコに出来る辺り、その地位にいるのも当たり前である。

 ま、この世界の仕組み的に、転生時に神様からチート能力を得て──なんて展開はあり得ないんだけどな。貰えたとしても、認識出来ないんじゃ意味がない。


「それで、どうだ?」

「そうですね……勇者エルピス様は、最新の動向だとヴァーユラン連邦共和国の〝ヴィント〟支部にて、『魔族の目撃情報』と『討伐』依頼を受けています」

「ふむ……やはりな。アイツは、そう動く奴だよ」


 うん? 魔族? そういえば、さっきも〝魔族〟だの〝魔王〟だのっていう単語が出ていたような……?


「魔族? ってなんだ?」

「……話していなかったな。せっかくだ、説明してやってくれ」

「は、ハッ! 了解であります!」


 そう前置きして、冒険者ギルド・帝都〝ミーティ〟支部の受付人──ギドが、魔族について説明してくれた。


「魔族というのは、太古より生まれた人類と敵対する種族です。見た目は様々、怪物のような異形もいれば、人間のような見た目もいる。卓越した魔法技術を持ち、その技術はエルフ以上と言われています。そして、奴らには基本的に人間と同じような感情があるとは思わない方がいいです」

「それはどうして?」

「奴らにとって言葉とは、相手を欺く道具。魔法戦や心理戦に用いる手段の一つに過ぎませんから。あ、ただし……」

「ただし?」

「奴らには、明確に〝悪意〟がありますから、それはご注意を。奴らの言葉は、善意も悪意に化けかねません」


 ……そういうわけね。


『補足しよう』

『うん?』

『魔族の発生源は深罪(しんざい)共だ。奴らの悪意が形となって具現化した種族こそ、魔族。そして魔王とは、最初に生まれた、深罪七柱のどれにも属さない原初の魔族だな』


 なんとわかりやすい説明。

 というか、そうか。

 俺が今まで魔族と遭遇しなかったのは、勇者が片っ端から殲滅していたからか。

 ……。

 エグくない? 本当に人間なの?


「勇者って本当に人間なの?」

「……疑う気持ちもわかりますが、エルピス様は人間ですよ」


 実力が人外じみてるんだよね。まぁ、種族からして人間に近い人外……いや、多分、〝真なる人間〟って感じかもな。


「それじゃあとりあえず、ヴァーユランに向かうとしよう」

「飛空船で向かうのですか?」

「いや、オレ自身の手(・・・・・・)で移動する」

「そうでありますか。ご武運を」


 オレ自身の手で……?


「言い忘れていた」

「言い忘ればかりだな?」

「……見逃せ」

「まぁいいけど」


 強いけど、凡ミス多いよな、コイツ。

 ま、実力至上主義の帝国軍じゃ実力があれば十分なのかもしれないが。指揮とかは、軍医でもあるリーベが執っていそうである。


「オレが〝竜人である〟という事は、軍全体に知られている。オレが竜形態になろうと、軍や臣民が混乱する事はない。そもそも、竜形態になるのも初めてではないしな」


 自分に不自由がないような環境を整えている、って事ね。

 羨ましいとも思ったが、俺には不可能な事だった。

 まず、俺は非定住族である。対してシュトルツは、多分この帝国に住み、帝国で働いている。根回しもしやすいし、トラブルも起こりにくそうだ。

 環境の違いで、そういう混乱を起こさないように行動するのは、俺の方が遥かに高難易度(ハードモード)だろうな。時間と労力さえかければ、不可能ではなさそうだが……メンドクサイ。


「方針は決まった。感謝する、ギド。頑張れよ」

「お、おう、行くのか……」


 ぼ、僕程度の名前を覚えてくれているなんて……!! ──というギドの感嘆の声が背後から聞こえた気がしたが、触れると面倒なのでスルーする事にした。


   ◇◇◇


 それでシュトルツに連れてこられたのは、軍用施設屋上。

 ヘリポートのマーク……の代わりに、魔法陣?


