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第30話 傲慢と虚飾

 シュトルツは、目の前に立つ傲慢そうな男に向き合った。


「さて、まずは名乗りから始めるか。オレはシュトルツ」


 誠実に名乗ったシュトルツだったが、それに対して目の前の男は──


「ガハハハハ! 誠実だな、自身の強さに驕らん、か。いいだろう、俺様も名乗ってやる! 俺様の名はオルグ。冥途の土産に覚えておくといいさ、グワハハハハハ!!」


 そんな完全に上から目線音名乗りを聞き、シュトルツは。


「……傲岸不遜と言えば聞こえはいいし、オレと似ているとも思ったが……やはりダメだな。話したって無駄だろう、始めようか」

「いいねィ! 威勢のイイ奴は好きだぜ」

「「──殺す」」


 二人同時の宣言が戦いの狼煙(のろし)となった。

 二人とも同時に地面を蹴り、拳をぶつかり合わせる。


「ガハハハ! 考える事も同じってか!」

「チッ、忌々しい奴だ……力だけはオレより上か」

「どうかなァ? 技量も、俺様の方が上かもしれないぜ?」

()かせ」


 そうして迫真の攻防を繰り広げながらも、シュトルツは内心で唸った。


(ふむ……これは、本格的にマズイかもしれないな。総合力ではオレの方が上だろうが……単純な力のみならば、オレはコイツに勝てん……)


 技量や権能で言えば、シュトルツの方が上だ。種族からして性能(スペック)が違うので、そこは人外としての特権とも言えるかもしれない。

 しかし、単純な膂力(パワー)敏捷(スピード)であれば?

 スピードはシュトルツの方が上だろうが、パワーはオルグの方が上なのだ。単純な力押し合いになれば、シュトルツは負ける。

 力を溜めに溜めた最大威力であれば、もちろんシュトルツの方が上だろうが……。


(そんな隙を、コイツが許してくれるとは思えんな)


 それほど、オルグは甘くない。


「チィ、本当に忌々しい奴だ」

「グワーーーハッハッハッハ!! それは褒め言葉として受け取っておこう」


 オルグはどんな策を隠し持っているかわからない。

 なので、シュトルツは──


「して、シュトルツと言ったな。御ヌシ、勝利とは何と捉える?」


 次なる手を打とうとして、そんな質問を投げかけられた。


「何だと……?」

「まあそう身構えるな。コレは、軽いコミュニケーションのようなものだ。して、どう捉える?」


 シュトルツは迷う。


(罠か……? だが、何かを企んでいる様子は──)


 次の瞬間、シュトルツの後頭部に青天の霹靂のような激痛が走る。


(なん……だ……? 何を……された……?)


「グワハハハ! やはり有用だな、この術は」

「な……に……?」

「仙術よ。黒仙(コクセン)に習ったのだが、これが有用でなァ」


 そうだ、そうだった。勝利に貪欲なコイツが、こんな裏技を学ぶのを怠る筈がない──と、シュトルツは激痛の中で妙に納得してしまった。


「それ、もっと行くぞォ!」


 オルグが叫ぶと同時に、数々の痛みが襲ってくる。


(左側頭部、そして狙ったように右脇腹に一撃……バランスを崩されたところ、四肢に二発ずつ……コイツ、ずっと準備していたのか……あの会話は、あくまでもオレを困惑させ、悩む時間を生み出すため……)


 冷静に分析しつつも、反撃法を探るシュトルツである。

 立ち上がった次の瞬間に背後から左肩に向けて飛んできたと思われる空弾を弾いたが、見え透いているかのように弾いた左腕に向かって空気弾が飛んでくる。


(これは……アヴラージュが食らった〝(から)()ち〟なる仙術と同じ原理か……しかし、威力が桁違いだ……繊細さこそあれ、アヴラージュが食らったものよりは杜撰(ずさん)……しかし威力は高い、か)


 全身に傷を受けながらも対象の分析を怠らないシュトルツは素晴らしいと褒め称えられるに価する人格をしているだろうが……それでは、勝てない。


(防御をしても、隙を生じぬ二段構えの攻撃が飛んでくる……しかし、一撃が重い。そうかコイツ……オレが部屋に入る前から用意していたな……?)


