第16話 出逢う竜達
「ふぅ、危なかった」
やっぱりキックは着地が安定していいね。
というか、吹っ飛んだシュトルツが山にぶつかったが……山が半壊している……。
我ながら恐ろしい威力だな。
そう思って少し溜息を吐いていると、ルディアがこっちに歩いてきた。
「やったね、アヴ」
「だな」
そう言葉を交わして、ルディアとハイタッチをする。
いやはや、作戦勝ちな部分もあるが、最後は力押しだったので実力勝ちでもいいだろう。
「驚いた」
「うわっ!?」
気づくと、シュトルツが背後にいるではないか。
もしかして、ルディアが使う『転移』スキルと似たようなモンか……?
「何なんだ、あの力は?」
「誰が言うかよ。それより、俺の質問に答えてもらおう」
「あ?」
「お前、概念竜なんだろ。司る概念だけでも教えろよ」
そう問いかけると、シュトルツは、はぁーーーやれやれと溜息を吐いてルディアに向き直る。
「おいルディア。いらん事を教えたのはお前か」
「てへ」
「てへ、じゃない。オレの事は国家機密レベルの筈だろう」
「そうだけどさ、この子にもこの子なりの事情ってものがあるんだよ」
「事情だと?」
それから、ルディアは俺の情報を盛大にバラしていく。
「この子もさ、概念竜なんだよ」
「……何? 何だと?」
「司るのは自然の四大属性……運命、感じるとは思わないかい? キミだって、この子と一緒に行動して不利益はないはずだよ」
ルディアは、言葉巧みにシュトルツを協力路線に誘導している。
流石だ。ルディアは、こういう事やらせると超一流並みの能力を発揮するのである。
「うん? アヴ?」
え?
何だよ、どうしたんだ?
あれ……?
声が……出な──
「カハッ!?」
「アヴ!?」
ルディアが急いで俺に駆け寄ってくるのが薄っすらと見えた。
何だ、これ……何が起こってるんだ……?
ああ、いや、知ってるぞ……これ……魔力欠乏症──
魔力欠乏症。
ルディアに懇々と聞かされていた、人間で言う栄養失調のようなものである。
一度に多量の魔力を消費すると起こる症状で、拒絶反応を起こした肉体が体内から魔力、及びエネルギーでもある魔子を強制的に体外に排出しようとする症状である。
「ゲホッ、ゲホッ……」
「アヴ、大丈夫かい!? アヴ!!」
人間で言う血──俺で言うなれば〝魔血〟だが──を吐いている状態で、とても気持ち悪いし辛いし苦しい。
「かひゅー、かひゅー」
本当に苦しい……これ、死ぬんじゃないか……?
まだこの世界に来て……一年も経っていないぞ……。
死にたくない──
心の底からそう願った、その時だった。
「あらまあ、苦しそうね」
そんな、女神のような、澄んだ声が聞こえた。
「……珍しいな」
「お話を聞いてしまったのですもの。放っておけませんわ」
薄っすらと瞼を開けて見てみると、そこにいたのは天女のような美麗な女性だった。
天鵞絨のような真っ白い長髪と、蒼玉のような瞳が美しい。本当に天女……それか女神のような、そんな女性。
「今、楽になりますからね……」
その女性はそう言いながら、俺の頭を膝の上に置いた。
ああ、心地良い……このまま……眠ってしまいそうな──
そこで、俺は自分の意識を手放した。
………
……
…
瞼を開ける。
そこは、一面が花に覆われた花畑。
とても美しい、楽園のような景色だった。
てか、ここどこだ?
ルディア?
「あれ、ルディア?」
いない……。
あれ、なんでだ……。
もの凄く……もの凄く不安だ。
「ルディア?」
どこだよ……?
どこ行ったんだ?
「ルディア?」
少し見渡すと、ルディアをやっと発見した!
「ルディア!」
「──!」
あれ?
