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第20話 疎外

「もう落ち着いたかい?」

「うん……もう大丈夫」


 一回寝たからか、だいぶ魔力も回復して落ち着いてきた。

 ずっと近くにいてくれていたんだろうか……?

 そう思うと、なんというか……胸が張り裂けそう? わからんが……。


「もうっ、無理をし過ぎですわ」

「今回はみんなが無理をした結果の勝利なんだ。キミだって、かなり無理をしているだろう?」

「まあ、そうですわね。何度も大量に魔力を消費しましたしね。特に『聖域化結界(サンクチュアリ)』で大量に消費いたしましたわ……」

「かなりの強度の結界だったんだろう? まあ、シャムの力の前じゃ気休め程度だろうけどね」

「そうでもないぞ。アレがなければ、王国内にも被害が及んでいた」


 本当にみんなギリギリまで頑張ったんだな。

 シュトルツもリーベも平気そうにしているが、多分強がりだろうと思えた。息も上がっていたし。


「ルディア、とりあえず宿に戻ろうぜ。シュトルツもリーベも……まあ、そんだけボロボロなら見逃してくれんだろ」


 まずは寝たい。死ぬ程疲れたし、本当に死にかけるとか思わなかったし。


「確かにね」


 そんな俺の提案に、ルディアは笑って答えてくれた。


「一緒に寝てあげようか?」

「馬鹿言うな」

「うふふ、相思相愛ですわね」

「うるせーよ」

「……お前ら、そういう関係だったのか?」

「マジでうるせーよ」


 なんだコイツらは。

 シュトルツもリーベも……。

 まあ、ルディアと寝る……のは……いやダメだろ。ダメ過ぎる。


 そんな下らない会話を繰り広げながら、俺達はアグニル王国の西門に向けて歩みを進めるのだ。


   ◇◇◇


 ふぅ。

 本当に疲れたし、早く寝たい……。

 そんな事を思いながら、いつも通り門を潜る手続きを進める。


「では、身分証を提示してください」


 おっと、シュトルツもリーベも身分証を持っていた。

 ちょっと覗き見てみたが……所在は、プリティヴィエ帝国?

 そんな国もあるのか。ちょっと気になる……。


「では、次の方」

「はい。これを──」


 そう言いながら俺は、冒険免許証(ライセンスカード)を取り出して提示しようとしたのだが──


「やめて!!」


 ──そんな叫び声が、響き渡った。


「それを通さないで! そんな化け物を!!」


 青天の霹靂(へきれき)のような感覚だ。

 化け物……? それ、俺か……?

 いや、いやいや、違うな、きっと。どっちかって言うと、ルディアじゃないかな? ほら、シャムとよく似ているし……。

 そこまで考えて、ルディアが俺の中に戻って休眠している事に気づいた。

 つまり……既に中に入った二人を除いて、そう言われる対象は俺一人。


「な、何を……何を、言ってるんですか。化け物? そ、そんな……」

「化け物よ!! そいつ、空を飛んでいたもの!! あ、明らかに、人間じゃない! 人間じゃないわ!!」


 そ、そりゃ、そうだよ。

 俺は人間じゃない、けど……。

 他の……空を飛ぶ魔物だって、いるじゃないか……。

 そう思って、気づいた。気づいて、しまった。

 人間というのは……自分に不都合な事実を捻じ曲げて認識する癖があるのを。

 そうだったのだ。

 空を飛ぶ魔物もいる。それはそうだろう。

 でも、それは飽くまでも〝魔物〟なのだ。見た目も能力も、人外。

 だが、俺は見てくれだけでも〝人型〟だ。

 飛ぶ時は、『衝撃吐息(インパクトブレス)』の応用で浮遊していた。竜の体というのはかなり便利なもので、竜形態では口からしか出せないが、人型であればどこからでも発動可能なのだ。どうなっているのか原理が知りたくもなるが、今は割愛する。

 本来なら、翼を出した方が飛ぶのは楽だ。

 魔物の〝翼〟には重力操作のような効果があり、()(ばた)かずとも()べるのだ。

 だが、それを人型の俺が使えばどうなるか?

