第37話 事件発覚
「案外と急用でな。オレ達は『転移』で、先に行かせてもらう」
シュトルツが、急にそんな事を言い出した。
急に言われてもねぇ……? まぁ、俺としては送り出す他ない。
「おう、そうか。多分何日かかかるだろうが、多分追いつけるよ」
「もしも帝国に来るなら歓迎しよう。帝国は軍事国家でもある。オレとリーベはかなり高い地位にいるから、オレが話を通しておこうじゃないか」
なんと、協力してくれるというのだ。これも、数多の困難(?)を共に乗り越えた事により芽生えた友情か……。
「ありがとうな、期待しておくよ」
とてもありがたい提案なので、快く受ける事にしたのだった。
◇◇◇
数多の国家が乱立する、アーテシュアーブ大陸。その最東端にある〝ナヴィール〟という小さな国から、北方にある、プリティヴィエ帝国がその大部分を占める〝ゼルハーク大陸〟へと渡る事が出来る。
「だから、これからナヴィールに向かうよ。ボクは『転移』で行けるけど、それじゃつまらないんだろう?」
「だな。こういうのは旅をしてこそだ」
確かに楽こそ出来るが、それじゃあつまらない。異世界というのは冒険してこそ、という意識もあるので、やはり遠回りしてこそなのだ。
「ナヴィールは技術国家でね。船を作る技術はかなり高く、帝国と比べても引けを取らないような高精度技術を有している国家だ。それは、なぜだと思う?」
お、出たな。急な国家クイズ。
これ、結構難しいんだよなぁ……。
「そうだなぁ……海は凶暴な海獣が多いから、その海獣にも負けない船を作るために発展したから……とか?」
「おっ! アヴも頭が回るようになってきたね、正解だよ」
「前にルディアが、魚介類等の海産物とかについて教えてくれたからな。それがヒントになったよ」
そういう観察眼というか、そういうのも鍛えられている気がするな。
「実際、ナヴィールは昔は貧困国家だったんだよ。けど、国家を成立させるためには需要と供給、そして安定した国益が必要だ。ナヴィールは海に面していて、帝国があるゼルハーク大陸に近かった。だからこそ乗船所を多く設置して、ゼルハーク大陸への玄関口になったんだ」
ルディアは永劫を生きているだけあり、人類史にも詳しそうだった。
ていうか、ルディアっていつぐらいに生まれたんだろうな? まぁ、イチイチ生まれた日を覚えているのなんて人間だけだと思うので、聞いたところで答えてくれるかは謎だが。
現在は、デコボコとした山道を進んでいる。
「少し進めばまた小さな街に出ると思うから、そこで少し休憩しよう」
「だな。ちょっと代わり映えしない雰囲気で──」
ガサッ。
何かが、草をかき分ける音。
そりゃそうだ、そりゃ出てくる。今俺達が進んでいるのは舗装されていない山道で、普通に魔物も生息している。
さてさて、出てくるのは何だ──?
「グルルルル…………」
まだ見た事ない魔物だ。
前に見た巨牙大虎とは違うな。堂々としていないし、不意打ちする気満々だったと思う。俺達が自分に気付いたし、物音を立ててしまったから出てきただけだろうな。
見た目としては虎に比べてスリムで、大きな牙もない。ただし、顎がゴツい。鋭い眼光を向けてくる、言わば狩猟豹。
スリムだからという理由だが、多分巨牙大虎よりも速いし強い。
けどまぁ、問題はない。
「ルディア、手ェ出すなよ?」
「はいはい」
俺は『格納空間』から黒銀蒼の竜剣を取り出し、問題なく獄炎霊熱覇を纏わせる。
普通ならば、動物は炎を怖がる。これは本能的なものだが……。
「ガルルル……」
ま、退いてくれるわけもなし。別に期待してもいないので、問題はなし。
じゃ、終わらせよう。
「紅炎──」
炎を纏わせた黒剣で、一刀両断。
「瞬殺、だね。死体はどうする?」
「殺しちまったんだから、食うよ。ま、とりあえずは『格納空間』に仕舞っとこう」
「キミって、そんな考え方する人だったんだね」
「まぁ、な。前はこんなんじゃなかったよ。竜になってからかな、こういう考え方になったのは」
この世界に来て、本当に変わったと思う。倫理観とか、常識とか、そういうもの全部。人を傷つけて、焼き殺して、それでも心が痛まないのは、やっぱり非常識だろうか?
ルディアによれば、否、と。この世界は弱肉強食で、強者に弱者が殺される……つまり食われるのは自然の摂理だそうだ。しかしまぁ、俺は納得出来ない。
でも、どうしてだろうか。いつもならつまらん邪魔な綺麗事を述べそうな自分だが、そういう反論が何一つ出てこない。
やっぱり根っから変わってしまったのだなと、そう思い知ったのだった。
◇◇◇
少し歩くと、本当に小さな街が見えてきた。日本で言う……どこだろうか、山口県ぐらいか? そんな感じの、ちょっと地味めな、それでも落ち着く雰囲気をまとった街だ。
街の名は、トランキール。
「ここの雰囲気、なんとなく落ち着くよね」
「だな」
こういう街は異世界にもあるのだなと思う。俺が今まで見てきた大国達が大きすぎるのかもしれないが、やっぱりこの街が小さく見えるな。
「ここで一つ、依頼でもこなしとくか」
「だね、気分転換にでも」
少し歩いて、すぐに冒険者ギルドの建物を見つけた。
なんだか閑散としているな、この街ではあまり活動が活発ではないのかもしれない。
「どうも」
「お? なんだい、冷やかしかい?」
扉を開けると、なんだかやつれた社畜のようなオッサンが……!
「オッサン、なんか依頼ある?」
「オッサンって酷くない?」
「オッサンだろ、どっからどう見ても」
「ハッ。俺はな、つい最近まで二十代だったんだぜ」
「オッサンって事じゃねーか」
こんな漫才をしに来たんじゃないんだよね。
「で、オッサン。依頼は?」
「…………。受けてくれるのか?」
「え?」
「受けてくれるのかって聞いているんだ。保証してくれねーと、話さねえ」
なんてやつだ。どうしても依頼を受諾してほしいらしいな……。
こうしてみると案外……どころかめちゃくちゃ怪しいが、受けてみるのもまた一興……か。とりあえずは受けて、面倒そうだったら逃げよう。
よし──と納得した俺は、とりあえず依頼内容を聞く事に。
「受ける受ける。で、どんなの?」
「……大量行方不明事件だ」
「は?」
「特に女子供がな。これまで何人もの正義感ある冒険者達が請け負ってくれたが……帰ってきていない。どういう事なのか、俺もわからん」
…………聞いた限り、かなり重大だな。
面倒そうだから逃げようとか、そういう事言ってる場合じゃないようだ。
「よし、情報をくれ」
「え? マジでやってくれんのか?」
「やらないわけにはいかない。な?」
多分、ルディアは俺に従ってくれるだろう。一緒に、事件解決に努めてくれるはずだ。
だったらそれをも利用するまでである。
「……仕方ない、ね。手伝ってあげるよ」
よし。
多分、ルディアと俺のコンビなら解決出来ない事件などない。
なので──
「任せてくださいよ。俺はAランクで、コイツはS+ランクっすから!」
そう、笑顔で請け負うのだった。




