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第3話 それはミミックではない(3)

 確認するのは温室コースに生息する、先ほどの客が『ミミック』と呼んでいた巨大ハエトリソウのことである。


 このガーデンには地球産の植物も多く植えられている。


 ガーデンを作った前任者は次元を超える能力もあり、地球から多くの植物を持ち帰った。


 魔法技術を極めた者たちの実験の失敗によってこの星は瘴気に覆われ、すべての生きとし生けるものが死に絶えようとしていた。それを阻止するために、ある者は一部の地域を封鎖して瘴気を入り込ませないシステムを構築し、ある者は瘴気によって魔物化した動植物に対抗しうる武具や防具を開発した。


 前任者はこの星と似た自然環境でありながら、紫外線や宇宙線、あるいは人為的にも生物を害する要素がより強い地球という星から、ここよりも抵抗力のある植物を持ち帰り、移植したり、元あった植物と交配させたりした。


 ハエトリソウもその一つである。

 栄養のない土でも生育できる食虫植物。

 瘴気に触れると魔物化するか否かは植物によっても違うが、ハエトリソウは魔物化する種類だったようだ。


「こいつらって賢いよな。宝箱くわえてりゃ人間が手をつっこんでくれるって学習してるんだから」


 シアンが変なことで感心する。


 そう、巨大化したハエトリソウの口、いや、トゲトゲの葉に宝箱を入れたのは私達ではない。


 瘴気による変化は「巨大化」と「狂暴化」が主で、さらに植物の場合、動物並みに「知能?」が発達し、繁殖や生存競争に勝ち抜く力が増しているケースが多々見られる。


 地球のハエトリソウは種からも増えるが、球根による分球が主だった。

 この温室ではその球根が自分で宝箱の下まで移動し、そこで成長しエサ(人間の挑戦者)を引き込むツールとして宝箱を利用しているのだ。


「ほんの少しだったとはいえ人間の血肉を食らったせいかな? 朝見た時より大きくなっているような……」


 ユーグが首をかしげながら魔獣化したハエトリソウを観察する。


「う~ん、もうちょっと待った方がいいんじゃないか?」


 シアンは言う。


 待つというのは、大きな魔物を仕留めると瘴石という結晶化した物質が中から見つかることがあるので、そうなるまでもう少しかかると言う意味である。瘴石を特別な炎で焼いて中に含まれる瘴気を浄化させると、魔力を含ませることのできる魔石に変わる。


「とりあえず、くわえている宝箱は取り上げておくか。中にある宝物は消化されないだろうが、木箱は時間が経つと溶けていくし、そうなるとさらに取り出すのが厄介になる」


 巨大ハエトリソウが分泌するべたべたとした粘液。

 これが消化液なのだが、木箱ももとは生き物の有機物なので、哺乳動物の血肉よりは時間がかかるがいずれは溶かされる。


 このベタッとしたところから取り出すのが難しい。


 ハエトリソウの葉を反応させない方法ならある。

 葉をぱくっと閉じさせるには二回その表面に触れる必要がある。つまり一回触れただけでは反応しないので、素早く一回でその宝箱を取り出せばいいのだ。


 言うは易し、行うは難しだ。

 べたべたしたところに引っ付いている、それなりの重さと大きさがある代物を取り出すという作業。


 チームワークをもって攻略していくしかない。

 宝箱を取り出すという一番危険度の高い作業は私が担当。


 シアンは短い鉄の棒を二本持ちまるでヌンチャク使いのようにかまえている。

 もし、葉っぱを刺激してしまい、閉じようとしていたらその前にすかさずその棒を突っ込んで閉じさせないようにする。

 これは瞬発力のあるシアンでなければできないこと。


 ユーグは剣をかまえた。

 シアンも失敗し私が食いつかれたら茎のところを切断して助けるためだ。


「思い切って行け! 骨は拾ってやる!」


 シアンが叫ぶ。

 縁起でもない励まし方やめて!


「心配しないで、薬も作れるからね」


 今度はユーグが励ます。

 二人ともなぜ私が失敗する前提の言い方をする?


 葉っぱに覆いかぶさるように私は前かがみになった。

 手がじんわりと湿ってくる。

 葉っぱの縁のトゲトゲに触れないようにしながら、私は宝箱に手をかける。


「ふんっ!」


 変なかけ声が出つつも私は宝箱を引っ張った。


 想定以上に重いっ!

 粘液のせいですんなり持ち上がらないからだ。


 うわぁ、いったん置いてしまったら、刺激一回カウントになる。

 もしかしたら、気づかないうちにどこかに触れていたかもしれないし、だとしたら、刺激二回アウトだ!


「そのまま引き上げろ!」


 シアンの叫び声におされて引っ張ってみるが思ったより上に持ち上げられない。


「持ったまま腕を勢いよく上に引き上げろ!」


 言われた通り思い切り力を込めた。


 あわわ、でも途中で力尽きて落としそうになる……。


 危うくと言うところを、シアンが後ろから私の腰に手をまわし身体ごと引っ張った。棒を差し込むより、私を引っ張って離した方が良いと判断したらしい。


 宝箱が葉っぱの上に来た瞬間、二枚の葉っぱが勢いよく閉じた。


「ふう、間一髪……」


 宝箱を抱えた私の下敷きになりながら、シアンが安どのため息をついた。


「やった! できたじゃないか、ミヤ!」


 ユーグは剣を置いて歓喜の声を上げる。


「最後はシアンが補助してくれたから……」


 私は照れ臭そうに言う。


 そしてシアンを下敷きにしていたことに気づき、急いで身体をどかす。


「もともと、この作業は二人以上でやらなきゃならないんだから補助は当り前。謙遜することはねえよ」


「そうそう。ミヤもだいぶいろんなことがうまくできるようになってきたよね」


 二人は私をねぎらってくれた。


「ミヤがやってきて、かれこれ半年だもんね」


 ユーグが言った。


 そういえばそうだった。

 転生の神に送り込まれた当初はどうなることかと思った。

 いきなりこのダンジョンの責任者に任命された私が、なんとか仕事をこなし、この世界で生きていけるようになったのは、この二人のおかげと言っても過言ではない。



読みに来ていただきありがとうございます。

次からは回想編、15日夜公開予定、それ以降は二日に一度の更新になります。

ブクマや☆評価していただけると嬉しいです。

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