第32話 黒と光耀
黒仙にとって、シルティオスの強さは想定外だった。
依頼人に身体構造を改造してもらい、比類なき強さを手に入れた。もはや、人類国家上では最強であるとも思える強さを手に入れた。
〝水竜様〟なんて呼ばれ、持て囃される忌々しい竜共すらも圧倒出来ると思えた。
『まずは腹癒せにヴァルネリぶっ壊したろや。どんな国も力で支配すれば犯罪者だろうが何だろうが身分なんてどうにでもなるねんから。やから──』
と、未来の姿を夢想する黒仙。
しかし、今はどうだろうか?
(聞いてないッ! 聞いてない聞いてない聞いてない──ッ!! なんやこの強さはッ!? これやったら、ホンマモンのバケモンやないか!!)
現状の黒仙は、赫怒に燃えるシルティオスに圧倒されていた。
黒仙が驕るようになってしまったのも、当たり前とも言える。
確かに、強化された黒仙の実力は人類の中では比類なき力であろう。しかしそれはあくまで、人類の中では、なのだ。
対して、シルティオスは竜。元からの肉体性能が違う。
それを見誤る辺り、黒仙はかなり愚かであった。
「チィッ! 仙術〝空礫〟──ッ!!」
仙術:空礫とは、空弾を撃ち出す仙術:空撃ちの応用である。
作り出した数多の空弾を同時に撃ち出す仙術である。
せっかく撃ち出したそれも、全てシルティオスが作り出した光の壁に阻まれて霧散してしまった。
「クソがッ! どうなってんねんッ!!」
悪態をつく黒仙。想定外の事態が起きすぎているのだから、当たり前といえばそうである。
(それよりもアイツや!! あの、小僧!! なんやねんアイツ、アイツもアイツでえげつないやんけ!! 全ッ然、計画とちゃう!!)
黒仙としては、アヴラージュの存在も想定外である。
前は軽く圧倒出来たので、今回も同じだと思っていた。流石に前通り上手く行くとも思っていなかったが、これも想定外過ぎるのだ。
(なんやねん、白仙も何を苦戦しとんねん!! そんな奴に良いようにされとってからに……っ。しかも何やねんコイツら、オレ達がカバーし合おうとしたら邪魔してきよるし……厄介はどっちやっちゅうねん)
これに関しては、主犯はシルティオスである。
アヴラージュにはルディアもついているが、アヴラージュに関しては白仙の相手でほぼ手一杯だった。タイミングを合わせているのは全面的にシルティオスで、それだけでもシルティオスの高い技量が窺える。
しかしながら、シルティオスが前だと霞むだけで黒仙、白仙共に人類最高峰に近い技量と実力を誇る強者でもある。
現に、彼らが名乗り種族名ともしている〝仙人〟とは、魔人とは別のアプローチで進化した人間の事を指すのだ。
魔人が魔物化により進化した人間ならば、仙人は純人間。体内の魔子及び魔力を完全に支配し、上手くコントロールする事で不老にすらなっている超人。
しかも、今回はそれに加えて依頼人に魔人と同形態へと身体構造を改造されていた。〝仙魔人〟とも言える種族へと成った二人の実力は、確かに既存の人類を圧倒するモノだった。
──しかし悲しきかな、格が違いすぎる。
方や、ヴァルネリ共和国建国当時から国を、時には天変地異からすらも護る竜。
方や、凄まじいスピードで今現在も成長を続けている転生竜。
少し強くなっただけの人類では、遠く及ばない。
しかも──
「単調な攻撃だな」
「何余裕かましとんねんッ!!」
拳に魔力を纏わせ、怒涛の連続攻撃を行う黒仙。
しかしそれは、全てが受け流されて無力となってしまう。
おわかりだろうか。シルティオスが司るのは〝夢〟で、彼が最も得意とする権能こそ──
「……少し哀れだな。慈悲として、一つ教えてやろう」
