第28話 発足と対峙
シルティアスは柄にもなく熟考する。
(もし〝星天機環〟を利用しようとしているなら、私を核とした起動も跳ね除けられるハズ。でもそうなると、私の肉体や魂に負担がかかりすぎる……)
最初は口うるさかったシルティアスだが、今はそんな事ばかり考えていた。
保身か、成果か。経験値こそあれどまだまだ精神的に子供なシルティアスは、そこで悩むのだ。
「おや、意外と長う間考えるんやね。まぁ、無駄やけど。白仙」
「わかってる」
黒仙が合図を出し、それに白仙が答える。そして白仙が、何やら機械を操作し始めた。
(強制的に起動してやろうって魂胆ね。そんな事、私にはお見通し──)
「ああ、別に強制起動しようってワケやないんやで」
「なっ!?」
白仙が電子盤の操作を完了すると同時に、シルティアスの頭に機械が被さる。鼻から上を覆うような機械で、その用途は──
「あっ……あっ、あっ、やだ、やめて、いや……」
洗脳。
そして、洗脳対象であるシルティアスの能力を使った、強力な幻覚作用。
………
……
…
『出来損ないめ』
シルティアス自身の力で生み出されたシルティオスの幻像が、シルティアスに向けて吐き捨てる。
シルティアスの心を叩いたのは、深い絶望と喪失感。
「ど、どうして…………そんな………………」
『私の言う事も聞かず、勝手に行動しては、面倒事に巻き込んで……もう、沢山だ』
「そん、そんな…………」
それは、シルティアス自身が一番恐れていた事。
兄に、見捨てられる事。
吐き捨てるように、突き放されてしまう事。
そして──
『お前なんて、もう私には必要ない』
兄に、必要とされていないと、突きつけられる事。
「いや……いや、待って! やだよ、おにぃちゃん!!」
シルティアスは涙を流しながらシルティオスに縋り付く。
しかし……造り出された幻像であるシルティオスは、無慈悲にも──
『やめろ、こっちに来るな。どこかに消えろ』
そう、言ってしまう。
『お前さえ居なければ、私は──』
………
……
…
シルティアスの心が、キカイと同調していく。
深い悲しみと絶望に塗り潰された幼い心は、破壊の方へと進む。
淡い輝きを放ち始めた〝星天封環〟がギシリと音を立てて回転を始めた。それに接続されたシルティアス自身も──否、シルティアスの心臓部も、共鳴するように淡い輝きを放っていた。
「始まったようやね。ここから、丸一日耐え凌がんといけんのか」
「厄介だよね」
「まぁそうやな。ま、オレ達が負けるなんてあり得へんのやから、作戦の成功は必然やけどな」
涙を流し、深い悲しみと絶望に染まり、全てを破壊するキカイの核に成り果てたシルティアスを眺めながら、黒仙と白仙は嗤う。
◆◆◆
「で、その〝星天宮〟ってのには、どっから入るんだ?」
そこが問題だ。ま、シルティオスはわかっているだろうという事はわかるので、黙って着いていけばいいのだが……まぁ、一応聞いておく事にしておいた。
「王都中心の宮殿からだ」
「え、キカイがある間に直接入るのか?」
「そんなワケはない。最奥の間に行くには迷宮を超える必要があるし、何より、そんなにすんなりと入れてくれるわけないだろうな」
まぁ、それは確かに。
さて、そんな話をしながらも、オーヴァル宮殿に辿り着いた俺達。国内での『飛翔』も駆使して移動していたので、移動時間はそこまでかからなかった。
シルティオスが宮殿内の構造を知っているだけあって、めちゃくちゃスムーズに進む。ノンストレスで快適だ。
シルティオスが基盤のようなものと魔法陣を同時に操作して、開いたのは隠し扉。その向こうにもまた、魔法陣。
なんとも異世界らしい宮殿である。
「さぁ、全員で魔法陣に乗れ。まぁ、どうせそんな生易しく受け入れてくれるわけもないが……」
それは全員が承知済みである。何なら、シュトルツなんて血湧き肉躍る戦いに期待しているようだった。なんというか、戦闘狂だな……。