 弾き方を変化球にすれば予測攻撃こそ対処出来たものの、それをも見透かされたようにオルグ本体からの攻撃が飛んできた。オルグの攻撃は空気弾のそれとは全く違い、それよりも遥かに重い。


(厄介だな、心底厄介……。これはマズイな。流石に、使わざるを得んか……)


 そうして、シュトルツも覚悟を決める。


「何ッ!?」


 起こったのは大爆発──に見える程大きな、シュトルツの魔力解放。

 生み出された魔力衝撃波により、浮かんでいた空気弾含む戦場(フィールド)はリセットされた。


「さァ、やり直しだ」


 驚き固まったままのオルグに告げるのは、真っ白な髪に碧眼を併せ持ち、漆黒の礼装とマントを身に纏う、従来の姿を反転させたような姿になったシュトルツである。

 先刻の連撃によってボロボロになっていたハズの礼装も、なぜか新品同然になっていた。

 そう、彼が使ったのもリーベと同じく『本質反転(アンヴェルシオン)』である。

 誇りを司る〝誇り高き黒竜(フィエールドラゴン)〟という種族名を持ったシュトルツの存在が『反転』したらば、その司る概念感情は──

 誇りとは転じて、自己主張である。自身という存在、はたまた自身が持つ力を誇示し、他に周知させる事……とも言えるかもしれない。

 自身を大きく見せるという点では同じだが、全く逆の意味を持つ概念が存在した。

 それが──〝虚飾〟。自身を現時点以上に大きく見せ、取り繕う事。

 シュトルツの種族名は誇り高き黒竜(フィエールドラゴン)から虚飾の白竜(パラド・ドラゴン)へと変化した。

 その権能は──事実・事象、はたまた概念の偽装・欺瞞。権能名は、『虚飾現実(ヴァニティリアル)』。名の通り、事実──現実世界に『虚飾』を加える能力。


「……急に変わりやがったな、面白(おもしれ)ェ──」


 そう呟いた直後、オルグの後頭部に激痛が走る。


「──はァ?」


 オルグは理解出来ない。が、そんな事は関係ない。


「グッ、ウッ!?」


 次々と、様々な箇所に衝撃が加えられる。一方、目の前のシュトルツは微動だにしていない。


「クソがッ! 何をしやがったァ──ッ!!」


 激昂したオルグは、目の前のシュトルツを力任せに殴りつけた。──が、手応えは少したりともなかった。


「何──ッ!?」


 次の瞬間、真横から違う(・・)シュトルツの蹴りがオルグの顔面に炸裂する。


「ゴフェ──ッ!?」

「驚いたか? オレも実は、お前のように勝つためには手段を選ばない主義でな。お前からは正々堂々とした雰囲気を感じた気がしたので付き合ってやったまでだが……こんな腹の中を見せられちゃ、手加減も出来ん」


 反転したシュトルツの権能である『虚飾現実(ヴァニティリアル)』には、名の通り現実に『虚飾』を加える効果がある……というのは、先程話した通りだ。この能力は、シルティアスが使う『幻』の能力にも通ずるところがあり、強い幻覚作用も持つのだ。

 シュトルツが『反転』直前──いや、直後に放った魔力衝撃波は、ただフィールドリセットのためだけに放ったものではない。あの時点であの場に立っていたシュトルツは既に偽物であり、本物はオルグの背後に回り込んでいた。

 ちなみにだが、オルグの横顔を蹴ったシュトルツすらも『虚飾』で、足の部分はただの魔力の塊。『虚飾』外から見たならば、魔力弾がオルグの横顔に炸裂したように見えるだろう。

 シュトルツが『反転』した時点で、フィールドは既にシュトルツの支配下にある。その時点から戦場に存在するモノは全てが虚飾(ウソ)であり、全ては〝シュトルツの勝利〟にしか直結しない。

 オルグがまた目の前のシュトルツを殴ったが、それも消える。

 別の地点にシュトルツを見つけ、そのシュトルツの背後にあった生き残った空気弾を見つけたので、向かってくるシュトルツにけしかけるも、空気弾はシュトルツをすり抜けて自身に直撃する始末。