口を動かしてるのは見えるが……聞こえないぞ?
「ルディア、聞こえない!!」
「──、──!」
あ、あれ?
「聞こえない!!」
「──! ──!」
どうなって──
………
……
…
「アヴ!!」
「おわっ!?」
急いで飛び起きた。
場所は……花畑じゃない……。さっきの荒れ地のままだ……。
「どうしたんだい? 妙に魘されてたじゃないか……」
「うなされてた……? そ、そうだったの?」
「うん……ボクの名前を執拗に呼んでたし……どんな夢見てたんだい?」
「ええっと……」
あれ、どんな夢だっけ?
よく思い出せないし……まあ、いっか。
「ごめん、思い出せない」
「……そう。なら、いいんだけど」
「起きて早々にイチャイチャするのはやめて下さる?」
「してねーし!! って……」
そこにいたのは、天女のような女神のような……そんな女性。
「貴女は?」
「まあまあ、そう警戒なさらないで下さいな。わたくしはリーベ」
「リーベ……さん?」
「ええ、ええ。ようやく警戒を解いてくれましたわね」
……多分この人も概念竜だわ。
なんかもう解るぞ。ルディアとかシュトルツとかが受け入れてる時点で同格だろうし。
「リーベ、まだ味方かどうかもわからないんだぞ。治して大丈夫だったのか?」
「ルディアがついているのですもの。警戒する方が野暮というものですわ。そうそう、わたくしの事はシュトルツのように〝リーベ〟と、気楽に呼んでくださいね」
敵対の意思はなさそうだが……。
「そんなに警戒しなくていいよ。さあ、二人とも自己紹介を。司る概念と名前を教えてあげてね」
ルディアがそう言うと二人は頷いて、それぞれ自己紹介を始めた。
「改めて、オレはシュトルツ。司る概念は〝誇り〟で、誇り高き黒竜だ」
「誇り!?」
そんなんアリなのかよ!?
「うん。概念竜の中には、生物が持つ〝感情〟を司る者もいるんだ」
「へえ〜」
そんなのいるんだ……。
なんかもっとこう……ザ・概念って感じの奴らばっかだと思ってた。
「わたくしはリーベ。司る概念は〝愛〟……愛情深き白竜ですわ」
こっちは愛か。
愛と誇りの竜ねえ。
「俺はアヴラージュ。司るのは〝自然〟で、自然を統べる竜だ」
「色々と補足説明するね」
うん? 何だ?
「彼、シュトルツが司るのは〝誇り〟で、能力的には制圧する〝力〟に秀でている。リーベが司るのは〝愛〟で、シュトルツとは対照的な〝癒し〟の力に秀でてる。それと……アヴ」
「うん?」
「キミが司る概念は〝自然〟だけじゃないね。彼らと同じように〝感情〟も司ってる」
「なに!?」
なんだって!?
普通に衝撃情報なんだが!?
ルディアによれば、俺は〝自然〟に加えて〝希望〟と〝勇気〟の概念も司っているのだとか。そういえば、俺の〝アヴラージュ〟という名前の意味も〝未来への希望に満ちた、勇気ある者〟というものだった。納得である。
「ていうか、なんでそんな事がわかるんだ?」
「ボクが使う『解析』はちょっと特殊でね。こういう事もわかるんだよ」
はあ?
説明になってない気がするんですけど。
「やめておけ。どうせ何も教えてくれん」
あ、シュトルツも被害者なんだ。被害者って言い方はおかしいが……。
いるよね。規格外な事仕出かした癖に〝諸事情〟とか〝企業秘密〟で押し通そうとする奴。
そういう奴は大抵、何聞いても教えてくれる事がない。シュトルツの言う通り、スルーするのが一番いいだろう。
「……ちょっと失礼じゃないかい?」
「いやいやハハハハ」
そんな事あるわけないじゃないか──という表情&仕草を保ったまま華麗にスルーする俺であった。




