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第15話 雇われ管理人の一日(3)~組合支部まで~

 十時半ごろに、私は実験室入り口前のポータルを使って一階に降り、待合室に顔を出した。


 ガーデン内部は塔の中を含めて要所要所に瞬間移動のポータルが設置されている。それを使えるのは登録されている人間、ガーデン従業員の私たちと魔導具店のリンデンだけである。


 だけど、こう移動に便利だと運動不足になりそうだ。

 それがわかっているからか、シアンは自分の足で歩いたり、塔ならジャンプで飛び移って移動したりしているのだろうな。


 一階の待合室にいたユーグに飛び入りの挑戦者が来なかったを尋ね、いなかったようなので私は街に出かけることとする。


 ちなみにこの星は地球と同じく一日が二十四時間となっている。

 その速さが地球と同じかどうかわからないが、体感的には違和感はない。


 お金やもろもろの単位の数の数え方は十進法となっていてこれも違和感はない。


 地球の影響を受けているおかげか、それとも本当に似た星だったのか、わからないが時間やお金は戸惑うことなく適応できている。


 ガーデン入り口を出てティミヤンの街の東門まで歩く。


 今はいている靴は靴連れ防止、自動修復と洗浄、そして、疲れ軽減の効果が魔法で付与されている。地球でも魔法関係なく構造や素材でそういった機能のある靴が存在したが、その効果がより強化されたものとみなして良い。

 足が軽くなり早く歩くことのできる補助魔法もある。やってきた日にリンデンが時間限定でサンダルに付与してくれたやつだ。そういったものをつけると筋力が衰えるとのシアンの忠告に従ってそれは付けなかった。

 確かにそんな効果まで付けたら普通の靴は二度とはけなくなりそうだ。


 それにそんな靴で急がなくても街の東門までの道のりは歩いていて楽しい。


 特に春になってから道端にも小さな花がいろいろ咲いている。


 オオイヌノフグリという日本では道端の雑草とみなされる青く可憐な花がある。可憐な見た目に似つかわしくない名の語源を教えると、ユーグやシアンも驚いていた。それに似た花が道のあちこちで咲いている。この星の固有種らしく、桃や紫の色もあり『ユディトエル』と呼ばれている。


 ナズナやハコベ、これらは地球産。エマが持ち帰り、春の七草という地味な見た目の割りに食用にもできるお役立ちの草なので、道端に適当に植えたら増えたらしい。


 クローバーは花はまだ咲いていないが、ここへやって来た時に投げ出された大木の下にも生えていた。そして、ガーデンから街の東門の間の道端にも広がっている。これもエマが持ち帰って増えたもの。


 そんな風に花いっぱいの道を楽しみながら歩けば、あっという間に門の前だった。



 ◇ ◇ ◇


「いらっしゃい、ミヤ」


 組合支部に入ってきた私に受付にいたアーヴァが声をかける。


「こんにちは、そろそろ古い花が枯れる頃だと思ったから」


 私は持ってきたっプリムラの鉢上を差し出した。


「ありがとう!」


 鉢植えを受け取りながらアーヴァは歓声を上げる。


 ダンジョン組合にやってくる冒険者どもは、いささか他人に対する丁重さや繊細さに欠けた連中が多い。それはわずか半年、この仕事に携わった私も身につまされている。それに嫌気がさした時の心を和ませる小道具として役に立っているらしい。


「ねえ、ミヤ、今日はこれからどうするの?」


「どこかで昼食を食べてからガーデンに帰ろうと思っているけど」


「だったら、街の中心部のケンジの店に行かない? 午後からギルド支部に行かなきゃならないから、昼食をそっちで食べようと思っているの」


 ケンジの店とは私と同じ異世界人の寺沢賢治さんが大豆でできた調味料を売っている店で、食事処が併設されている。大豆でできた調味料とはもちろんみそやしょうゆのことである。


「いいわね、お昼は軽くいきたかったし」


 ガーデンダンジョンや組合支部に近い東門近辺は、冒険者向けのがっつりした料理の店が多い。それも嫌いではないが、昼食はあっさりと軽いものが欲しくなったりするからね。


「じゃあ、ちょっと待ってて」


 アーヴァは奥に引っ込んで中の人に昼休憩に行くことを告げ、出かける準備をした。


 ギルドとは地球の中世ヨーロッパにあったものと同じく職業による組合である。


 ダンジョンと関係が深いのは冒険者ギルドだが、他にも服飾や医療、家政関係のギルドもある。どの職業ギルドも職能によってランク分けされている。いずれのギルドにしても、そこに登録をしていれば関連の仕事を見つけやすいし、ランクが上がればギルドの方から仕事を依頼されることもある。


 冒険者ギルドはもともとは、魔物を狩るのを中心とした狩人ギルドと要人警護やもめごと解決など人間社会のトラブルを解決するため万屋ギルドに分かれていた。二つとも内容的にはどちらも荒事に関わる職業故、両方に登録している人も多く事務処理の都合から一つに統一された。


 ダンジョンは国が管理している施設であり、基本的に冒険者ギルドに登録された人間の挑戦しか受け付けない。


 ダンジョンの場合、仕事としてギルドに依頼しなくても冒険者たちは勝手に挑戦しに来るのだが、挑戦者の名前と結果はギルドにも報告される。問題行動があればもちろんそれもしっかりギルドに報告されるという寸法だ。


「お待たせ」


 ポンチョのような短いマントを羽織ったアーヴァがでてきた。


 絹のように光沢のある薄い素材だが、防寒、防水、自動修復機能などが着いたアーヴァのお気に入りの逸品である。二年前にそうとう奮発して購入したらしく、夏以外の季節にはヘビロテで着用しているらしい。


 私たちは東門横のポータルに行き、そこから街中央のポータルに移動した。

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