けだま日記
この物語は、私の愛犬・けだまが見ている「世界」のおはなしです。
12歳、男の子、ちょっとおじいちゃんだけど、まだまだ元気。
そして何より、私のことがだいすき。
そんなけだまが毎日見ている風景、感じていること、そして…新しく家族になった“ゆうちゃん”へのライバル心まで。
すべてけだまの目線で描いてみました。
ちょっと笑えて、少し泣けて、たっぷり愛おしい。
読んでくださるあなたの心が、少しでもあたたかくなりますように。
けだま日記:第一話「ぼくのえりこなんですけど。」
こんにちは。ぼくはけだま。ポメラニアンのオス、12歳。だけどまだまだ元気モリモリ!お散歩では若い犬にも負けないし、吠える声には自信あり。チャームポイントは、ふわふわのボディとまんまるな目。ついでに、自慢のえりこ。
そう、ぼくの大好きな人間、それがえりこ。
……なんだけど!!
少し前から、家に“ゆうちゃん”っていう男が住みついてるんだよ。
たぬきみたいな顔して、「けだま〜♡」なんて言いながら頭なでてくる。最初は「お?悪くないじゃん」と思ってたけど、わかった。こいつ……えりこを狙ってる!!
だってね、えりこがソファに座ってると、ゆうちゃんが隣にピトッてくっつくの。なんなのあれ。ぼくの特等席なのに!そのたびに、ぼくは“わざと”ゆうちゃんの足の上にどすんって乗っかるの。
「わぁっ!けだま、重いよ〜」
って言うけど、それが狙いなんだよ!気づけ、たぬき!
夜もさ、えりこが「おやすみ〜」って布団に入ったとき、ゆうちゃんが先にくっついてると、ぼくはそっと間に入り込むんだ。「どいてもらえます?」って顔して。あたりまえでしょ?ここ、ぼくの定位置なんだから!
ゆうちゃんがいい人なのは認める。散歩もしてくれるし、おやつもくれる。いいやつ、たぶん。
でもね。
えりこの“一番”は、ぼくでありたいの!!!
だから明日も、全力で甘えまくってやる!
たぬきに負けるかってんだ!
けだま日記:第二話「朝のバトルはお腹から始まる。」
朝だ!朝だ!ごはんの時間だぁああ!
ぼく、けだま。ポメラニアン歴12年。
見た目はまだまだキュートだけど、お年はそれなり。
だから、えりことゆうちゃんは、ぼくの健康を気づかって
「カリカリご飯にお湯を注いで、ふやかした特製ご飯」を作ってくれるの。
これがまた、うまいのよ。じゅんわり染みてて、カリカリがふにゃふにゃになってて……
あれ?思い出しただけで、もうお腹が鳴る!
ということで、今朝もごはん係のゆうちゃんを起こすミッション、スタート!
まずは、作戦その1:顔ペロペロ大作戦。
ほっぺペロ〜、おでこペロ〜。
「ん〜……けだまぁ……ねむいよぉ……」
うむ、反応アリ。でもまだ起きぬ!
続いて、作戦その2:鼻息フー攻撃!
「うわっ!けだま〜!鼻息近いってば〜!」
ふふふ、やっと半分起きた!
そして、作戦その3:きゅんきゅんボイス発動!
「きゅいぃん……きゅ〜〜ん……(ふやかしご飯プリーズぅう)」
「はいはい、けだまの朝ルーティン、今日も完璧だなぁあ、もぅ」
って、ようやく起き上がるゆうちゃん。
キッチンから聞こえる、あのカリカリにお湯を注ぐ音。
じゅわ〜ってふくらむ香り……
最高の朝のしあわせ!
ちなみに、えりこはというと……
おふとんの中でくるまって、にやにやしてた。
「けだま、おこし名人〜♡」とか言って。
うん、知ってる。ぼく、今朝も任務達成!
けだま日記:第三話「えりこはぼくのもの作戦、発動。」
今日もえりこは、ぼくのいちばん好きな人。
朝はぼくの鼻息で笑ってくれて、ご飯のあとにはほっぺにチューしてくれる。
うん、今日も世界は平和だね!
