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第18話 捜索(1)

 本日はひさしぶりに前もって予約を入れてくれている挑戦者のグループが来る。B級ダンジョンだとこういうことは珍しい。難易度が低く実入りもよくないので、たまたま時間が空いたから等、そう言った理由の飛び入り挑戦者の方が多い。


「四名のパーティなんだね、希望は原生林コース」


 ユーグが事前情報に目を通しながら言う。


 予約でも飛び入りでも挑戦したい場合、ダンジョン組合で参加者名を記し挑戦料を支払うなどの手続きを終えてからこちらにやってくる。


 以前はリンデンが組合支部からダンジョンまで案内し、道々注意事項を言い聞かせていたらしいが、今は「案内鳥(ガイドバード)」という魔法で作られた存在にここまで案内させている。


 やってきたのは二十代前後と見える四名のパーティ。


 リーダーは筋骨隆々のヴュロン、攻撃系の魔法が得意。

 毒や催眠などの魔法が得意のサブリーダーがジャール。

 パーティの能力強化、いわゆるバフかけ担当が紅一点のヤナ。


 そして『荷物持ち』という、冒険者パーティに必要なのかと質問したくなるような役目の男がリョウタ。名前からして日本人、転生者だろうか。


 荷物持ちと言う割には貧相な見た目。

 装備も他の三人に比べてお粗末なものだ。


 ただ持っている武具がすごい。

 特に剣。150センチほどもある大剣。

 まさかこの貧弱な男が振り回すのだろうか。


「なんだ、お嬢ちゃん、ヤツの持っている剣が気になるのか。『剛剣のヴュロン』って聞いたことないか。それは俺の事よ」


 リーダーの男がドやった。


 剣だけじゃない、仲間の荷物とかも全部リョウタと言う男に持たせている。彼が荷物に埋まっているさまを見ると、小学生らがランドセルを特定の子に運ばせるイジメや罰ゲームを連想させた。


「どうして自分たちの武具や荷物を彼一人に運ばせるのですか?」


 私は質問した。少々不快感があらわになっていたかもしれない。


「だって、それしか取り柄がないんだもん」


 ヤナと言う女があざ笑うように言う。


「そうそう、他にとりえのないやつを仲間に入れてやってるんだ、このくらい役に立ってもらわないと」


 ジャールというサブリーダーも調子を合わせた。


「剣はそろそろ渡してもらおうか。俺が持っている間も『軽量化』忘れるなよ」


 リョウタは大剣を両手で差し出しながら『はい』と小さく返事をする。


「じゃあ、そろそろダンジョンに入りたいんだけど」


 ジャールが言う。

 これ以上、よそのパーティについてつっこんでも仕方がない。私は彼らに四つの腕輪を差し出した。


「ダンジョンを探検中はこれをつけておいてください。みなさまの位置情報を得るための魔道具ですので絶対外したりしないようにお願いいたします」


「ふうん、B級でもつけるのか」


 ジャールがしげしげと腕輪を観察する。


 もしかしてバカにされた?

 慣れているけどね。


 四人が腕輪を装着したのを見届けると、私は館内のポータルに彼らを案内する。


「ここから『原生林コース』の入り口に移動できます。向こうにも係の人間が待機してますので、まず説明をよくお聞きいただいた後、挑戦してくださいね」


 ティミヤンの街の北から西に広がっている原生林がある。エマガーデンから見れば飛び地になるが,そこをダンジョンの『原生林コース』として利用している。挑戦者が少ない時にはシアンが魔物を狩り、街に被害が出ないよう計らっている。


 向こうで待っているのはもちろんシアン。

 シアンは顔見知り以外の人間には本当に無愛想だ。でも、B級ダンジョンといえど油断は禁物ということを思い知らせるため、にこやかではない彼の接客態度は挑戦者にはけっこう効くらしい。


 軽口叩きながらもポータルに入った彼らの姿が消えたのを見届けると、私は待合室へと戻った。そこでユーグの入れてくれたハーブティを飲みながら休憩していると、シアンも戻って来た。


「変なパーティだったな」


 戻ってきて開口一番、シアンはつぶやく。

 シアンの言葉に私はうなづいたが、彼らを見ていないユーグは首を傾げた。


「パーティっていうのは、強いところほど構成員が無駄なく役割を振り分けられていて、仲間同士の尊敬の念(レスペクト)も高い。だけどあのパーティは、特にあの貧相なヤツ、あれを侮辱して楽しんでいる風がある」


 『あれ』とはリョウタと言う異世界人のことだろう。


 冒険者は危険が伴う職業だし力がすべてと言うところもあるので、弱い人間を見下す傾向が多分にある。


 価値観はそれぞれなので文句言うすじあいもないが、仲間の能力は命に直結することなのに、見下すような力しか持たない人間をパーティの一員として同行させている理由が解せない。


 しかし、見送った後に私たちができるのは、彼らが挑戦を終え戻ってきた後の手続きだけ、それ以上介入できることは何もない。


 今日もそれで何事もなく終わるのだと思っていた。


 しかし、異変は突然知らされた。

 私たちが昼食を終え二時間ほど過ぎた頃、彼らに預けた腕輪の一つが緊急信号を発したのだ。


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