第33話 暴走と制圧
勢いよく大扉を開け、次の部屋に進む俺達。そんな俺達の視界に映りこんだのは──
「あ…………あ……あ………………」
機械仕掛けの渾天儀のようなモノの中心に浮く、何やら仮面のようなモノをつけられたシルティアス。
天井には巨大な穴が空いており、既に主砲は地表に露出してしまったのだと悟られる。しかし、人々の悲鳴は聞こえない。のだが……シルティオスが言う通りに、時限性の『思念』が緊急事態を知らせてくれたとも思えない。そもそもの時限認識にズレがあったのだから、時限性の『思念』で伝えられる筈がない。
つまり──
「……………………遅かったか」
宮殿内の人間は、多分全員死んでいる。死んでいないにしても、意思疎通の取れない状況……つまり気絶しているか、声が漏れない場所にいるか。
最悪だ。
想定すら出来なかった最悪の事態が今、起こっている。
シルティアスの方も、なんだかヤバそうだ。意思疎通は完全に取れない状況で、うわ言のように何か繰り返している。
「私……壊……ス…………私……ハ……イラ……ナイ……子……」
自虐か? って、そんな事言ってる場合じゃないな。
「キカイを先に止め──」
そう思い、キカイに向かおうとした矢先だった。
途轍もない違和感が、俺の腹の辺りを襲う。
腹が……抉れ……っ!? ──て、ない? 勘違い……?
「避けろッ!!」
シルティオスの声で反射的に動いた体がその場を離れる。先程まで俺がいた場所は、小規模の爆発を起こして地面が抉れていた。
『今のはシルティオスの『未来予見』だね……。彼の固有能力は彼自身にしか与えられないと思っていたけれど、権能の成長は止まっていなかったんだね』
クレアボヤンス? 未来予知……って事?
『そういう事。それで、あの爆発はシルティアスの『幻隠視』っていう権能。幻を駆使する権能で、モノを隠す事も可能。隠された不可視の攻撃を得意としているんだ』
…………。
兄妹揃って強すぎませんかね?
これさ、シルティオスとルディアがいたから何とかなりそうだけど、初見のタイマンだと俺が確実に負けそうなんですけど?
『そこはまぁ、経験と技量の差もあるしね?』
………………。
まぁ、いいか。今はシルティアスを止めるのが先だ。
「サンキュ、助かった」
「私としても、お前がいなければ勝てないと思ったのでな」
おお、嬉しい事言ってくれるじゃないか。
さてさて、これにて戦闘が始まった。
とりあえず、キカイには熱が有効だろう。そう思ったので、すぐに燃え滾る竜に『変化』した。
「──紅炎ッ!」
仕方ないのでキカイを破壊しようと試みた。シルティアスが囚われている、回転する環に囲まれた機械仕掛けの渾天儀のようなキカイを斬り割ろうとしたのだが──
「チッ、硬ってぇ!!」
キィーーーーンッ──というかん高い音色を響かせ、俺の黒銀蒼の竜剣が弾かれる。
「ここはわたくしが」
──っと、なんとリーベが俺の隣に巨大な鎌を持ってきた。
というか、なんか見た目が変わっている。真っ白な髪は黒く染まり、瞳は美しい碧眼からギラギラと光る真っ赤な瞳に変わっている。なんというか、シュトルツ色だな。
「──虐殺命断割」
今度は、リーベが手に持っている鎌でキカイを切り裂こうとしたようだ。
しかし……それもまた、弾かれた。
「……やはりダメですわね。わたくしの『絶対命断』で切り裂けるのは〝生命〟だけらしいですわ」
何それ、怖……。
今回は相性が悪かったわけだが、生命ある存在に対しては無条件特効の攻撃って事だろ?
