第1話 転生、混乱
目を開ける。
そこは、明らかに我が家ではない。病院、でもなかった。
では、どこだろう?
ゴツゴツとした岩肌に囲まれ、俺はその岩肌に寝そべっていた。
──って、はあっ!?
なんで岩っ!? って、絶対、俺の家じゃないな……。てか、病院でもないし──って、洞窟じゃねーか!?
《フフ、驚いているようだね。まあ、無理もないけどさ》
頭の中に声が響く。どこか、フザケたような声色だ。
(いや。誰だよ?)
《じきにわかると言っただろう? ボクの事は、まだいいんだよ》
わけがわからなかった。
そういえば、この声だ。俺が痛いと、怖いと叫んだ時、聞こえた声は。
確か、二度目の人生とかなんとか言っていたよーな……?
《ハハハ、その通りだよ。キミはトクベツ勇気がある人間だったからね。僕の手で、新しい人生をあげたのさ》
はあ? どういう──
そこまで思った時、俺は俺自身の体に違和感を覚える。
背中に──何か、小さな突起物のようなものを。それは細長くて……きちんと、自分の意思で動かせる。
そういえば、声も上手く出せない──が、少しずつ感覚を取り戻してきたぞ。
ええっと──
「きゅいっ!」
ようやく発した言葉が、これだ。
そして、なんとなーく、俺の全体像も掴む。
人間ではないし、それに、背中の突起物は小さな翼だった。
手も足も小さく、一本の尻尾がある。
オマケに、鳴き声は「きゅい!」というもの。
つまり──
「きゅいっ、きゅいーーーーーっ!!」
イヤ、竜じゃねーか!!
そう、竜だ。まだ小さいが、確かに竜の体だった。
つまり、俺の二度目の人生というのは──
「きゅいーーっ!?」
ドラゴンかよ!?
──人生ではなく、ドラゴン生(?)だった。
◇◇◇
よし、まずは、俺の記憶を振り返ってみよう。
俺の名前は天音龍我。引きこもりの高校二年生。突然家に強盗が押し入ってきて、妹の美羽と母さんを逃がして、刺されて死んで……。
よし、ちゃんと覚えてるな。まだ慌てる時間じゃないようだ。
え? 普通、もうちょっと取り乱すものなんじゃないかって? イヤ、不思議と大丈夫なんだよな。
人間の脳は不思議な構造をしていて、パニックになりすぎると、逆に落ち着くのだ。今の俺が代表例。
《やっと落ち着いたようだね》
まあ、うん。そうだね。
《良かった良かった》
なんなんだ、この会話は?
《アハハ、別にいいだろう?》
……でさ。
《うん?》
お前誰? なんで俺の頭ン中で声がすんの?
ってか、ここってどこ? 日本? それとも、海外? ってか……地球?
《う、うん……一つ一つ順に答えるね。まず、ボク。ボクの名前は〝ルディア〟。自分でもかなり気に入っている名前だから、覚えてほしいな》
ルディア、ルディアね。意外とカッコイイ名前じゃん。
《意外とって失礼じゃないかい? で、次は……どうして頭の中で声がするのか、だったね》
おうよ。全くもって現実的じゃない。俺、頭でも打っちまったのか? ……って、刺されてるんだった……。
幻聴に聞くのもどうかと思うけど……名前があったり、結構ハッキリしていたり……信用ならないが、聞いてみるのもいいだろう。非常事態だし。
《そうだね……。現実味のない話だろうけど、素直に言うとすれば〝ボクがキミに宿っているから〟だ》
…………は?
《文字通り、今のボクはキミの内部に宿っている状態なんだ。キミにとって馴染み深い言葉で言うとすれば、〝取り憑いている〟状態かな》
と、取り憑き……幽霊? お前、幽霊か何かなのか?
《うーん、当たらずとも遠からず……。ボクは今、結構危ない状況でね。転生したてのキミに、取り憑く他に生き延びる方法がない》
転生したての俺って……俺以外じゃダメだったのか?
《そうだね。これは、キミがこの世界に来れたメカニズムにも関係しているんだけれど──》
ちょ、ちょっ、ちょっと待て!
《うん? どうしたの?》
今、「この世界」って……言ったよな?
《うん。そうだね》
……じゃあ、ここは、さっきまでいた世界とは別、だと?
《そうだよ。キミ風に言うなら、異世界……かな?》
ま、マジであったのか、異世界。
というか、なんで異世界に来ちまったんだ!?
《……それを、今から説明するよ》
お、おう……そんな話だったような、気もする……。
……とりあえず、頼んだ。
《うん。まず、〝世界〟は幾つもあるんだよ》
元の世界と、ここ以外にもか?
《そうだね。基本的に、魂の廻りはその世界のみで完結しているものだ。ただ、ごく稀に世界同士の〝壁〟を突破する魂が現れる。その魂はその世界で新しい肉体を得て、ついでに第二の生も受ける、というわけさ。そのプロセスの中で記憶や人格の一部が欠落する事もあるようだけれどね》
……ほう。
転生に関するプロセスはわかった。けど、俺じゃなくちゃいけなかった理由は?
《キミが必要だったからだ》
いや、だからその理由をですね……?
《キミの魂の輝きが、ボクの知る〝ある人〟の魂に似ていた。この世界では、結構な非常事態が起こっていてね。もしかしたら、キミが何かの役に立つかも……って思ってね》
何だよそれ……。
《キミは、あのまま死にたかったのかい?》
そりゃ、死にたくない。誰だってそうだ。本当に死にたいなんて奴、この世のどこにも居やしない。
けど……俺からすれば、そんな、世界の危機とか、知ったこっちゃねーよ。家族を守って死んだ奴に何が出来るっていうんだ……。
《いいや、違う。キミは、家族のためなら己が命すら懸けられる。そんな、勇気ある子だ。命までは懸けられなくとも、困っている人を見たら、どんな状況だろうと助けられずにはいられない筈だ》
……お世辞だろ。それで追い詰められてちゃ、わけない。
──変な善意を持って、勝手に動いちまうから。
その人がどんな状況でも、困っていそうだったら助けようとしちまうから。
だから、前の世界でも、いじめられて……。
《キミの事を、傷つけさせない。今度はこの世界で、誰かを……いや、ボクを助けてくれ。キミが、必要だ》
希望を持たせないでくれ。
失敗しかしてこなかった俺に、希望なんか──そう、言いかけた時だった。
ゴトッ。
何か、石か何かが落ちる音。
「……きゅい?」
誰だ……?
誰かいるのか……? それとも魔物か!? 異世界だし、そういうのも居たっておかしくないよな……。
「………………」
岩陰に、プルプルと震えるモノが見える。
ちょっとだけ見えている、黒と銀を混ぜたような色が美しい、天鵞絨のような髪だった。
「……きゅい?」
「わぁーーーーっ!?」
「きゅいっ!?」
岩陰を覗き込むと、そこには──
「ひっ、ひぇえ……」
怯えて震えている、一人の幼い少女がいた。




