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第17話 雇われ管理人の一日(5)~ケンジのスキルは?~

「僕のギフトのスキルって何だと思います?」


 店のなじみ客になって約一か月後、ケンジは私にこんな質問をした。


「う~ん、なんだろ、『大豆職人』とか?」


 あてずっぽうで私は言ってみる。


「はずれ、実はですね……」


 そう言って、ケンジは少々沈痛な表情を浮かべる。


 何?

 そんな顔されたら気になるじゃないの。


「『カビルン〇ン』なんですよ、知ってます!」


 知ってますも何も……。子供たちに人気の愛と勇気が友だちのヒーロー、その敵キャラの名だよね。


「えっと、強そうに見えないうえになんだかな……」


 人様のスキルにこんな言い方していいのだろうか……?


「カビ全般を自由に操作できるのでトイレや風呂など水場の掃除に便利だし、日本にはカビを使った発酵食品も多いですからね。実はそう言った調味料を作る会社に勤めていたんです」


 そうか、しょうゆやみそを作る際に使う(こうじ)もカビの一種だった。


「そうなんですね、あれ、もしかしてコウジ君の名前って?」


「あはは、そのとうり。単純ですかね」


 ケンジは照れ臭そうに笑った。


 十数年前のこの星はまだ『大崩壊』から回復できておらず、ティミヤンの街の城壁もまだ建設途中であった。


 身内が魔物に襲われ孤児になった子は数知れず、その中の一人、追いはぎをやっていた名無しの少年とケンジは関わり、長じて少年は店を手伝うようになった。


「『コウジ』と言うのは僕たちの商売には何より貴重ですからね」


 名づけの動機にしては単純だが二人のきずながうかがえる。


「素敵な動機です。『カビルン〇ン』も可愛い響きと言えないことも……」


 スキル名にも私はフォローを入れておく。


 あの神のことだ。

 どうせ、ギフト名を人気アニメのキャラから持ってくるなんて気が利いているだろと、勝手にドヤ顔したのだろう。


「いや、あのスキル名に関してはリンデンさんに頼んで『神』に改名を直談判させていただきました」


「え、マジ……」


 そんなことできるの……?


「マジです。この世界の人間には『カビ』という迷惑なものが名前についているなんてと、拒絶反応起こされるし、例のアニメを知っている同胞たちも、どう反応していいのかわからないような微妙な表情をする人が多かったので」


「そうなりますよね」


「それで今は『発酵名人』と言うスキル名になりました」


「普通ですね」


 でも、その方がいいか。


「ええ、神には普通過ぎて面白くないと、変えるときに言われました」


 あの神め、無責任なことを!

 個性的過ぎて苦労するのは異世界人である私たち自身じゃないか!


「あの、私は『普通』でいいねって意味で言ったんですよ」


 念のために言い訳しておいた。



 ◇ ◇ ◇


 話を今に戻し、主食の後は別腹。

 アーヴァと私は同じそば粉クレープのデザート。


 そば粉クレープはしょっぱいものと合わせれば主食。甘いものと合わせればデザートになるのでこの店の人気メニューの一つ。


 季節のフルーツはイチゴだった。

 あんことホイップクリームの甘さ二重奏にイチゴの甘酸っぱさがいいアクセントになる。


 二人で一緒にデザートを堪能した後、アーヴァはギルド支部へ、私は併設している店に行くため別れた。


 ケンジの店にはお酒も置いてある。

 米が作れないので日本酒はないが、麦で作ったビールに近いお酒やブドウやサクランボなど果物を発酵させたお酒がある。

 私はリンゴ酒の小瓶を選んだ。

 地球にも『シードル』と言うフルーティなお酒があったがそれに近い。

 シアンは下戸だし、ユーグはそもそも酔わない体質なので、エマガーデンには私しかお酒を飲む人間がいない。だから、部屋に帰ってちびちび晩酌をするのがここでの主なお酒の楽しみ方だ。


 それからそばの実も購入した。

 たまにこれで雑炊を作る。米とは味わいが違うが、ダシと醤油で煮込めば優しい感じの和食になる。ほっこりしたい時に良いものだ。


 私はケンジの店で買い物を終えポータルで東門横まで移動した。

 東門前の『ライシュレッカー』でさらに持ち帰りの品を購入し帰路につく。


 ガーデンに到着したのは午後二時半ごろだった。


「ただいま、ローストビーフ買って来たよ」


 待合室にいたユーグに私は声をかけた。


「ありがとう、夕食に使っていいの?」


 ユーグが立ち上がって言う。


「そうね、今日の夕食に半分使って、残りは明日のお昼にどうかなって思ったの」


「そうだね、今日は野菜と合わせてサラダ風に。明日はサンドイッチにしようか」


 私がローストビーフを冷蔵庫にしまう間にユーグはお茶を入れながら言った。


「わかったわ、これ飲んだら菜園からいろいろ摘んでくる」


 ユーグが入れてくれたお茶のカップを両手に持ち私が言う。


 エマガーデンの菜園は温室を抜けた先にある。そこから、ルッコラやリーフレタス、ラディッシュなどを収穫。


 さらに自分用に菜花。これは晩酌のつまみの辛し和えを作るためだ。


 ここでは、植物のための水や肥料は亡きエマが仕込んだ魔法のおかげで、人間がやらなくても自動的に供給されるようになっている。もちろん雑草取りの手間もいらない。私たちがやることは植物の生育具合のチェックと収穫ぐらいだ。


 だからこそ三人で広大な敷地のガーデンをなんとか回していける。


 ローストビーフサラダと塩パン、そしてスープ。いつもは夕食を食べないユーグも今夜は私たちと一緒に食べた。


 そして明日に備えて、三人とも早めに自室に戻った。


 私の部屋の窓からはティミヤンの街が見下ろせる。シャワーを終えた私はそれを見下ろしながら、小さなグラスでリンゴ酒を一杯あおり、早めに床に就いた。

 

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