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第27話 思惑と作戦

 (あさ)(はなだ)(いろ)の瞳が開いた。

 シルティアスは、周りを見渡す。


(薄暗い……でも、知ってる……?)


 心当たりがあった。

 シルティアスがいる場所は、ヴァルネリ共和国の地下深くに存在する秘匿された星地──名を、〝星天(せいてん)(きゅう)〟という。

 薄暗いが、それはシルティアスが一時的に『魔力探知』を使っていなかったから。発動再開すると、視界は開ける。

 天井には星々が(ちりば)められ、一定の間隔を保ちながら最奥に向けて柱が乱立していた。床に敷かれたカーペットは、真紅と青碧(せいへき)で彩られ、神秘的な模様を描いている。

 最奥には、祭壇のようなものと、玉座が。最奥には、五メートル程度の段差がある。


(ここは……そうか、私達の生誕地……。でも、ここは……?)


 シルティアスはというと、その最奥への段差一歩手前に設置された檻に入れられていた。

 否、檻ではない。それは奇妙なキカイのようなもので、巨大な渾天(こんてん)()のような機械(モノ)の中心にシルティアスが浮いて(・・・)いた。


「お、起きたん? 遅かったねぇ。まぁ、概念竜と言っても概念を宿してるだけやからね」


 おちゃらけたような声が響き渡る。

 シルティアスが囚われた〝星天封環(せいてんふうかん)〟の前に立つのは、漆黒の男物の着物に見を包む男……他でもない黒仙(コクセン)。──と、もう一人。


「これが水竜様の片割れ(・・・)ね……」


 黒仙(コクセン)とは真逆、純白の女物の着物に見を包む女──名を、白仙(ハクセン)黒仙(コクセン)とは兄妹の間柄であり、共に犯罪の数々を犯してきた相方。


「そうや。これが、依頼人(クライアント)様が殺すよう言っとった獲物の片割れや。んでもって、今回の作戦の鍵やな」

「鍵?」


 黒仙(コクセン)白仙(ハクセン)が話し合っている。それは何やら不穏で……。


「……鍵? 私が? どういう事よ?」

「おん? 口割らん気か。まあええで、情報は掴めとんねん。なんや水竜様、この……〝星天(せいてん)(きゅう)〟やっけ? 最奥にあるこの機械、アンタらが作った最終兵器らしいやん」


 シルティアスは血の気が引く感覚を覚えた。


「それを利用するようにって、依頼人(クライアント)様が仰るねん。それで調べてみたら、素晴らしいやん、ごっついもん隠しとってからに」


 これ以上、黒仙(コクセン)の話を聞いていたくなかった。


「聞いてみたら水竜様、アンタらが動力源言い張りますやん。これ以上好都合な作戦もありゃせんわ」

「だから、私の手で〝守る兵器〟から〝奪う兵器〟に改造した」

「……そういうこっちゃ。名付けるなら〝星天壊環(せいてんかいかん)〟──かな」


 身の毛が弥立(よだ)つような恐怖が、容赦なくシルティアスに襲いかかる。

 元々この機械──〝星天(せいてん)()(かん)〟は、シルティアスとシルティオスが自分達でもどうにも出来ない非常事態の為に作ったキカイだった。

 自分達に何かあった時、この国を護れるように。それを先導したのはシルティオスだった。邪魔だとか鬱陶しいとか、なんやかんやで一番シルティオスが国を案じているのだ。

 それが今や、無差別に命を奪うキカイへと変わってしまった。

 と、そこで。


『シルティアス』

『おにぃちゃん!』


 送られてきたのは、シルティオスの思念。案の定魔力による妨害があったが、やはりシルティオスとシルティアスの〝絆の廻廊(かいろう)〟の前には無力だったのだった。


()(げん)(きょう)()を使うが、いいな?』

『うん。もちろん許可するけど、気をつけてね』

『何?』

『私がいるのは〝星天(せいてん)(きゅう)〟だよ』

『ふむ……』

『それに……〝星天(せいてん)()(かん)〟が改造されちゃった!!』

『何だと……?』


 念話越しにシルティオスが唸る。


『敵は?』

『敵もいるみたい。いつの間にか……ここも奴らに改造されているみたいだった。最奥の間はそのままだけど、多分……』

『みなまで言うな、わかっている』


 それだけ交わして、シルティオスは『念話』を終わった。

 シルティオスもわかっているのだ。〝星天(せいてん)(きゅう)〟はシルティオスとシルティアスの聖なる生誕地。シルティオスにとってはホームグラウンド。それを迎え撃とうとしている敵が何も策を弄さない筈がないのだ。

 なので──


(それがあるとしても、問題はない。シルティアスを傷つけようと目論むならば、妨害も、何もかも全てを超えて助け出すまで)


 シルティオスの覚悟が、それを上回るだけである。


   ◆◆◆


 暫しの間黙り込んでいたシルティオスが口を開いた。


「シルティアスの居場所がわかった」

「そう。まぁ彼女で悪事を企むって言ったら、人質か、それか……」


 ルディアが何だか不穏な事を言っている。

 人質は、まぁわかる。言っちゃ悪いが、彼女はシルティオスに対して最大の手札となるだろうから。

 そんで、それか、って?


