第17話 再来
さて、それぞれの自己紹介も終わったわけだが……。
「それにしても、珍しいですわね。シュトルツが負けるなんて」
「チッ。あれは初見殺しで負けただけだ。次は勝つ」
ちょっとピリピリしていて怖い……。
「それで、キミ達はこれからどうするんだい?」
「これから、というと?」
「ボク達の仲間はさ、最近一人が戦死した状態だったんだよね。それであっても三人だったから、二人が入ってくれると嬉しいかなって」
ああ、そういう感じか。
確かに、概念竜が二人も加入してくれるんなら百人力だ。
しかし、お相手の回答は……?
「断る。オレ達にもやる事があるのでな」
「ただの旅でしょうに。ルディア達に協力するのでも、それはそれで愉快なものになるかもしれませんわよ?」
「……むぅ」
シュトルツ達も迷っているようだ。
はてさて、この説得合戦……どうなるか──
「飛べ!!」
──そんな事を考えていた、矢先だった。
理解するより先に体が動く。
先程まで戦っていた相手のシュトルツからの指示だったが、何も疑う事はない。これほどの実力を持つ奴が鬼のような形相で命じてきたのだ。かなりヤバイ事はわかる。
直後、俺がいた地点が爆発した。
「チッ、嗅ぎ回ってきたか! シュトルツ、リーベ、今は協力してくれよ」
「仕方あるまい」
「ええ」
太古からの面識がある三人は流石だ。
それに対して、俺は……。この三人についていけるのだろうか?
いや、考えている暇はない。
そして、俺達の事を付け狙う輩は──
「あははっ、外しちゃったぁ♪」
「シャムッ!?」
──忘れるはずもない、シャムだった。
◇◇◇
嘘だろ──というのが、紛れもない俺の本音である。
だって、そうだろ?
トリステスさんの件で、俺には軽いトラウマが芽生えているのだ。その元凶であるコイツが現れたら、そりゃ現実を疑いたくもなる。
ま、遭遇してしまったからには──って、あれ? おかしいな?
シャムって確か、俺の手で完全に滅ぼしたはずだが……。
「考えてるヒマはないよ!!」
ルディアによる檄が飛んだ。
俺は迷うより先に行動する。『格納空間』から黒銀蒼の竜剣を取り出して構え、シャムの腕を斬り落とす。
「なっ!?」
「今度は何も奪わせないぞ」
「へえ、その口ぶりじゃ、前のボクが何かしたようだね」
前の……?
どういう事だ?
「言っただろ、ボクを元に作られた存在だって!! 別個体なんだよ、前のアイツとは」
そういう事ね。
だったら、拷問とかしてもあまり情報は得られなさそうだ。量産型ってンなら、情報とかそもそも持ってない可能性だってあるし。
仕方ない。
「殺す」
俺は黒銀蒼の竜剣を『格納空間』に収納した。
同時に、身に宿る力を解放していく。
髪は赤く短く、瞳は黄金色へ。
あの時と同じく、燃え滾る竜である。
「なっ!? ちょっと、その姿、めちゃくちゃヤな感じなんですケド。ボク、キミとは戦いたくないよ」
「カンケーないね。お前は俺が殺す」
「あっそ。でも、ボクの目的は別だからさ」
そう言うと、シャムは翼を広げて飛び立っていった。
「追うぞ」
ひとまずは俺も格納していた翼を広げ、シャムを追う事に。
ったく、なんでこうも面倒事に巻き込まれるのやら。ホント勘弁してほしいわ。
「わあ、鬼ごっこ? いいよ、ボクについてこられるかな!」
クソぅ……人をイライラさせるのが上手い奴である。
殺意が沸々と湧いてくるのを感じる。別個体だとはわかっていても、やはり湧くものなのだ。
ってかコイツ、どんどんと王都に向かってないか……?
もうすぐ街の『都市結界』を迎えそうなんだが……。
「おいテメエ! まさか街を狙ってるんじゃないだろうな!?」
「アハハっ、正解! ボクの任務は、この国を滅ぼす事だよ♪」
クソっ、なんて無邪気に言いやがるんだ……。
「ボクにはキミがいるし、ボク一人じゃ滅ぼせそうにないなぁ。だ・か・ら」
シャムの掌の上には、三つの小さな灰色の球体。
なんだろう、とても嫌な予感がする。
ちょっと魔法で解析してみたのだが、あの球体には一つの魔法術式が内包されていた。
「それを渡せ!」
「やなこった! 発動、魔物召喚!」
そう叫びながら、シャムはその球体を下に投げる。
地面に着弾したボールは爆発し、煙が晴れると──
「なっ……」
そこには、大量の魔獣群がいた。
◇◇◇
不味い、不味いぞ……。
俺が全力で戦えばあの程度の魔獣群は一掃出来るだろうが、そうするとシャムがアグニル王国内に侵入してしまう。ゲス野郎だが、アイツも概念竜。かなり容易に侵入出来るだろう。
それは断固阻止しなければならないのだが……俺はシャムの相手に専念しなければいけないので、かなり困った状態というわけだ。
『困っているようだね?』
『あ、ああ。お前にも──』
手伝ってほしい──と言いかけた時、ルディアが何でもないように告げる。
『大丈夫だよ、安心して。ほら』
ルディアに促されるままに、シャムの動向に気をつけながら魔獣群の方を見てみる。
そこには──
「ったく、人使いの荒い奴だ……つくづく忌々しい」
そこには、純白の礼装とマントを身に纏うシュトルツと、それとは対照的な漆黒のドレスを身に纏うリーベの姿があった。
「──同僚に頼まれたんじゃ仕方ない。鏖殺だ」
シュトルツは、そう呟きながら構えを取ったのだ。
おいおい!?
何だよアイツら、協力をあんなに渋っておきながら、めちゃくちゃ殺る気じゃねーか!?
『……おい、まさかとは思うが……?』
『そうだよ? 昨夜の内に協力を取り付けておいた。キミの説得は無駄だったんだよね、実は。彼らにも、回答を渋るように言っておいたし』
何してくれとんじゃ、この野郎!! ──と、俺は内心で叫ぶ。
だってそうだろ? かなり必死に勝って説得出来たと思ったら、それすらもルディアの掌の上だと? ふざけんじゃねぇと、そう言いたくなるのも必然である。
『まあまあ、いいじゃないか。頼もしい仲間が増えたんだし』
ぐぬぬ……まあ、いいか。
ルディアのやった事はマイナスに働いたりしないので、責めるに責められないのだ。なので、こうやって言いくるめられてしまう。
ここで、シュトルツの戦いぶりに目を向けてみた。
なんとビックリ。鏖殺と言っていたが、本当に瞬殺だったのだ。
まず、基本的に一撃KOだった。
それでも数秒以上かかったのは、シュトルツ達が参戦した時点で魔獣達の位置がかなりバラけていたから。もう少し早かったら、一秒以内のタイムアタックも可能だったんじゃなかろうか?
どちらにしろ、もの凄い戦闘力であった。
「嘘でしょ!? あんな存在、ボクの計画に介在する予定ないよ!?」
流石のシャムも驚愕していた。俺も内心で驚愕していたので、この反応が正常であると思われる。
だが、問題も一つ。ずっとシャムと追いかけっ子をしているわけだが、なかなか追いつけない……。
旋回・加速・直進・減速を繰り返しているので極端に離される事はないが、追いつけないのは致命的だな……。
そう思いつつも、力を温存しながら徐々に加速を始める俺であった。




