第41話 離別Ⅲ:勝つのために
三人称視点で、現在の自分の見た目を見てみた。
髪は狐色の長髪で、瞳の色は綺麗な琥珀色。あとは、額から、土色から紫色にグラデーションする一本角が生えている。シルエットだけで言えば、凍み氷る竜の色を変えただけみたいだが……その能力は、やはり違う。
『キミの『特化形態』は、ボク達、普通の概念竜にはない強みがある』
『強み?』
『そう。それは、概念の拡張だね。ほら、キミの〝炎〟で言えば、そこから概念を拡張して、〝熔解〟とも言えるようになった。そういう事だよ』
ルディアのアドバイス。
これを活かすとするなら──
「……震い割る竜、かな。名付けるなら」
「それがこの土地に適能した姿か」
〝クエイカル〟って単語は、ほぼ造語なんだけどね。「震動」を意味する「Quake」に、形容詞語尾の「al」をつけた造語。
だけどまぁ、ぴったりなはずだ。
もうわかったと思うが、震い割る竜の固有能力は──
「な、何っ!?」
「もっと揺れろ。揺れて、割れろ!!」
大地を震い割る、震動の操作。加えて、伝播する震動と断裂効果。
俺は地面に手をついて、更に強く、色濃く、能力を発動させる。
「──土震衝波浪」
大地が波打ち、揺れ、生み出された衝撃によってシュトルツが宙に放られる。
その隙を逃さず──
「砂岩手!!」
大地から伸びる、幾つもの手。それはシュトルツを掴み捕まえるように重なり合う。
──狙うのは、圧倒的な質量による圧殺。シュトルツが相手なら、これくらい容赦なくしても許されるだろう。どうせ死なないし。
なので、更に追い打ち。
さっき言った通り、俺がこの状態で生み出す震動と断裂は伝播する。今、この状態であれば、間違いなく──
「土震衝波浪ッ!!」
生み出された揺れは岩の腕を伝い、シュトルツまで届くだろう。そして震動で、物理面とは違う、内面への直接攻撃。これは、黒仙達が使っていた〝浸透する衝撃〟から着想を得た攻撃方法だ。
地震で生み出した衝撃で対象を宙に浮かせ、すぐさま無数の砂岩手で圧殺。それも難しい場合は、震動を伝播させて内部浸透攻撃。
──ってか、岩の手の圧力が押し返されてきてる……流石はシュトルツだな……。
「クソ、やるな。まさかこれ程とは」
って、言ってるそばから出てきやがった! せっかく固めた岩の手も破壊されちまったし……。
「凄まじい力だな、やはり」
「それ、嫌味にしか聞こえてこないんだけど」
一応、元素魔法:砂岩防御壁で壁張りしとこう。とりあえず、八層くらい。ま、何層重ねたところですぐ破られるだろうけど──
「嫌味か。それは、すまんかった──なッ!!」
一撃で八層全部ぶち破ってきやがった!! コイツ、ホント限界ないな……。
「砂岩手!!」
地上にいるが、質量攻撃は有効。足止めになるだけまだマシって感じだ。
そのまま上手く移動先を誘導して──
「捉えた!!」
「クッ……本当に厄介な──」
「破られる前に──土震衝波浪!!」
流石のシュトルツでも、内部に直接震動ぶち込まれたら動きが止まるようだ。そこはしっかりとしていて安心である。
だったら、もっともっと攻めてみるか……!
「砂岩大魔弾!!」
尖った岩を幾つも飛ばす、元素魔法。
それの応用で──
「砂岩大魔砲ッ!!」
それよりも更に巨大な、岩の砲弾を飛ばす。
そしてこれは、ただの攻撃じゃない。どちらかというと、シュトルツの視界を埋め尽くすためのデコイ。視界が埋め尽くされた隙に、本体の俺はシュトルツの背後へ。
地面に触れ、更に多くの砂岩手でシュトルツを包み込み、圧力をかけ続ける。もちろんだが、シュトルツも抗ってくる。
なので、圧力を急激に減衰させる。すると、岩の手は簡単に砕け散る。俺は、岩の手を打ち破ったシュトルツの懐に潜り込み──
「ゼロ距離──土震衝波浪!!」
シュトルツの腹部に触れ、直接震動をぶち込む!!