「飛翔と着地を補助する魔法が刻まれている」

「刻んだのはわたくしですわ」


 いつの間に来ていたんだ、リーベは……。


「じゃあ、少し離れていろよ。危ないからな」


 シュトルツが告げると同時に、飛翔・着地ポートが半球(ドーム)状の結界に覆われた。少し『解析』してみると、『内側からの衝撃に強く、外側からの衝撃に弱い』結界だった。


「どうしてこんな結界を?」

「内向性対衝撃結界(アンチショックバリア)。シュトルツに限らず、『竜化』する時は魔力(オーラ)が噴き出ますから……」


 そういう事ね。

 俺も将来『竜化』する事があるかもしれないが、その時は注意しなくては。守るものも傷つけないように、ね。

 間もなくして、シュトルツの『竜化』が始まった。側頭部から黒い角が生え、背中から一対の黒い竜の翼が生える。

 というか、そうだな。先程の、〝深罪の竜が魔族の祖である〟という話も納得だ。だって、今のシュトルツに生えている角は、俺が想像するような魔族にも生えているような、少し禍々しい印象を受ける〝角〟だったから。

 そんな事を考えている内に、シュトルツの『竜化』が終了した。見た目としては、鈍く光る黒い竜鱗に覆われた西洋竜のような感じ。

 そして最も目を引かれたのは──ギラギラと光る、真っ赤な瞳。


『早く乗れ』


 あ、竜形態で喋るのは不可能なんだ。今の言葉も、『思念』による発声だし。

 なんというか、格好いいドラゴンだな、シュトルツの竜形態は。

 そうしてシュトルツに導かれるままに、シュトルツの背中に乗った。鱗は冷たくて、それでも温かさを感じる。


「──愛なる束縛(バインドアモーレ)


 おっ、俺の体が現在地に固定された……?


「落ちないように、ですわ。アブーリアは人間ですし、アヴラージュは不慣れですもの。お許しください。そして──不可視化(インビジブル)


 さっき使われた〝愛なる束縛(バインドアモーレ)〟は解析出来なかったが、不可視化(インビジブル)は解析出来たぞ。そうか、支援魔法の一種なのね。

 ──と、リーベが俺に向かってウインクをしてきた。

 ……まさか、わざと解析させるように仕向けた? いやいや、そんなわけないな。それは流石に、考え過ぎだろう。

 支援魔法:不可視化(インビジブル)。リーベが得意とする補助・支援魔法の一種で、対象をある程度透明化させる便利魔法だな。光学迷彩のように、特定条件下で破られる事は少ないものの、魔法そのものが阻害されると解除されるようだ。

 魔法そのものが阻害される事なんてあるんだろうか。……まぁ、概念竜以上の実力者はみんなして化け物だらけだと思うので、あり得なくはない。


「…………」


 飛び始めたが、もの凄い風圧なんだけど……。


「くっ……そ! 本当に大丈夫なんだろうな!?」


 ああ、アブーリアが文句を言っている……。俺も言いたいよ、その文句。リーベがかけてくれた『束縛』を疑っているわけじゃないが……前世の俺は重度の高所恐怖症なのだ。大丈夫とわかっていても、怖いものは怖い。

 え? じゃあどうして、こんなに冷静なのかって?

 ……もっと怖いもの見てるからだよ。シャムとか、シャムとか。怒りに任せて殺してはいるが、トリステスさんが殺された時の絶望感は凄まじかった。

 今でも、思い出す度に息苦しくなる。呼吸を忘れたような、生きる事が苦しいような、そんな苦痛に襲われる。


 今でも何度も、思うのだ。


 あの日、あのまま、フィエットを引き留めていれば。あの男の制止すら振り切って、フィエットを匿っていれば。安易に、〝親のところにいた方がいい〟と告げなければ。


 そうしていれば、フィエットとあのまま暮らせていたのかもしれないのに。苦しさも、痛みもなく、ただ平和に暮らせていたかもしれないのに。


 幾千、幾万、幾億もの『ああしていれば』が、頭を駆け巡った。駆け巡らせた。


 どれだけ悔いようとも、あの日々は戻ってこないのに。


 ──しかも今に至っては、ルディアすらも失おうとしている。離れ離れになってしまっている。


 いやだ、怖い。これ以上何も失いたくない。手放したくない。あれから沢山失ったから。自分の命も失って、フィエットも傷つけて、トリステスさんを守れなくて。


 だから────死んでも、ルディアを取り戻す。また一緒に、平和に暮らす。世界中を巡って、色んな物事に一喜一憂して、色んな物を見て、学んで、楽しみたい。


 待っていろよ、ルディア──。すぐに、また──

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