第36話 それじゃあまたね
明くる日。
またシルティアス達と共に水竜祭巡りである。
「見て見て! これ!」
「キラキラしてて……綺麗だな、これ」
「でしょー?〝水の輝石〟って言って、うちの国の特産品だよ! 周囲の魔力密度によって色とか光の具合が変わるんだよ!」
いつぶりだろうか、こんなに平和な日々を歩むのは。
「ほら、これ!」
「これは……ネックレス?」
「そう、プレゼント! さっき見せた〝水の輝石〟を、安易にネックレスにしただけだけど……」
「いやいや、十分キレイだし、嬉しいよ」
「ほんと? えへへ……嬉しいな……」
いつになく嬉しそうなシルティアスを見ていると、なんだか浄化されるような思いだ。
「うぉっ、ルディア!?」
背中から俺を抱きしめたのは、紛うことなきルディア。
「ねぇ、いつまでシルティアスとイチャついてるの?」
「イチャ……!? ルディアじゃないんだから、そんな事しないよ!!」
あ、これ喧嘩が始まるパターンだ。
そんな事の渦中にいたくないんですけど…………。
………
……
…
「まずさ、ルディアはほぼ毎日アヴラージュと一緒にいるでしょ? 今日くらい、私がアヴラージュと二人っきりになってもいいと思うの」
「いいや、ダメだね。ダメなものはダメだよ。アヴはボクと一緒にいるの」
「…………二人で言い争ってても決まらないね。ここは、アヴラージュに決めてもらおう? ね、アヴラージュ、どっちと一緒がいい?」
き、聞かれても困るんですけど──と、若干……いやかなり困惑する俺。
「俺はどっちとでも──」
「ダメなの! どっちか決めて!」
面倒な……。
「そ、それじゃあ……シルティアスと……?」
「やった! ほらね、シッシッ」
「ぐ、ぐぬ……」
俺に言われると流石に強要出来ないのか、ルディアは渋々といった感じで単独行動を開始した。
「今日もさ、一緒に楽しもうね!」
「う、うん……」
目の前ではにかむシルティアスを前に、どうしてこんなにもしょうもない事で喧嘩してしまうのか……と、少し呆れる俺であった。
………
……
…
こんな感じで喧嘩は終わった。
一人を取り合って……なんていう、ラブコメでよく見る構図なのだが、当事者になってみると面倒極まりない。それを読んでいた時はある種のハーレム状態にある主人公を妬んだりしたものだが、いざその状況になってみると面倒というか、呆れるというか。いや、マジで。
──って、うん?
「どうしたんですか?」
何やら、屋台の中であたふたと頭を抱えている人がいた。
見た限り……アイス屋か? ジェラート……かな。
「ああ? アンタ誰──って、水竜様じゃねぇか!!」
「あ、はいはい。で、どうしたんですか?」
「え? あ、ああ……ウチは屋台で氷菓を売っていてな。だが……思った以上に売れて、昨日だけで氷を切らしちまったんだよ。売る量が多いもんで、店仕舞いも遅くなっちまってな……。氷がなくっちゃ、氷菓も作れねぇ」
だそうだ。かなり困っていそうだったので、とりあえず助けておく事にした。
「どれぐらい必要ですか? 必要量を指定していただければ、用意しますよ」
「おいおい、マジかよ!? こりゃ幸運だな。これも、水竜様の導きか……。って、量だったな。これを五袋分満たしてくれりゃいいよ」
そう言って差し出されたのは、縦横二十センチ程度の麻袋五つ。
なんだ、思ったより少なそうで安心したぞ。
「それじゃあ……氷結化」
氷結化は『変化』しなくても使えるのだ。これ、結構便利なんだよね。どこで使うのかって? ……それは聞かないでおくれよ。
そんなこんなあって、一瞬で必要量を満たす事が出来た。
「お、おおおおおおっ!! 助かったぜ!! 一個サービスしてやっから、ちょっと待っときな!」
……となって、出てきたのは……バニラアイスかな?
舐めてみると、まんまバニラアイス。世界観からして違うのに、どこからこれの材料が来るのか知ってみたいとも思ったが……ま、野暮かな。美味しいし、いいや。
「ひんやり美味しい〜♪」
シルティアスもゴキゲンである。
◇◇◇
そうして時間は経ち、いつの間にか日も沈み……。もう夜である。
「時間の流れって早いね……」
「だな」
「もっと一緒に楽しみたかった……」
何を言ってるんだか。
「あ、そうだ! 今日って最終日だよね?」
「え? ああ、うん。そうらしいな?」
「だったらもうすぐあれが始まるはずだよ! ついてきて!!」
そうして手を引かれ、ある場所に連れてこられた。
それは──〝星天機環〟の、主砲の頂上。
「えっ、ここって……」
「今はここが一番高いもん! で、あれが始まるよ」
あれ……?
あれってなんだよ──と、口にしようとした瞬間、それは起こった。
バンッ!!