「はァ? 何やねん、イラつく事ばっか言いおって」
「私が最も得意とする権能は、『未来予見』というモノだ。かなり便利でな、数秒先の未来を視れるというものだが……色々と調整が効く。一秒先だったり、一日先だったり──」
その説明は、黒仙にとって絶望と屈辱を意味するものである。
なぜなら、シルティオスは──
「よって、お前の攻撃は効かん。効かんし、当たりもせん。諦めろ」
──そう、黒仙に告げたのだから。
(何やと? 何やって? 未来予知? そんなん、そんなもん──)
「クソ卑怯やろが──グェッ」
怒号を上げながらシルティオスに全力で襲いかかった黒仙だったが、あっという間に完封された。
「死ね──輝光彩波壊」
指向性を与えられた破壊の光が、黒仙に襲いかかる。
同刻、隣の戦場ではアヴラージュが白仙を完封していた。
加えて、決着をつけたリーベやシュトルツも合流している。もはや、シルティオス達の作戦は完全に成功──と思われた、その時だった。
◆◆◆
「なっ、なんだ……!?」
「揺れてる!?」
クッソ、次から次に──と、内心で悪態をつく俺。それもそのはずである。シルティオスも黒仙を完封し、俺も白仙をぶっ倒した。
あとは息の根を止めるだけ……本当にあと一歩だったのに、急にこの部屋が揺れ始めたのだ。
──いや、違う。多分、震源は次の部屋……つまり、シルティオスの言う〝キカイ〟だと思われた。
しかし、どうして?
キカイの起動と発動には合計で二十四時間かかるはず……現在経過時間は、遅くとも数時間……二桁も経っていないハズだが……。
「クッ……ククククク……クハハハハッ!! アンタら、強いけど阿呆やなぁ!」
「はぁ?」
何やら、黒仙が高笑いを始めたのだ。
「なんや、まだ制限時間が二十四時間やと思っとるん? ホンマ阿呆やなぁ」
──それは、シルティオスが目を背けていた問題だったらしい。何やらうわ言のように、小さく言葉を繰り返している。
『……そういう事ね』
どういう事よ?
俺、まだ理解出来てないんだけど?
『つまり、制限時間の〝二十四時間〟は、通常時の制限時間なわけ』
うーん、つまり?
『普通ならシルティオス、またはシルティアスが、自らの意思で操縦するだろ?』
そうだな。
『彼らが自らの意思で使う……つまり、規定通りの使用方法ってわけだね。それに比べて、今回はどうかな?』
シルティアスが連れ去られて、恐らくは強制的にキカイの核にされている。
『強制的……そうだね。だから、安全性を度外視した使用方法も出来るってわけだ。起動と発動にかかる合計時間の〝二十四時間〟というのは、通常で……安全性を度外視すれば、かなりの短時間で起動と発動が可能だろう。かかる〝二十四時間〟という時間は、シルティオス達とキカイの精神接続に必要な時間でもあるんだ。それをなくしているんだから、そりゃ早いよね』
ちょっと長い説明だったが、そういう事ね。
……それ、かなりヤバくね?
「先にっ、キカイ止める──」
「させへんよ!!」
俺の前に現れる、黒仙と白仙。
クソ、邪魔だな……。
しゃーなし。やむを得ない場合はキカイの破壊も許可されているし、ここは燃え滾る竜で──
「──邪魔だ」
俺が『変化』しようとした矢先、そんな声が聞こえた。
とても、冷たい声。
俺の背後から聞こえた、シルティオスの声である。
「サ──」
次の瞬間、目の前の黒仙と白仙が眩い光に飲まれて消えた。多分、使おうとしたのは針停止だろう。
……何が〝権能自体は微妙なモノ〟だよ、めちゃくちゃ強いじゃねーか。
「……早く次の部屋に進むぞ」
「…………おう」
やはり、俺が思っている以上に事態は深刻さを増しているようだった。




