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第13話 雇われ管理人の一日(1)~朝食と打ち合わせ~

 エマガーデン管理人の一日は日が昇り外が明るくなってくる頃から始まる。


 この星は地球よりサイズが若干小さく公転周期は長い。


 つまり、地球に比べると光源及び熱源となる恒星から離れていて、しかもサイズが小さい分保温効果が弱いので、赤道付近でようやく地球の温帯くらいの気候となっている。私たちが住んでいるコロニーは赤道直下ではないものの緯度は低く、ヨーロッパや北海道に似た気候である。


 夏至や冬至もあるが、昼と夜の時間差は元いた日本に比べると小さく二時間ほどである。(ちなみに日本の夏至と冬至の日照時間の差は平均約五時間、緯度の高い北海道だと六時間ほど、逆に沖縄だと三時間ほどである。)


 顔を洗って服を着替え、私は部屋の外に出た。


 各人の個室のドアの前には塔を移動できるポータルがあり、それであっという間に下まで降りられるし、各人の部屋の前まで移動できる。シアンの場合はポータルで降りてくる時もあるが、ジャンプであちこち飛び移って昇り降りすることもあるようだ。


「おはようございます」


 食堂の扉を開けるとすでに食事の準備をしているユーグがいた。


「おはよう、今日はフレンチトーストにしたよ」


 バターのいい匂いが鼻をくすぐる。

 菜園から採れたありあわせの野菜のフレッシュサラダはすでにテーブルに並べられている。


 本人の話によると、ユーグは最初、液状のものしか口にできなかった。

 少しずつ訓練をして固形のものも食べられるようになり、今では普通の人間と変わらない形で食事ができる。


 食べることを覚えると作る事にも興味を持ちユーグはいろいろと調理をしたがった。よってエマガーデンでの料理係はユーグに定着している。私もある程度なら料理はできるが、ユーグがやりたがるので手伝い程度の事しかやっていない。


「おはよっす!」


 シアンが髪の毛をかきながら入って来た。


「お茶はレモンバームティにしたよ」


 レモンの中に甘さを感じるような香り。

 ハーブティの中でも飲みやすいお茶だ。


 フレンチトーストができると私たち三人は席についた。


「「「いただきます!」」」


 私が手を合わせて言うのに合わせて二人も同じようにする。 

 これが日本の前世の習慣だと教えると二人も真似をするようになったのだ。


 人造人間であるユーグの消化器官は私たち人間とは違う。


 水や気体に分解し後で取り出す。食物の中には微量だが含まれている鉱物もあるが、それもある程度集まると固めて取り出す。例えば、主食となるものの基本成分は炭水化物だがこれは炭素と水素と酸素でできている。文字通り炭素(C)と結合した水(H2O)なのである。


 この世界の魔法技術ならそれぞれの気体や水に分解するだけで終了する。だが、異世界人の中には分子構造を組み替えて別のものを生み出す『錬金魔法』を使えるものがいて、ユーグもそれを覚えた。


「今ね、食べたものの中から原料を集めてダイヤモンドを作っているんだ」


 ユーグはサラッと言った。


 そういえば、ダイヤモンドは炭素が原料だったね。


「ぎゅっと押し込めて結晶化させてつくるから、なかなか大きくならないんだけど、それなりのサイズになったらシアンに指輪をプレゼントできるからね」


 私は思わずフォークを落とした。


「指輪……」


 そういう仲なんですか、お二人さん……。

 私の反応に二人はけげんな表情をする。


「あのさ……、私たちの世界じゃ、指輪を贈るっていうのは主に結婚とか婚約とかの時だから……」


「へえ、珍しい風習だねえ」


 ユーグが無邪気にコメントする。


 やっぱり違うんだ。


「シアンが指輪を欲しがっていたなんて言うのも意外だし……」


 なんとなく彼のイメージじゃないのよね。

 思い込みかもしれないけど……。


「指輪っていうか、俺がよく魔物退治の時に使うパンチ力増強のための武具ことを、ユーグは言っているんだよな。その先に固いダイヤをつけて破壊力を強化できればありがたいからな」


 シアンがこぶしを作りながら語る。


「ほら、この先にダイヤをはめ込む」


 今使っている武具を取り出して説明。


 これ、ナックルでしょ。

 別名メリケンサック。

 確かに指にはめるものだけど『指輪』って分類はおおざっぱすぎるんじゃないの。


 勝手にこっちが勘違いしちゃっただけだけどね……。


 私たち三人はその後無言で朝食を食べ終え、ユーグが中空に予定表を出す。


「今日は予約は入っていないみたいだね」


 ダンジョンの挑戦者には前もって予約を入れておく者といきなりやってくる者がいる。予約にしろ飛び入りにしろ、やってくるとしたら午前十時ごろまでだ。


「じゃあ、十一時ごろに組合支部に届けたいものがあるから外出していい?」


 私はユーグに打診した。


「いいよ、受付には私がいるから」


 ユーグは快く留守居を引き受けてくれた。


「じゃあ、俺は見回りか。今日はどこ……」


 シアンが予定表をのぞき込む。


「明日は原生林コースに予約が入っているみたいだ」


「じゃあ、今日のうちにそこをチェックしておくよ」


「ありがとう、頼むね」


 打ち合わせも済み、三人で食器の片づけを終わらせるとそれぞれの場所に向かっていった。

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