そういうわけで、全員が魔法陣に乗る。その上で、シルティオスが魔法を発動させて地下に『転移』するというわけだ。
「そういえば、なんで黒仙達はキカイの部屋まで行けたんだろうな?」
「……大方、私達が作った機構などを知り尽くしている者が協力者になっていたんだろう。でなければ、地下の〝星天機環〟の存在……そしてその詳細を、知っている筈がない」
まぁ、そう考えるのが妥当、か。
この世界に来たばかりの俺は考えても無駄なので、サッサと脳内メモリーから削除する事にした。
そうこうしている内に、『転移』も完了する。
転移した先は、薄暗い場所だった。目の前に巨大で荘厳な大門があるのみ。
「チッ、やはりか……。この先は、私達が用意した侵入者を排斥する迷宮になっている。……ハズだが、どうなっているかな」
何やら意味深に呟きながら、シルティオスが重そうな扉を押す。ギギギギギ……と、軋みながらゆっくりと金属製の扉が開いた。
「…………そうか」
その先には、広大な広間。
そしてその奥には──
「あー、来たのか……。別に来なくても良かったのにな」
何やら気怠げな雰囲気を纏った美青年がいた。
目はどこか虚ろで、巨大な鎌を壁に立てかけている。
「お前は?」
「黒仙って奴に雇われた……まぁ、用心棒みたいなもんだ」
『ええ趣味しとるやろ?』
「おわっ!?」
突然、俺の目の前に黒仙が現れた。
咄嗟にぶん殴ったが、感触はない。三次元映像のようなものだろうか……? この世界にそんな科学力があるとは思えないので、魔法によるものだろうか?
『わざわざ数合わせてあげたんやで? 感謝せーや──って、一人おらんようやけど?』
そうだった、ルディアは俺の中に戻しておいたのだ。
最悪の場合のための、切り札である。
「ああ、アイツは急用で来れなくなっちまったみたいだ。別の国で事件が起こったらしく……ってか数合わせって、誰も頼んでないんですケド」
『まぁまぁ、そう言わずに。最後にこっち来るのはそこのお前と水竜様だけでええからな、他の奴らは、オレが雇った奴らと戦っとってくれや』
完全に相手の土俵の中だが……どうするんだ?
「どうするよ」
「……乗ってやろう。私とお前を通してくれるというなら、こちらとしても大歓迎だ」
だそうだ。コイツもコイツで戦闘狂だな、まともなのは俺だけか。
「で、とりあえず目の前の奴とは誰が戦う? それと、黒仙はチラついてるとイライラするから消えてくれ」
『なんや、辛辣やなー。まぁええわ、今は消えたる』
やっと消えてくれた。
「わたくしが行きますわ。少し……気になる事がありまして」
リーベが?
リーベってさ、サポート性能だったよな? 戦えんの?
──という質問をしようとしたのがバレていたのか、シュトルツに睨まれた。
なので、何も言わず送り出してあげたのだった。
◇◇◇
リーベは前の部屋に残り、シュトルツ、ルディア、俺、シルティオスは次の部屋へ。
雇い主である黒仙による事だからか、門番的なアイツは俺達の事を見逃した。というか、戦うのを拒否していた。
なんともダウナーな奴である。
さて、次の部屋に待っているのはどんな奴──
「ガハハハハハ!! 本当に来やがったぜ! どいつもこいつも、歯応えのありそうな奴らばっかじゃねーか!! あーでも、選べるのは一人だけなんだっけか? 惜しいモンだぜ。ガハハハハハ!!」
なんともまぁ……癖強な奴らを集めるもんだ……。
こっちは傲岸不遜そうな感じだ。
これ、シュトルツがお似合いなのでは? シュトルツは〝誇り〟を司る竜だしな、シナジーも感じられるし。
「……わかっているとも。オレが行く」
だろうなぁ。
これは、異論なんて出ないよ。少なくとも俺からは。
ま、シルティオスと俺には先客がいるしな。
「本当に残念だぜィ。ほれ、通りな」
相手もこう言っているので、早く隣の部屋に進もう。
俺達は更なる大門を潜って、次の部屋へと進む──。




