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第19話 捜索(2)

 私たちは信号を発した腕輪の主を確かめた。


「これは……、リョウタ?」


「あの貧弱なヤツか!」


 腕輪には位置情報のほか、装着主の体の状態を知らせる機能もついている。心拍数や発汗量、怪我をした場合の出血量などなど。


 しかし、今回の信号はそれとは違った。


「おい、ヤツの体の状態の情報が消えたぞ」


 シアンが言った。


「これはあまり考えたくないが、装着主が死亡したか、あるいは腕輪をつけた部位が切断されたか?」


 ユーグが情報を示す画像を見ながら言う。


「他の三人は、入り口に向かってきている。この速さは走りかな?」


「ああ、ちょっと行ってくる」


「待って、私も行こう。まだリョウタという者の死亡が確定したわけじゃないし、もしもの時には治療師である私が役に立つ」


 シアンとユーグはきびきびと情報分析、そして、それに伴いするべきことをやろうとしている。


「あの、私は……」


 何をすればいいのかわからない私はとまどいながら二人に聞いた。


「ミヤはここで待機して、ダンジョン組合とギルド支部に連絡をしてくれるかい。ああ、それからリンデンさんのところにもね」


「こんなトラブル初めてだろうけど、落ち着いて今わかっていることだけを話せばいいから、そしたら支部や組合が手伝いの者をよこしてくれるからな」


 ユーグとシアンがそれぞれ教えてくれた。


「ポータルじゃなく、直接飛ぼう」


 ユーグが言った。

 そしてシアンの腕をつかむと、二人は私の目の前からかき消えた。


「そうだ、連絡!」


 まずダンジョン組合から。

 部屋には仕事関係のところに直通で連絡できる電話のような魔道具がある。

 連絡先を言うだけで向こうにつなげることができる。

 画像の向こうにはアーヴァが座っていた。


 私は腕輪の装着主の一人の情報が途絶えたこと。ユーグとシアンが現場に向かっていることを彼女に伝えた。


 彼女はいったん席を立ち、組合の責任者コフィを呼んできた。

 五十代半ばの細身の紳士だ。


「応援の人員を数名連れてそちらに向かうよ」


 次にギルド支部。

 こちらはすぐに対応は難しいと言われた。


「本部に連絡してみます。ダンジョン組合から応援は来るのでしょう。当面はそれで対処お願いします」


 ずいぶん他人事だな。


 最後に魔道具店のリンデン。

 連絡するとダンジョン組合の人たちよりもはやくガーデンに駆け付けてくれた。


「大変でしたね。でも、よく落ち着いてやるべきことをできていますよ」


 リンデンは私をねぎらってくれた。


「いえ、大変なのは今現場に向かっているユーグとシアンで……」


 私は答える、その頃、二人は挑戦者パーティと出くわしていた。


 向こうの状態がわかるように通信画像は開いていている。

 二人が彼らから聞き取った話によるとこうだった。


 原生林をどんどん進んでいると、一番後ろを歩いていたリョウタに魔獣が襲いかかり、彼をくわえて走り去っていった。追いかけたが魔獣は沼地の方に入っていき、それ以上追うことができなかった。そして、周囲に似たような魔獣が増えてきたのでいったん退却し事の次第をダンジョン主に伝えようと、入り口の方に向かって走っていた、と。


「沼地の方へ? 魔獣はヒプタマジカでしょうか?」


 彼らの話を聞きリンデンがつぶやく。


「そうだな、沼地と言えばそれしか思い浮かばないけど……」


 通信画像越しにシアンが首をかしげながらリンデンに同調する。


「そ、そうなんだ! 背の高い四つ足の化け物でな、鹿のようにでっかい角を持っていて、足が速いのなんのって……」


 リーダーのヴュロンが答えた。


「そうそう、見失わないようにするのがやっとだったよ」


 副リーダーのジュールもヴュロンに同意する。


「ふうん……」


 シアンが神妙な顔で考え込んだ。


「腕輪の位置情報は確かに沼地のあたりだね」


 ユーグが腕輪の画像データを見ながら言う。


「そ、そうだろっ!」


 ヴュロンがわが意を得たりと言う顔をした。


「とりあえず、彼らを待合室に戻しましょう。見たところ怪我はないようですし、詳しい話はそこに戻ってからということで。私は魔獣を見失ったという沼地まで行ってみます。まだ彼が生存している確率はゼロじゃないですから」


 ユーグが提案する。


「しかし、あそこは……。まあ、ユーグなら大丈夫か」


「シアンは彼らといっしょに戻ってほしい。いざというとき彼らを抑え込める者がいたほうがいいからね」


 ユーグは後半をパーティには聞こえないように小声でつぶやいていた。

 シアンはうなづき、ユーグは一人で沼地に向かった。


 原生林の中の『沼地』は、表面は水草に覆われているが泥が堆積しており、足を踏み入れればどんどん沈んでいく底なし沼である。


 シアンが挑戦者パーティの三名と一緒に待合室に戻ってきたのとほぼ同時に、ダンジョン組合の応援の人たちも到着した。


 支部長のコフィは応援としてA級の冒険者を二名連れてきていた。

 ダンジョン組合ではトラブル対処や質の悪い冒険者をけん制するため、A級以上の資格を持つ冒険者を職員として数名雇っている。


「彼らは今捜索中のユーグ殿に合流させましょう」


 私たちはユーグに通信具からその旨を伝える。


「沼地の方だからな、予備の装備があったはずだぜ」


 シアンが倉庫の方に向かおうとした、だが、ユーグはそれを制止する。


「待ってください、今は少しでも時間が惜しい。ポータルからじゃなく私が直接彼らを呼び寄せていいですか? 装備も私の魔法で何とかなります」


「ああ、かまわないが……」


 コフィがそういうや否や、二人の職員の姿が私たちの前からかき消えた。

 ユーグが魔法で呼び寄せたらしい。


「相変わらず規格外の能力ですね」


 コフィは苦笑いしながら言うのだった。



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