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第22話 護り神

 さて、ルディアの手引でもう一度〝炎の谷〟に戻ってきた。


「方向はボクが案内するから、飛んでいかない?」

「そうだな、それがいいかも」


 その方が早いしね。

 そう思って飛ぼうとしたのだが──


「あ──?」


 飛べなかった。

 飛び立とうとして、ボトッと地面に落ちる。

 スキルや魔法は大丈夫だ、問題なく使える。

 けど、飛行関係の事は何一つ出来なかった。


「…………アヴ?」

「……あれ?」


 思ったように動けない……。


「…………はぁ、仕方ないな」


 少し面倒そうに呟きながら、ルディアは俺を抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこ。


「ちょ、ルディア!?」

「これしかないだろう? ボクだけ飛ぶわけにもいかないしさ」


 そ、それはそうだけどさ……。

 なんか……マズくない? これ……。

 そう思ったのだが、ルディアからすれば「どうでもいい」事らしい。納得いかん。

 というか……飛んでいながら思った。

 ルディア、かなり手加減していたんだな、って……。

 だってルディア、俺よりも数倍早い速度で飛ぶんだもん。俺に速度を合わせてた、って事だよね……やっぱルディアって凄いな。立ち位置的には、俺の師匠とも言えるのかも?

 素直にそんな事を思って、俺はルディアに身を委ねる。


   ◇◇◇


 ホント凄い。あっという間にヴァルネリ共和国に着いてしまった。

 もはや言う事もない。


「ありがと、ルディア」

「それ程でも。さ、早く入国しよう!」

「うん」


 ちなみに、少し離れたところに着陸していた。また騒動になったらいけないと、俺が提案したためである。


「あっちにもボクの知り合いがいるから、ひとまずは落ち合おう。連絡はシュトルツ達がしてくれているはずだよ」


 本当に人脈の広い奴である……。一体、どれだけの〝知り合い〟が世界にいるのやら。本当に底の知れない奴であった。

 そして、順調に入国審査へ。


「それでは、身分証の提示を」

「はいは〜い」


 ササっと冒険免許証(ライセンスカード)を差し出す俺とルディア。

 今度は、騒動が起こらないといいな。


「冒険者さんでしたか! 我らがヴァルネリの首都〝パーニ〟は水の都と呼ばれ、観光名所としても有名です。それに……今日から三日間は年に一度の〝水竜祭〟ですので、ラッキーでしたね。どうぞ、楽しんで」


 と、入国審査官の人が言ってくれた。かなり治安も良さそうな国である。


 道すがら、ルディアに色々と教えてもらった。

 ここ、ヴァルネリ共和国は、首都〝パーニ〟を〝水の都〟と呼ぶだけある、水の属性を宿す国だそうだ。

 起源は、本当に小さな国だそう。ある日大火災が起こり、あわや国家滅亡というその時、海を割って現れた〝水竜様〟なる存在が火を消し止めたのが信仰の始まりであるそうだ。それ以来、この地に住まう王が国を興し、その地に住まう者達は自らを〝竜を祀る民〟を名乗り始めたらしいな。

 そして、今日……つまり〝水竜祭〟の日が、その日。伝説の始まりとなった日らしく、だからこんな盛大な祭りが催されているというわけだった。


「そういえば、シュトルツ達はどうしたんだ?」


 屋台で買った焼き立てのパンを頬張りながら、俺はルディアに聞いてみた。

 そうなのだ。ここまで結構歩いたように思うが、まだシュトルツ達を見かけていない。アイツらの事だから、どこかから俺達が来たのを確認してすぐこっちに来そうなものだと思ったのだが……。


「うん? ああ、彼らなら、ボクの知り合いに一足先に挨拶しに行っているんじゃないかな。ほら、意外と急な来訪だったから」


 うーん……?

 何を言っているんだ、コイツは? というか、コイツの人脈広すぎだろ!!

 聞いても面倒になるだけだとわかっているので、スルーする事にした。


 ──と、その時。


「あっ」

「ギャハハハ! 呑気に食べ歩いてっからだ! コレは頂いていくぜ!」


 引ったくりだ。金銭的な余裕も相まって、少し高いのを買っていたからな……バレたか。

 最初は治安が良さそうな国だと思ったのに──と思い、走り始めようとしたが……。


「おい?」


 ルディアが首を横に振る。


「引ったくりだぞ!? 捕まえなきゃだろ!!」

「その心配はないよ。だって──」


 はあ?

 イマイチ、ルディアが言っている事が理解出来ない……。

 とも思ったのだが、次の瞬間にはそれを理解する事になる。


「そ〜こまでだぁ、引ったくり犯!!」


 溌剌(はつらつ)な少女の声が、その場に響き渡る。

 次に瞬きする時には、一人の少女が俺の隣を通り過ぎていた。


「なっ!? な、何モンだ、テメェ!!」

「何モンも何もないよ! 私達のお祭りで何してるの!」


 (から)(くれない)(いろ)の髪を持つ少女だ。瞳の色は、綺麗な露草色(つゆくさいろ)。頬には、同じく露草色(つゆくさいろ)のデルタ模様があった。引ったくり犯の首根っこを掴んで、何やら説教している。

 ってか、そんな事考えている場合じゃない。あの子、俺の認識速度より遥かに速い速度で移動していなかったか……?


