第13話 遠いあの娘の贈り物
炎の谷に居座る龍族の討伐依頼……という目的を忘れていたので、俺達は一旦〝炎の谷〟に戻る事にした。
そして、ルディアがサクッとシメる。
なんと心強い事だろうか。
「凄いな、ルディア」
そう思ったので、素直にそう告げる。
「……へへ、そうかな」
ルディアは、少し誇らしげだ。
そのまま、龍の死体を『格納空間』に仕舞い込み、冒険者ギルドに向かう。
◇◇◇
時刻は十八時ほどだろうか。
無事に、冒険者ギルド〝アーグ〟支部に戻ってきた。
「いらっしゃいませー!」
初めて来た時と同じ、快活な声が響き渡る。
「おかえりなさい、早かったですね」
俺とルディアの後ろにいるはずだった──いるべきだった人を一瞬だけ探すように目線が動いたが、それを感じさせないように、いつも以上に元気そうな声で喋るアデルさん。
しかし……耐えきれなかったようだ。
「……あの、トリステスさんは……?」
やはり、そう聞かれた。
「戦死したよ」
死を惜しんでいたルディアも、非情に徹して、残酷に告げる。
だが、俺は知っている。あんな対応をしているルディアだって、トリステスさんの死を悲しんでいた。
血も涙もない非道い奴ではないのを、俺は知っている。
だからこそ、何も言えない。
「そんな……」
俺だって悲しいさ。
トリステスさんとは、たった一ヶ月の付き合い。
人生において、短すぎる一ヶ月。それでいて、悠久の時間にも思える一ヶ月だった。
「……あの!」
「うん?」
「あと二時間すると私の勤務が終わります。それまで、ギルドの前で待っていてください」
えー?
ちょっと面倒だな。
「面倒とか思わずに。わかりました、待ってますよ」
ルディアが丁寧に対応した。
「わかったよ……。それじゃ、待ってます」
「待っていてくださいね」
にこやかに微笑うアデルさんに見送られて、俺達は冒険者ギルドの外に出てきた。
◇◇◇
「待っててって言われたけどさ、何だろうな?」
気になってしまったので、ルディアに聞いてみる。
「そんなのボクに聞かないでよ。ボクにわかるわけないでしょ」
言われてみればそうだった。
ルディアを森羅万象を知り尽くした便利人物みたいに扱ってたが、そりゃわからん事もあるわな。
「そりゃあそうだな。ごめん」
「別にいいよ。ボクも気になるし」
まあ、そりゃ気になるよな。
うーん……まだかなぁ。
あと二時間って言ってたが、言われてから現在三十分経っただけ。まだまだ時間はあるが……。
「……暇だな」
「そうだね」
気まずいとは思わないが、本当に暇だ。
「うーん、暇だね。暇だから、ボクもキミにサプライズしてあげたくなっちゃった」
うん? サプライズ?
「ちょっと待ってくれ、予想する」
「おお、頑張って」
コイツがするぐらいのサプライズだろ? 結構スゴいのが来るんじゃないかなぁ。
うーん、何だろ。
ルディアって結構俺の想定の斜め上を行く感じのアタマしてっから……あれ、予想とか無理じゃね?
「ギブ」
「あれ? 予想は?」
「お前って結構ブッ飛んでるから、俺に予想とか無理だなって」
「ちょっと失礼じゃない?」
むむ、確かにそうだった。
「それはごめん」
「いいんだけどね。それじゃ、ボクからのサプライズだ。……と言いたいんだけど、コレにはキミの協力が必要なんだ」
「俺の?」
「そう」
どういう事かな?
俺自身が必要な俺へのサプライズって、サプライズって言えるのか?
「まあまあ、文句言わずに」
「それで、どういう──」
「これ」
「────っ!?」
ルディアが、急に俺に抱きついたのだ。
「ちょっ、ちょい待て、待ってくれ、お願いだから待ってぇ!?」
「うん? どうしたんだい? もうちょっとこのままじゃなきゃ──」
「いや、いやいやいやいや!」
やだやだ! それ俺が持たないだろ!!
絶対ヤダぁ!!
「どうしたのかな?」
「ひっ」
俺の耳元でそんな事をほざきやがるルディアである。
ルディアめ……俺がこういうの慣れてないのをいい事に……。
「おっ、見つけたよ」
「は? 何を──」
そう言いかけたところで、ルディアが俺から離れる。
そんなルディアの掌の上には、光り輝く何かがあった。
──いや、俺はそれを知っている。
「……フィエット……?」
何気なく……無意識に、そう呟いてしまっていた。
「正解! これは、彼女の〝魂〟だ」
あの娘の……魂……。
いや、そんな事考えてる場合じゃない!
「返せ──」
「この娘を使って、キミにサプライズする」
は?
何を言っているんだ、コイツは?
「……まさか、あの娘を蘇らせてくれるとでも?」
「馬鹿言わないでよ。出来るとしても、そんな事しないさ。この娘も、そんな事望んでいないから」
……そう、なのか。
じゃあ、何なんだ?
「この娘を使う……そう言ったな」
「そうだよ。傍から見たら非人道的にも感じる行為だけどね……魂にはもう、彼女の意識は残っていない。言わば、儚い抜け殻……。それを使うのさ」
ムム……?
「見ててね──」
ルディアがそう呟くと同時に、フィエットの抜け殻が光り輝き始める。
それは徐々に形を形成していっている。ルディアから発せられた光の粒子すらも取り込んで、その姿を──美麗な長剣へと変えた。
「これは…………」
何か、何かを感じるような剣だった。
全身真っ黒で、色は黒と銀を混ぜたような黒銀色。しかし、その刀身は黄金の輝きを秘めている。
鍔の中心には、神秘的に輝く純蒼色の宝玉が嵌っていた。
「ボクと……そしてあの娘からの、サプライズプレゼントだ。銘は……〝黒銀蒼の竜剣〟かな」
黒銀蒼の竜剣──
「それが……その剣の銘?」
「ああ」
それが、彼女──フィエットが生まれ変わった剣の銘。
きらびやかに輝きつつも神秘的で儚い印象を与えられる……そんな剣だった。
それに……何か、意思を感じるような気がする。
──わかっている。ルディアも、もうこの魂に意識はないと言っていた。
でも──
──これからもよろしくね、ドラゴンちゃん……いや、アヴラージュ!
そう、どこかから聞こえた気がした。
「……そうなのかい。意識はとっくに消滅したとばかり思っていたけれど……微弱に残っていたモノが武器化した事で、少しだけ取り戻したんだね」
ルディアによると、そういう〝意識が宿った武器〟は〝知性ある武器〟というらしい。
そして、フィエットの魂に宿る意識は、微弱ながらに、武器化によって〝保護〟されたと。
「もしかすると、時間をかければ彼女の記憶……そして意識も、会話が可能になるまでに回復する事があるかもしれないね」
……つまり、あの〝声〟も幻聴ではない可能性があり得る、という事でもある。
まだ、希望はあった。トリステスさんが、あの娘の運命を守護ったのかもしれない。
あの人が、最期に遺してくれたもの。
涙がポロポロと零れる。
剣からは金属特有の冷たさが感じられるのに、心を包み込んでくれるような温かさも感じる。
──涙は、静かな慟哭へと変わる。
「ひぐっ、えぐ……ふぃえっと……」
──泣かないで。笑顔が一番だよ。
「──ありがとう、フィエット……」
ちょっと短いですかね。




