第4話 回想(1)~亜空間での会話~
神は魂のみ存在しうる亜空間で私を転生させようとする世界をこう語った。
「この星は一度滅びかけた」
そんな物騒な世界に転生させようというのか?
神のくせに血も涙もない!
「地球での前世の記憶を持ったままそなたに行ってほしい世界は、もともとは魔法によって文明が発達した星であり、社会体制も地球よりは進んでいた」
「そんな世界がどうして?」
「知への好奇心、あくなき欲望、滅びへの恐怖、原因を一つに特定するのは難しい。心配することはない、優れた資質を持った者たちの尽力で何とか人間が生きていける空間は確保できている」
「何とか……、ですか?」
世紀末ナンチャラ伝説のような過酷な世界を私は想像した。
文明の利器に取り囲まれて生きていた日本人がそんなところに適応できるのか?
いったい何の罪科でそんなとんでもないところに転生させられるのか?
「ああ、何かとんでもない想像しているようだけどホント心配しなくていいから。建物は地球人から見れば少しレトロな外観で住民も少ないが、魔法が様々な不便を補ってくれる。元地球人でも向こうに行けば魔法を身に着けることができる」
「でも、どうして記憶を持ったままそこに行かなきゃならないのですか?」
素朴な疑問を私は神にぶつけた。
「はっきり言うとそなたがわしのエサに釣れたからじゃ」
「はあっ?」
「地球で死んだ魂の群れにポイッとな。それに引き付けられてやって来た魂らを、記憶を持ったまま転生させることを大いなる存在に許可をいただいておる」
何を『エサ』にして私たちを釣ったのだろうか?
光が見える方向に何となく来てしまっただけなのでピンとこないが、まるで魚みたいに扱われている。
そして、今まさに『まな板の上の鯉』状態?
「拒否権はないのですか?」
「まあ、そう言わずに」
神はなだめるように言う。
このぶんだと拒否権、なさそうだな……。
「勝手に地球人の魂を拉致してきて、有無を言わさず滅びかけた星に送り込むだなんて、そんなことが許されるんですか?」
ダメもとで抗議してみた。
一応相手は神なので、神をも恐れぬ行為と言える。
「さっきも言った通り、少なくとも人間が暮らしている場所はそんなに居心地は悪くないし、いずれ魔法も使えるようになるじゃろう。さらに出血サービスとして転生者にはギフトを贈ることになっておる」
神は説明を続ける。
「ギフトですか?」
私は食らいついた。
『出血大サービス』とは聞き飽きた用語だが魅惑的な響きだ。もちろん『ギフト』という語にも弱い。
そんなんだから、神が投げた『エサ』とやらに引っかかったのかもしれない、でも、とりあえず聞いてみることにする。
「具体的にどのような?」
「おっ、興味を持ったな! そうじゃろう!」
私の質問を受けて神ははしゃいだ。
「とにかく、具体的にお願いします」
「そうじゃな、ギフトとはその人間の性格や得意分野に応じてなんらかの魔法能力を授けるということじゃ。普通なら長い修行を経てもなかなか身に着けられないような高度な特殊技能じゃ」
「ははぁ、いわゆるスキルってやつですね」
RPGでキャラごとに異なるあれだな。
私の場合、なにがもらえるのか知りたくなってきた。いやいや、転生を了承したわけじゃないんだけど……。
「とりあえず調べてみような、ふむ、お前さんはな……」
私の好奇心の疼きに感ずいたのか、神は何かを調べ始めた。両手の親指と人差し指で輪を作りそこから私をのぞき込んでいる。
「ほほう、これはマジで珍しい。お前さんのスキルは『品種改良』じゃ」
「『品種改良』?」
「さよう」
ドヤ顔でうなずく神。
『品種改良』って、つまり、違った性質の者同士を交配させたり、遺伝子を直接組み換えたりして新しい品種のものを作ったりする技術?
それが何の役に立つのか?
農家にでも弟子入りしろと?
「なんか、パッとしませんね」
私は失望を隠さず言った。
「言っておくが、お前さんの性格や興味の方向性に基づいて出た結果じゃぞ。動植物は好きじゃないのか?」
「ええと、まあ、普通よりは好きかも……」
実父が植物学の博士なんてものをやっていて、実家にはそれ関係の書物が多く、子供の頃から絵本がわりに読んでいた。しかし、私は平凡な公共団体職員である。
ぱっとしない人生だからぱっとしないスキルが与えられるのか?
あ、そんなこと考えたらへこんできた。
「使い道もよくわかりません」
気を取り直し疑問をぶつける。そう、それが大きな問題なのだ。
「それは自分でやってみて慣れていくしかないのう、言っておくがかなりレアな能力じゃぞ」
「でも、そんなスキル一つでいきなり右も左もわからない世界に放り込まれても……」
レアと言われて喜べるか!
レアすぎて逆に途方に暮れるわ!
「与えられるギフトには攻撃系、防御系、治癒系、そして調整系とざっくり四種類に分けることができる。前の三種はギルドに冒険者として登録したら食いっぱぐれはなさそうだが、調整系は内容にもよるからの」
そうよ、わかってるんじゃないの。
「うむ、そんなに不安なら就職も世話しよう、わしって親切じゃろ。かつてお前さんと同じ能力を持っていた人間が作ったガーデンがあるのじゃ。今は『ダンジョン』と呼ばれるものの一つに分類されておる。そこが人手が足りないらしい、行ってみないか?」
「『ダンジョン』ですか?」
いきなりRPGにつきものの施設出た!
しかし、行ってみないかと問われても、すぐには決断が……。
「よし、決まりじゃな。じゃあ、行っておいで。そこで働いている者たちには事情を説明しておいてやる。あと、お前さんが行く地域の『転生者』のフォローは魔道具店のリンデンにも頼んでいるから、困ったことがあれば相談にのってくれるはずじゃ」
考えるいとまもなく私は亜空間の外へと放り出された。