「ガハッ……」
シュトルツが止まった。俺はその隙を逃さない。
俺の後ろ髪がチリチリと音を立て、俺の体温が急激に上昇するのを感じる。
足元の草木が燃える。熔ける。
俺は体内で液体魔子を生み出して、背中から噴出口を露出させた。
「くっ、や、やめ──」
今度は加減を間違えずに。
──超炎熱化加速推進──
「うぐぅっ!?」
「うぉおおおああああああああっ!!」
そのままシュトルツを押して、地面に叩きつける。
同時に、『形態変化』で。炎から、地の属性に。
「チェックメイト──土震衝波浪」
そしてもう一度、直接の衝撃浸透。
生み出された揺れと衝撃はシュトルツを伝い、地面を伝い、地を揺らし割る。地割れが起こり、土は盛り上がり、まるで生きているように暴れ出している。
シュトルツは、まだ戦意を失っていない。コイツの意識が消え、戦意も完全に消えた時、ようやく俺の勝ちになる。
まだ、まだだ。まだ、もう少し。
「アヴラージュ……まだ、まだ……甘い、ぞ……」
シュトルツが、シュトルツに触れている俺の左腕を掴む。凄まじい圧力が俺の左腕にかかり、骨がミシミシと音を立てている。
ぶっちゃけ、めちゃくちゃ痛い。痛いし、涙も出るし、怖い。
「──高潔なる打破」
俺の左腕が、完全に砕かれ、引き千切られる。
「ぐっ、うう、あ、あぐ、あ……」
震動も止まった。
──ちくしょうが、なんて硬さだよ。なんで、こんなに攻撃食らってピンピンしてんだ、クソが。
それからは、シュトルツの一歩的な攻撃が続いた。疲弊と消耗、痛み、苦しみ、恐怖。全てが俺の思考を鈍らせ、足を止め、逃げ出したくさせる。
────もう、戦えない。
「どうしたどうした、もう終わりか!?」
「…………な、わけ……」
──んなわけ、ない。許されねぇんだよ、負ける、なんて。
もう、状態も〝自然を統べる竜〟に戻っている。多分もう、『変化』も出来ない。それでも、少しでも、足掻きたい。
このまま、負けたくない。
「獄炎霊熱覇ゥゥ────ッ!!」
自分を中心に、全方位に万物を焼き尽くす炎を放つ。
「大気圧縮断切!!」
幾重にも重なる、大気を圧縮した刃でシュトルツを切り裂く。
「凍結裂傷冷流──大地震撃!」
シュトルツの全身を凍結させた上で揺らし壊そうともしてみた。
しかし、何も通用しない。どれもこれも、大したダメージにはならない。
「……この程度か。少しは成長していたが……やはりまだまだ、オレの方が──」
……負けるのか?
いいや、違うね。コイツはなんと、俺の狙いにも気づかず、俺の攻撃を受けてくれた。
「フフッ……フハハッ、アハハハ!」
「? 何がおかしい」
「いや、何、お前、案外万能でもないんだな。ルディアなら、この程度の策なら簡単に対策してくるぞ」
「……何だと?」
「わざわざ攻撃受けてくれてあんがとさん! お陰で十分に、魔力練れたわ」
魔力とは言ったが、感覚的には少し違う。俺が今から行うのは、自身への回復魔法の行使。黒仙との戦いの時、ルディアが俺に使ってくれた術式を真似てみている。
ルディアが使っていた〝魔力モドキ〟の正体はわからないが、今回は魔力で代用した。規格外の使用方法なので、使用効率や効果こそ落ちるものの──ここまで時間が稼げれば、十分である。
「──体力回復」
これは、さっき言った術式。効果としては、魔力や体力、及び気力の回復。あの時こそ、お互い魔力欠乏症寸前での行使だったし、急いでいたから回復も軽微なものだったが──今回は違う。今回は、しっかりと魔力を練っている。
「なっ……ならばオレも、ヒ──」
「させるかよ!!」
勢いよく地を蹴って自分自身を砲弾と化し、シュトルツの懐に飛び込む。その過程で〝燃え滾る竜〟状態に『変化』し、また液体魔子を精製し始めた。
同時に、熱を左脚に収束させていく。
「くっ──やはりやるな」
「そりゃな! こんなとこで止まってらんねーし、負けるのも嫌だ!」
行うのはもちろん──
「──超灼熱熔化加速蹴撃!!」
超速。一筋の赤い閃光にすら見える速度で、シュトルツの腹に蹴りをぶち込む。
……って、あ。しまった。このままじゃ、止まれな──
「多重魔法結界!」
リーベの声が聞こえる。
俺の進行方向に多重防御結界が展開され、俺とシュトルツはその結界に激突して止まった。浮力を失った俺とシュトルツが地面に落下し、無事地面にも激突。
「い、ててて……」
「…………」
あれ?
シュトルツが起きない……。
もしかして、やり過ぎた……?
「ふぅ」
「おわっ」
きゅ、急に起き上がった……。
「フフフッ、フハハハッ!」
「どうしたよ、シュトルツ……急に高笑いしやがって……気でも狂ったか?」
「いや、何、愉快なだけさ。オレがここまで追い詰められたのは久しぶりだ。帝国に所属してはいるが、人間の中にオレをここまで楽しませてくれる奴はいなかった」
……もしかしてシュトルツ、寂しかったのかな?
リーベはいるし、当然周囲に人間もいるのだろう。しかし、突出して強すぎるから……。漫画とかでも見た事がある。強者故の孤独……それを、シュトルツは患っていたんではなかろうか?
「なら良かったな。これからは、そう思った時は俺が容赦なく楽しませてやれるし!」
「……フッ、戦ったのがお前で良かったよ」
何やら奇妙な友情が芽生えたような気がする。
前よりも少し、シュトルツとの距離が縮まったような気がする。そう思いながら、俺はシュトルツと語らい合うのだった。
ちょっと戦いが長いかもしれませんね。
仕方ないよ、シュトルツ強いし。彼自身はルディアの方が強いと言っていますが、実は意外と互角だったりします。
ちょっと……新形態出たのにアヴラージュ君ずっと苦戦してるな……。ホント誰ですか概念竜はみんなチートって設定作ったの(おこ)。
(『形態変化』のルビをサイレント修正しました)




