表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/6

更新された関係値(ステータス)』と、マッサージのその先へ

季節は巡り、秋の気配が漂い始めた頃。

俺と真白の奇妙な同居生活(※家賃は別々)は、もはや日常という名のOSに完全に統合されていた。


「……ん。味付け、どう?」


「……完璧だ。胃袋が完全に掴まれた気がする」


日曜日の夕食。俺の部屋のテーブルには、真白の手作りハンバーグが並んでいた。

最初の頃はコンビニ弁当やゼリー飲料ばかりだった俺の食生活は、彼女のおかげで劇的に改善していた。

顔色の悪かった社畜プログラマーはどこへやら、最近は肌艶が良いと会社の同僚に気味悪がられるほどだ。


「ふふん。感謝なさい。……私の手料理が食べられるなんて、ファンが知ったら発狂ものなんだから」


真白は得意げに胸を張るが、その胸は悲しいほど平坦だ。

だが、今の俺にはその子供っぽい体型すら、愛おしくてたまらない要素になっていた。


彼女は俺のグラスに麦茶を注ぎ足すと、いつものようにソファに移動し、ちょこんと座った。


「さて。お腹もいっぱいになったし……いつもの、やる?」


彼女はスウェットのズボンの裾を捲り上げ、白くて小さな素足を見せつけた。

毎晩恒例の、ご褒美マッサージタイムの合図だ。


いつもなら、俺は尻尾を振って床に寝転がるところだ。

だが、今日は違った。


俺は立ち上がり、ソファに座る彼女の隣に腰を下ろした。


「……? どうしたの、健太」


真白が不思議そうに首を傾げる。

俺は深呼吸を一つした。

脳内でシミュレーションは何度もした。バグチェックも済ませた。あとは実行(Run)するだけだ。


「真白。……マッサージは、今日はいい」


「え? 珍しい。どこか具合でも悪いの?」


心配そうに覗き込んでくる彼女の顔。

大きな瞳が、不安げに揺れている。


俺はその小さな手を、自分の手で包み込んだ。

彼女の手がビクッと震える。


「真白。……この数ヶ月、お前がいてくれて、本当に救われた」


「な、なに急に……改まって……」


「最初は、推しのVTuberが隣にいるなんて非現実的で、ただただ驚いただけだった。でも今は違う」


俺は言葉を選ぶ。

コードを書くときよりも慎重に。


「俺は、VTuberの『夜空メルディ』も、イラストレーターの『Mashiro』も尊敬してる。……でも、俺が一番好きなのは」


握った手に、少しだけ力を込める。


「俺の隣で笑って、怒って、世話を焼いてくれる、ただの『小鳥遊真白』だ」


真白の顔が、見る見るうちに赤く染まっていく。

耳まで真っ赤だ。普段あんなに俺をからかっている小悪魔の姿はどこにもない。


「……それって……」


「好きだ、真白。……俺と、付き合ってください」


静寂。

時計の秒針の音だけが響く。


真白は口をパクパクさせた後、俯いてしまった。

長い沈黙。

俺がフラれる可能性(Error Handling)を考慮し始めたその時。


「……遅い」


「え?」


「遅いのよ、バカ健太……!」


彼女は顔を上げると、涙目になりがら俺の胸板をポカポカと叩いた。


「ずっと待ってたのに……! 毎日ご飯作って、毎日マッサージして、毎日『好き』ってオーラ出してたのに……! この鈍感! ポンコツエンジニア!」


「ご、ごめん……」


「……でも、嬉しい」


彼女は叩くのをやめ、俺の胸に顔を埋めた。


「私も……健太のこと、大好き。……私でよければ、彼女にして……ください」


最後のほうは消え入りそうな声だったが、確かに聞こえた。

俺は震える彼女の背中に腕を回し、強く抱きしめた。

小さくて、折れそうな体。でも、ここにある温もりは、何よりも確かな現実リアルだった。



「……ねえ、健太」


しばらく抱き合って余韻に浸っていると、腕の中の真白がモゾモゾと動いた。

顔を上げると、彼女の表情が変わっていた。

潤んだ瞳。火照った頬。そして、どこか挑発するような艶っぽい笑み。

あ、これ『スイッチ』が入った顔だ。


「カップル成立、おめでとう。……でも、それだけで終わり?」


彼女の声色が、低く甘い『メルディ』のものに変わる。


「い、いや、その……」


「今日はマッサージ、しないんでしょ? ……じゃあ、代わりのこと(・・・・・)しなきゃね?」


彼女は俺の膝の上に跨るようにして乗り上げてきた。

140センチの小柄な体が、俺に密着する。

柔らかい感触が、胸にも、下半身にも伝わってくる。


「ま、真白……?」


「……ん」


彼女は俺の言葉を塞ぐように、唇を重ねてきた。

子供のような見た目とは裏腹な、濃厚で、熱っぽいキス。

絡み合う舌。甘い唾液の味。

脳みそが焼き切れそうだ。


「ぷはっ……」


唇が離れると、銀色の糸が引いた。

彼女はとろんとした目で俺を見つめ、俺の耳元に唇を寄せた。


「……いつもは足で踏んであげてたけど」


彼女の小さな手が、俺のシャツのボタンを一つずつ外していく。

そして、その手はゆっくりと下へと伸びていき——。


「今夜は、もっと優しく……全身で、可愛がってあげる」


「……!?」


「覚悟しなさいよ、私の彼氏さん? ……朝まで、寝かせないから」


悪戯っぽく、でも愛おしそうに笑う彼女に、俺はもう抵抗できなかった。

いや、抵抗する気なんて最初からなかったのだ。


俺は彼女の小さな体を抱え上げ、そのままベッドルームへと向かった。


隣の部屋の小学生に見える女子高生は、今日から俺の最愛の恋人になった。

ブラック企業のデスマーチより激しく、そして最高に幸せな夜が、これから始まる。


(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