「ああ、ルディア。お前の考察で合っているとも」

「まぁ、だろうね」

「おいおい、二人だけで話進めんなよ」


 そういえばシュトルツ達は意見を出していない……コイツら、最近影薄くないか? いや、それは失礼か。


「そうだったな。全てを把握している者だけではなかったか……シュトルツ達からすれば退屈な話になるだろうが、聞いてくれ」

「別にオレは気にしない」

「わたくしもですわ」

「よし」


 それから、シルティオスが順を追って説明し始めた。

 まず、この国について。この国の成り立ちでもあるあの神話は、事実である、と。

 そしてシルティオスやシルティアスの持つ力は、他の概念竜に比べて薄弱である、という事。これに関しては首を傾げたので、ルディアに聞いてみた。


『彼らはね、確かに権能自体は微妙なモノなんだ。でも、それを彼ら自身の経験値による技量でカバーして、誤魔化しているような感じなんだよ』


 という事らしい。

 なので、彼らは自分達のどちらか自身を動力源──つまり〝(コア)〟とするキカイを造り出したんだそうだ。造物主自身が動力源となる……というのは聞いた事がなかったが、概念竜が核となるキカイとなると、もの凄い威力を秘めていそうだ。

 シルティアスの話によれば、〝守る機械〟だったそれが〝奪う機械〟に造り変えられているのだそう。

 動力源に使われているのは、もちろんシルティアス。


「もし本当に〝奪う機械〟に変えられているとして、あれが発動してしまえばこの国は終わりだ。この国周辺の小国も……それどころか、アグニル王国より東の大陸が消え去り、地図が変わるかもしれん」


 なんという予想被害規模。地形どころか地図を変えるほどだそうだ。

 絶対に阻止しなければならない。もう、人の目とか、差別とか、迫害とか、そういうものを気にしている場合ではなくなってきている。


「だが幸いにも、機械は強力故に起動・発動するまでに時間がかかる。一からの起動には半日、起動してからの発動にも半日。タイムリミットは丸一日というわけだ。つい先程、シルティアスへの連絡が繋がった。少し早く見積もったとして、目覚めたのは数分前だな」

「それじゃあ、発動までに機械を止めて、シルティアスを救出、黒仙(コクセン)をとっ捕まえて、誰の命令かを吐かせる」


 あ、そうだ。これだけは聞いておかねば。


「なぁ、シルティオス」

「何だ?」

「これは本当に最悪の場合の手段だが……そのキカイは、ぶっ壊してもいいのか?」


 俺の問いに、シルティオスは暫し唸って──


「構わない。そんな時に渋っていては、救えるものも救えないからな」


 なんという思い切りの良さ。前世の俺にはなかったものだ。とても見習いたい。

 失敗すれば俺達は全滅……どころか、地図すらも変わってしまうような被害を及ぼされてしまう。絶対に、失敗は許されない。


「総力戦だな……」

「……緊張してるのか?」

「あァん? 当たり前だろ。シュトルツ達はともかくとして……シルティオス、アンタとはほぼ初対面なんだぞ?」

「それもそうだな。改めて、よろしく頼む、アヴ」

「ああ、よろしく。あと、その呼び方はルディアの特権な。俺には〝アヴラージュ〟ってちゃんとした名前があるから。そっちで呼んでくれ」

「ふむ、そうか。よろしく頼む、アヴラージュ」

「おうよ!」


 こんなに話しておきながら、まだ自己紹介をしていなかったなんてな。とんだ凡ミスである。


「おっと、伝え忘れていた。これは飽くまでも頼みなのだが……」


 シルティオスが、唐突にそんな事を言い始めたのである。


「出来るならば、起動までに止めて欲しい。尽力はするが、そうなると被害が甚大になってしまう」

「何だって?」

「キカイ……〝星天(せいてん)()(かん)〟は、発動すると尖塔のような砲身が地表に露出する。それがあるのは、ちょうどヴァルネリの王城の真下……つまり、起動した時点で王城は壊滅してしまう」


 えっと……それは、そんな場所にキカイを用意したあなた方が悪いのでは?

 自分達の()(せき)じゃん。

 それは自分でどうにかしてほしいよね。──と、言いたいところではあるが……今は、そんな下らない事を言っている場合ではない。なので、一応は何も言わないでおいた。


「まぁ別に、これは守られなくても構わん。発動直前になれば、私の方から国民に告げておく」

「本当に出来るのか? 絶対さ、内部では魔力で通信妨害されてるぞ?」


 そんな俺の指摘に、シルティオスはフッ、と笑って答えた。


「発動を時限式にしておけばいい」


 そんな事出来たんだ……と、俺は面食らった。

 これじゃ、指摘した俺が馬鹿みたいじゃん!!


「…………恥じる事はないぞ。ルディアから聞いている。聞くところによると、アヴラージュは生まれたてらしいではないか。わからなくても、無理はない」


 クソぅ、そんな励まし方されると余計に惨めに……なんて、言ってる場合じゃないか。


「はいはい、いいっていいって、慰めは。そんじゃ、さっそく作戦開始!」


 俺は、拳を前に突き出す。ほら、よくあるあれだよ、あれ。


「ふふっ……おー!」


 俺の意図を汲んでくれたのか、ルディアも拳を前に突き出して俺の拳にぶつけた。

 それを皮切りに、シュトルツ、リーベ、シルティオス……と、全員が拳を合わせる。

 やりたかったんだよね、こういうの。

 まぁ何はともあれ、これが歴史的な大事件の幕開けとなるのだった。

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