「ごめんなさ〜い! お祭りの日になると、どうしてもこういう輩が現れちゃうの! これ、お返しするね!」


 屈託のない笑顔を浮かべながら、少女は取り返したパンを返してくれた。

 なんというか、不思議っ子といった感じの雰囲気を感じる。


「ところで……」

「うん?」

「キミ、何者?」


 この子、やっぱり──ッ!!


「なんでルディアと一緒にいるの? キミ、もしかして──」


「ねえ」


 驚くほど低い声で、ルディアが少女に話しかける。一方の少女も、肩がビクッと揺れていた。

 俺だって内心冷や汗をかくほどなので、少女の反応も頷けるものだ。


「何を勘ぐっているの? その子はボクの友達だよ。それとも、それすら疑うっていうのかい?」


 前から思ってたけど、ルディアって案外脳筋だよな……。

 素の威圧がヤバ過ぎるので、威圧すれば大抵の事が丸く収まりがちなのもかなりマズイのかもしれない。まあ、俺が不幸を被る事は今のところないので、注意する気もないが……絡まれた奴はお疲れ様って感じだな。


「…………る、ルディアがそう言うなら、私が言うべき事じゃないよね……」


 平静を装ってはいるが、内心は汗びっしょりだろう。俺もそうなので、なんだか仲良くなれそうな気さえする。


「まったく、アヴの事を伝えておくように言ったのに、シュトルツ達は何をしているのやら……」


 あ、これは矛先がシュトルツ達にも向く感じかもな。


「まあ、勘違いとか、そういうのは誰にでもあるものだよ。キミ、名前は?」


 それはマズイと思ったので、とりあえずは阻止。

 少女の名前は〝シルティアス〟と言った。

 やはりと言うかなんと言うか、彼女も概念竜だった。流石に司る概念(モノ)までは教えてくれなかったが……。


「なぁ、アヴ」

「うん?」

「今日って〝水竜祭〟だろ?」

「ああ、らしいな?」

「その〝水竜様〟って、この子がその片割れなんだよ」

「はあっ!?」


 ニコニコ笑顔でルディアが耳打ちしてきやがったのだ。

 なんという重大情報を……とも思ったが、この国の民からすれば〝今更〟らしい。既に国民のほぼ全員が知っている事であり、逆に俺が知らなかっただけだった。

 そういうのってただの伝説じゃなかったんだ──と、かなり衝撃を受けたのである。まあ、異世界なのでちょっと考えれば「あり得なくはないかな」という感じだが。


「でさぁ、キミのお兄さんはどうしたの?」

「おにぃちゃん? おにぃちゃんなら──」


 シルティアスが呟こうとした、その時──


「まったく、下調べもせずに突っ込むからだ」


 俺達の真上から声がする。

 シルティアスと似てはいるが、彼女とは違って冷静(クール)な声。

 見上げると、やはり上空に人影が見える。

 露草色(つゆくさいろ)の髪に(から)(くれない)(いろ)の瞳を持つ、シルティアスの色を反転させたような印象の青年だ。

 まるで、俺とフィエットのような……。


「おにぃちゃん……」

「お兄様と呼べ。ただでさえ、今日は大切な祭典の日なんだから」


 やっぱり、兄妹……。つまり、この人がシルティアスの兄かな? 呼び方も〝おにぃちゃん〟だしな。

 名前は、シルティオス。もっと違う名前でも良かったんじゃないかとは思ったが、俺が口を出す事ではないので何も言わない。


「私達は二人で一人! 私達こそ、この国で祀られている〝水竜様〟ってわけよ!」

「生命を燃やす火を消し止めただけだ。それを、人間共が勝手に信仰し始めただけに過ぎない。そう誇れる事でもない」


 やっぱりシルティオスはピリッとしてんね。クールだ。

 なんというか、二人を見てると前世の俺を思い出すな。俺はこんなにクールじゃなかったが……シルティアスなんて、美羽によく似ている。

 ズキッと、心臓の辺りが痛む。

 心臓が締め付けられるような苦痛を感じる。

 美羽の笑顔が、声が、脳裏に過ぎ(フラッシュバックす)る。

 ああ、なんで俺、こんな世界にいるんだろう。


「…………?」


 ルディアが俺の肩に触れる。


「…………何でも相談していい、なんて残酷で無責任な事を言う気はないけどさ……心配だよ、アヴ。キミ、色々と思い詰めていないかい?」


 わからない。

 本当は自分がどう思っているのか。

 この世界での生活をよく思っているのか、

 今すぐにでも元の世界に帰ってしまいたいのか。

 やっぱりまだ、覚悟なんて決めきれていなかった。

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