 更に周囲から不可視の連続攻撃を食らい、オルグは既に満身創痍。

 そして最期は──


「ゴハァ……ッ」


 全ての『虚飾』が晴れた次の瞬間には、シュトルツの腕が自身の心臓部にある、魔人化した事で生まれた〝魔核〟を貫いていた。

 全ての『虚飾』が晴れたのは、シュトルツが再度『反転』して誇り高き黒竜(フィエールドラゴン)に戻ったから、である。

 ちなみにだが、本物のシュトルツはずっと、オルグの背後にピッタリとくっついていた。〝自身の前方にいるシュトルツ〟を狙っていた時点で、オルグに勝ちはなかったのだ。


「ゴフッ……チィ、ここで終わりかよ……」

「そうだ。このまま、お前は死ぬ。最期に言い残す事は?」


 そんなシュトルツの()(きた)りな問いに、オルグはこう答えた。


「ヘヘッ……最期にこんな強者(ツワモノ)と戦えるなんてなァ。俺様は……最後まで、幸せ(モン)だぜ……」


 負けたというのに清々しい顔で、体内の魔子及び魔力は暴走して内部から爆発し果てたのだった。


 シュトルツは溜息を吐いて、少しばかり地面に座り込む。


「せっかくの礼装が台無しだ……」


 シュトルツが身に纏うマントと礼装は、なんとボロボロのままに戻っていたのだ。

 実は、シュトルツは礼装の具合までも『虚飾』で誤魔化していた。ただの私用ではなく、その方が相手が異常性を感じやすいから、である。


「勝てたからいいものの……どうしたものか」


 既に戦闘用礼装はシュトルツ自身となっているので、時間が経てば傷と同じく再生するだろう。だが、台無しなのはその通りだった。

 ここで衝撃の事実を打ち明けるが、概念竜と言っても『概念要素』をその身に宿しているだけで、身体構造的にはただの龍族(ドラゴン)と変わらない。流石に、肉体性能(スペック)で言えば龍族(ドラゴン)の最上位種族である龍王(ドラゴンロード)よりも上ではあるが……身体構造は、魔物を超越したようなものではなく、しっかりとした魔物なのだ。


 なんやかんやあって勝利し、その少しの感傷に浸るシュトルツに、そんな気持ちをぶち壊さんが如くの来訪者が現れる。


「まぁ、いいタイミングで決着がついていましたのね」


 なぜか敵だったはずの男を連れた、リーベである。


「リーベ? そいつは……敵ではなかったのか?」


 あからさまに敵意を剥き出しにして答えたシュトルツに対して、リーベが丁寧に答える。

 大体の事情を説明されたシュトルツは──


「協力するというのなら、まぁいい。足手まといにだけはなるなよ」


 そう、突慳貪(つっけんどん)に答えたのだった。


   ◆◆◆


 視点は変わって数刻前。


 シュトルツが残った部屋を抜けた先にも部屋があり、案の定一人の男がいた。


「ゲハハハ、やっと来やがったか──って、数が少なくね──」


 全てを言い終わる前に、シルティオスが首をハネた。

 何をしたのか、俺には全く見えなかった……。


『あれはね、光を操作して刃状に形成して、それであの男の首を()ねたんだよ』


 あーうん、わかりやすい説明ありがとう……。

 という事らしいのだが、なんとシルティオスは次なる扉に着く前にそれを行い、なんとその次には光の棘で男の心臓部をめった刺しにしたのだ。

 結果、男は爆発し果てた……のだが……。


「おいおい、ちょっと死体蹴り(オーバーキル)が過ぎないか?」


 そう思ったので、素直に聞いてみた。

 しかし……どうやら、シルティオスには届いていないようである。

 なんだかコイツ、転生直前の俺を思い出すな。妹とか家族のために躍起になって、我を忘れた感じになってた、あん時の俺だ。

 今のコイツ、結構な無茶……それこそ、自分が犠牲になる事も厭わずに戦おうとしていないか……?

 そんな一抹の不安を浮かべつつも、俺達は扉を開けて前に進むのだった。

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