破裂音のようなものが響き、空に花が咲く。
「……花火?」
「そう! 最終日には色んな色の花火が上がるんだよ!」
赤、青、黄、緑、それぞれの様々な色に明滅する花火が幾つも上がり、夜色の空を彩っている。
「……水竜祭といえば、これだよね」
シルティアスも見入っている。
事件の面影はあちこちにあるが、こうしてみると、何もなかったみたいだ。空は綺麗で、誰かと一緒にお祭りを楽しんでいて、こんなふうに花火に見入って。
こんなに幸せでいいのだろうか。
「あの、アヴラージュ」
「うん? どうした?」
「あのね、今日、楽しかった」
「へ? お、おう……? 俺も、楽しかったよ?」
急に何を言い出すんだろう。
「また次の年……また一緒に、楽しめないかな?」
「え? 別にいいけど……なんで俺?」
「…………特に理由は無いよ」
変な奴だな……。
──夜は深まる。一人の少女の、恋心と共に。
◇◇◇
明くる翌朝。今度は徹夜せずに朝起きる事が出来た。
……で。
「なんで隣にいるんですかね?」
「え?」
隣で寝ているのはシルティアスである。
寝て起きた時はなぜ毎回隣に人がいるのか。本当にわけがわからない。事案だなんだと誤解されそうなので、本当にやめてほしいものだ。
「なんで隣にいるんだよって」
衣服換装という魔法──空間属性魔法と『格納空間』を利用した瞬間お着替えの便利魔法──で普段着に着替えながらちょっと愚痴り気味に言ってみる。
俺の普段着は、ルディアに買ってもらった高めのブランド服である。一着銀貨十枚……つまり十万円相当の高額衣服である。ハイネックに大きめのフードがついた蒼い裏毛の黒いパーカーと黒いバギーパンツで、今のお気に入り。
前はもっと違う服を着ていたのだが……シャムと戦ったあの日、実は魔力に馴染んでいた服でも限界で、溶けかけていた。冷却するより買い直そうという話になって、ルディアが散財してくれた……というわけである。
ルディアの底なしの財力に感謝だ。
「ダメ?」
「ダメだよ!!」
まったく……。
俺としては、寝ている時、隣に女子がいるとドギマギして眠れない。しかもシルティアスは、実年齢的には違うだろうが、背格好からして同年代かそれ以下……。これで、俺が喜ぶより嫌がる理由をわかってもらえただろう。
「えー」
「えー、じゃない! わかったら今度からは控えるように。今度とかないかもだけど」
「はーい……って、今度とかない、って?」
うん、そりゃ触れるよね。
「俺は放浪者だぞ? 定住族じゃないし、このままここに住み着く事もしない。この先にある乗船所から行けるゼルハーク大陸……それと、大陸の大部分を占める帝国の存在が気になるんだよね」
俺はまだまだ異世界初心者なので、見聞を広める必要があるのだ。なので、人類国家を巡る事は最重要事項である。であるからして、一つの国家に定住している場合ではないのだ。
「ええーっ!! もっとうちにいなよー!!」
「そう言われてもな……」
これは俺がこの世界で生きる事に直結する問題なので、本当に最重要事項なのだ。
「はいはい、駄々こねない」
と、ルディアがシルティアスの首根っこを掴んで叱っている。
何をしてるんだか、毎回毎回……。
「さて、ルディア、行くぞ」
「え? どこに?」
「どこって……忘れたか? 俺ら、フツーに冒険者だろ。活動しなきゃ」
最近バタバタしていて忘れていた。俺達は冒険者で、それで食って行こうとしてる。だから、お金を稼ぐためには当然依頼をこなさなければならない。
「あ、そうだったね」
「俺ら普通に国家救ってたけど、本業は冒険者なんだよな……」
最近は本当に激動の日々だったので、実感が薄れていた。
たまには平和に活動もいいなと、俺はそう思うのだった。
◇◇◇
早速、ルディア達と共にヴァルネリの東門まで来ている。
ルディア達。そう。シルティアス……加えて、シュトルツやリーベまで一緒である。
「オレ達も帝国に用があってな。そろそろ、顔を出しておかねば」
「わたくしもですわ。まぁ、シュトルツの付き人として、ですが」
二人とも、諸事情ありそうである。
で、シルティアスはというと……。
「行かないでーーっ、やだぁーー!」
「はいはい、やめてねー」
そう言って、俺に縋り付くシルティアスを引き離すルディア。
「ふぇええん……行かないでよぅ……」
「猫なで声で言ってもムダだよ」
「ふぐっ……」
最後まで言い合ってるし。ここまで来ると笑えるな。
「じゃあ、またな。次はみんなで、生きて会おう」
「縁起でもないなぁ」
「だって、こんな世界だしな。ま、次期大統領……頑張れよ!」
「うん。ちゃんと、こなしてみせるよ! それじゃあ、またね!」
そう言って、みんなで笑い合う。
明日もこうだといいなと、そう思うのだった。