「そうだね。彼女の権能は、生命に対して絶対の効果を発揮するよ」
と、いつの間にか俺の中から出てきたルディアが説明してくれた。
何それえげつない……。
『戦えるの?』とかいう質問がかなりの失礼になってしまいそうなほど、リーベの力は圧倒的だった。
ちなみにだが、シュトルツは態度に反して結構消耗しているようで、前の部屋で一旦休んでいるそうだった。
「光刃」
シルティオスが生み出した光の刃がキカイを襲う。
というか、俺達が行ったどの攻撃よりもダメージを与えているように見える……。
「──嵐」
無数の光刃が次々とキカイに襲いかかる。
…………やっぱさ、権能自体は微妙なモノって、〝自分の権能に比べれば〟って意味じゃない? 確実にめちゃくちゃ強いんですケド……。
で、今は全員で一斉攻撃を行っている。
「シルティアスは、一切の加減なく魔力を使っている。ここまで抵抗されると、やはり止めるのも大変だな……」
「だな。普通なら消耗率とか後先考えるモンだが、今のシルティアスはそんな事考えちゃいないしな……」
本当に深刻である。
ヴァルネリにキカイの攻撃が放たれる事以上に、シルティアスの身が持たない。止めなければ……そう、魔力欠乏症で死にかねない。
「……仕方ない。リーベ、キミは回復魔法の発動に全神経を注いで」
「え? あ、はい……」
「アブーリア、だっけ? キミは、前の部屋に戻っていて。危ないからね。アヴとシルティオスは、キカイの破壊に専念。もうとやかく言っている場合じゃない。シルティアスは、ボクがどうにかする。ボクがシルティアスを止めるから、寸分の狂いなく、止めた直後にキカイを破壊して」
──と、ルディアからの指示が飛ぶ。
何をする気かは知らんが、必勝の策があるのだろう。俺は、それに乗るだけだった。
「永遠なる愛の竜としての御力。愛は永遠なる道標として、愛は万物万象を抱擁く神の声として──」
指示が飛んですぐ、リーベが詠唱を始めた。
何はともあれ、最大火力をお望みのようだ。それなら、そうしてやろうじゃないか。
俺は両脇腹辺りから鎖のようなものを出し、地面に突き刺して俺の体を固定する。俗に言う留め具である。そして背中から噴出口を出し、流体魔子を噴出し始める。
「さて、キミがじゃじゃ馬のようなのは昔から変わらないね。──今、止めてあげるよ」
「……………………」
直前まで絶叫していたシルティアスが、何故か止まった。仲間の声が聞こえて──なんていう、そんな事が起こるとは思えない。
考えうる事としては、ルディアが超強い『思念』を送っている……くらいだな。
「ごめんけど、一旦我慢してね──零虚終撃!!」
円環するキカイの隙間を縫って、ルディアが持つ三鈷剣の刃がシルティアスの胸に届く。その刃が突き刺さると同時に──シルティアスの意思と動きが、完全停止した。
「今だ!!」
ルディアからの合図。俺の体は、反射的に動き出した。
自分の体を固定していた留め具が弾ける。最大出力を超えた超炎熱化加速推進によって限界加速し続けた俺の体が解き放たれた。
音速を超え、光速にすら至ろうかという速度。その速度を乗せた灼熱熔化蹴撃が炸裂しようとしていた。
──名付けて、超灼熱熔化加速蹴撃。
めちゃくちゃ安直だが、それなりに格好いいネーミングじゃなかろうか。
「根源光輝撃」
そしてシルティオスも、使える限りの力を使おうとしていた。凄まじい魔力消費であり、シルティオス自身を光を化した攻撃……だそうだ。
光速化した二人による全力攻撃。
流石のキカイ──シルティアスを蝕んでいた円環渾天儀のようなキカイも、完全に破壊された。
ところで……。
「威力強いのはわかってたけど、まさかだよね!!」
俺達の攻撃によって起きた爆発の中から、シルティアスを抱えたルディアが現れた。
「リーベ、指示通りに!!」
「わかりましたわ!!」
ルディアが短距離転移で、すぐさまリーベの前に現れる。
「この子の全魔力を一時的に消し去っている。すぐに回復させて、蘇生するよ」
「そんな無茶をしたんですか……」
呆れながらも、リーベは魔法を発動した。
「深き愛の祝福」
それは、回復魔法を司る神聖魔法よりも高度な回復魔法にして、リーベの独自魔法。リーベにのみ扱える、究極の独自技術。
枯渇した生命力や魔力を蘇らせ、時には老化すらも巻き戻し、肉体の全盛へと巻き戻す。
長い詠唱と多大なる魔力消費を伴うが、強大な生命力を司る究極の魔法だった。
「カハッ……ゲホッゲホッ…………うう……」
生命が完全に停止していたシルティアスが息を吹き返した。
「シルティアス!!」
シルティアスの声を聞き、すぐにシルティオスが駆け寄った。
俺と同じ、凄まじい魔力消費でかなり疲労しているようだったのに……なんというか、やっぱり少し似ているかもしれない。
俺も魔力欠乏症になるギリギリだ。
って、あれ? ルディアも同じ感じじゃん。
「ルディア」
「うん? なんだい?」
「珍しいな、お前がそんなに消耗しているなんて」
「ああ、うん。ボクが使った〝零虚終撃〟っていう技は、ボクのこの武器──〝零虚竜杵〟の能力なんだけど、やっぱり外付けの能力を使うのには多大なるエネルギー消費が必要なんだよね」
ちょっと余裕そうだな。
ルディアによると、能力には元から備わっているモノと外付けのモノもあるらしい。俺がフィエットから託されたスキルも外付けらしく、それと同じだそうだ。
なんでも、外付けの能力というのは自身の体質にあっていない事が多い。だからこそ使うのにはそれ相応の代償が必要であり、ルディアの場合は多大なる魔力……というわけだった。
まぁ何はともあれ、シルティアスも無事……とは言い難いが、生きている。
俺達も、誰一人欠ける事はなく──
「な、なんだ……?」
地面が揺れる。
天井が揺れる。
「……地表か!!」
シルティオスの声が聞こえる。
事態はまだ、終息していないようだ。