 確実に、誤解を呼んだり、大変な事になる。それこそ、今のような。

 しかし、違った。違うのだ。

 まだ、翼を出しておけば、〝(りゅう)(じん)〟のような認識になっていたのかもしれない。

 俺の考え方は、完全に裏目に出ていた。


「待ってください! 人種差別は──」


 門番の方は、そんな事を言ってくれる。

 だが、まあ、人間というのはそんなに甘くない。


「そいつは人間じゃないのよ!! まさか、化け物をこの街に住まわせるっていうの!? 私達の安全はどうなるのよ!?」


 人間は、少なからず自己中な者が多い。まあ、生き残るためにはある程度の自己中(ワガママ)が必要な場合もある。

 わかってるよ、わかってる。

 けど、けど……。


『……イライラするね。殺すかい?』

『いや、ダメだ。何を言われても、俺の中からは出てくるなよ』

『……どうしてだい? キミだって、こんなに言われたらイライラするでしょ』

『そうだけど、そうじゃない。そういうもんじゃないんだ。こういうのは、加害した方が必ず悪者になるんだよ』


 防げないのだ。防げない。

 どれだけイライラしても、手を出したら負けなのだ。それこそ、こういう差別が助長されるだけ。

 だから、何もしてはいけない。


『なんで? キミは、命すら懸けてこの国を──』

『そういうもんじゃない!!』


 俺も内心かなりイライラしてしまっていたのか、思ったよりも内心で声が出てしまった。


『そういう、もんじゃない。そんな、理屈で言えるもんじゃないんだよ。今は、俺の言う通りにしてくれ……』

『………………わかったよ、キミがそれでいいなら』


 それが伝わってしまったのか、ルディアも渋々といった感じで納得してくれた。

 いつの間にか、次々と野次馬が集まってきている。これ以上、事態を悪化させるのはマズい。


「────チッ、人間ってのはつくづく姑息で汚ねぇな……」


 耐えかねたのか、シュトルツが激昂しかけている。

 それは、流石に許容出来ない。

 俺は心が人間なので〝人間を殺す〟なんていう選択肢は浮かばなかったが、シュトルツは根っからの竜。そんな選択肢も簡単に浮かび、その上それを選択してしまいそうなのだ。


「待て」


 動こうとしていたシュトルツの肩を掴む。

 まだ西門は通過していなかったが、シュトルツを止めるためだ。やむを得ない。

 この時ばかりは、ルディアに『空間転移』のスキルを習っておいて良かったと思っている。目に見える範囲なら簡単に『転移』出来るレアスキルなので、便利な事この上なかった。

 初めて使うのがこんな状況……とは、思っていなかったが。


「何だと、アヴラージュ。お前、この状況でもまだ──」

「待て、つったら待て。人間を殺す事は何があっても許可しない。やるって言うなら、俺が止める」


 俺はかなり本気でシュトルツを威圧しながら、ゆっくりそう告げた。

 流石にそれはマズイと思ったのか、それとも……。まあ、シュトルツはなんとか止まってくれた。それを確認して、俺は心底安心したとも。


「きっ、消え……!? や、やっぱり化け物よ!! 早く、早く誰か追い出しなさいよ!!」


 ──もう、いいや。


「出るぞ、シュトルツ」

「な──」

「出るぞ、シュトルツ」

「だが──」

「出るぞ、シュトルツ」


 これ以上喋るとボロが出そうなので、それ以外は絶対に言わない。

 それだけでいい。もう、どうでもいい。


「……いいか、リーベ?」

「ええ。流石に……歯向かう気力もありませんわ」



 ──そうして門を出て少し進んだところ。


「やっぱりイライラする……」

「当たり前だ。しかし、止めたのはお前だぞ?」

「止めて正解だったんだ。そこは悔いてないけど……でも、それでもだよ」


「それじゃあさ」


 ぬっと、ルディアが俺の隣に出現した。


「おわっ!? ど、どうした?」

「それじゃあ、花火でも上げよう」


 そう言って、ルディアは親指と中指の間に小さな火球を生成する。

 何をする気なんだろう……? というか、花火? 嫌な予感が……。


「ザ・自業自得だよ」


 ルディアが、その火球を中指で弾いてアグニル王国の上空で飛ばす。あるタイミングで、ルディアは指を弾いた。


「なっ……!?」


 すると、その火球はアグニル王国上空で大爆発。名の通り、〝花火〟が上がった。

 俺的には、首都〝アーグ〟に住む人達や……それこそアデルさんや国王様には何ら関係のない事なのに混乱させるのには抵抗があったのだが、ルディア曰く──


「ボクは、そんな事よりもキミの方が大切だよ。そんな事ばかり考えて、キミが壊れてしまったらどうするんだい? ボクの気持ちは? ……つまり、ボクは何よりもキミを優先したんだよ」


 クソぅ、ルディアのやつめ。

 嬉しい事言いやがってさあ。


「……ふ、ふぅん。ありがと、ルディア」


 そう言いながら俺は、ガラにもなくルディアと手を繋ぐ。

 なんだか、出会った頃よりもっと近くにルディアを感じる気がした。

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