……と、思っていたのに。
リビングに行くと、やつがいた。
そう、ゆうちゃん。
えりこの伴侶。
ぼくのライバル。
彼は今、えりこの隣にぴったりくっついて、
なにやらニコニコしながら話してるじゃないか……。
えりこも笑ってる。え?なにそれ?楽しそうじゃん?
ねぇ?ぼくもいるよ?ここにいるんですけどぉお?!?!
ということで、ぼくは静かに立ち上がった。
ゆうちゃんのひざに、ずかっと乗る。
わざと足を突っぱって、不安定なバランスを保つ。
「うおっ、けだま、重いよ〜」とか言ってるけど無視。
この体重、12年の想いが詰まってんだよ。
えりこの顔をじっと見て、上目遣いでひとこと。
「きゅ〜〜〜〜ん……」
はい、きた。必殺・かわいさMAXビーム。
これでえりこのハートは一撃よ!
「もう、けだまったらヤキモチ〜♡かわいい〜♡」
って、ほら!見て!抱っこきた!!
ゆうちゃんがちょっと寂しそうな顔してるけど……ごめんね。
いや、ごめんとか思ってないけど。
えりこはぼくのもの。
ずーっと、ずーーーっと、ぼくのものなんだからねっ!
けだま日記:第四話「ぼくのぬいぐるみパワーで、風邪をやっつけろ!」
今日は朝から、なんかいつもと違う。
えりこが起きてこない。
いつもなら「けだま〜おはよ〜♡」って言いながら、ぎゅってしてくれるのに。
……静か。
おかしい。
ぼくはタタタッとえりこそばに駆けこんだ。
すると、えりこが布団で丸まってる。顔が真っ赤。
わかる。これは……風邪ってやつだ!!
ぼくの心、ざわつく。
なにこれ。胸のあたりがキュッてなる。
ゆうちゃんが「大丈夫?熱測った?」って心配してくれてるけど、
それよりもぼくは……!ぼくは……!!
走る。おもちゃ箱にダッシュ。
次の瞬間、ぼくの大事なぬいぐるみ達を片っ端からくわえて、
えりこの枕元に並べていく。
ライオン、ペガサス、ぴよぴよ、スティッチ……
ぜーんぶ、えりこが元気な時に一緒に遊んだメンバーだ。
「ほら、これ!これでいつも笑ってたじゃん!」
「これくわえて追いかけっこしたでしょ?ねぇ、思い出してよぉ〜」
そんな気持ちで、ぼくはせっせと並べ続けた。
最後にぼくはえりこの腕のところに、そっと頭をのせる。
「ねぇ……はやく元気になって。
ぼくの大好きな、笑うえりこに戻ってほしいの。」
えりこは目をあけて、ぼくの頭をなでてくれた。
「けだま……ありがとう……ぬいぐるみ、全部持ってきてくれたの……?」
うん。ぜんぶ、ぼくの大事な宝物。
それをあげちゃうくらい、ぼくは君が好きなんだよ。
けだま日記:特別編「ぼくのだいすきな家族」
今日のぼくの日記は、ちょっと特別なんだ。
なぜかというと――
えりこがね、ウエディングドレスっていう
キラキラふわふわの白いお洋服を着た日だったから!
ぼく、見た瞬間に…固まったよ。
「えりこ……天使になっちゃったの!?」
しかも、ゆうちゃんもなんかピシッとした黒いお洋服(※タキシードってやつ)を着てて、
いつものふにゃふにゃじゃなくて、なんだかちょっとかっこよく見えたんだ。くやしいけど!
でね、なんと、ぼくにもお洋服が用意されてたの!
ミニタキシード!
なんかリボンまでついてて…ちょっとくすぐったかったけど、
えりこが「かわいい~~~っ!!」って何度も言ってくれたから、我慢して着てみた。
カメラのお姉さんがやってきて、いよいよ撮影タイム!
「じゃあ、けだまくんも真ん中に座ってくださーい!」
えりこは笑ってて、ゆうちゃんも照れてて、
ぼくは2人の間でちょこんと座って、めちゃくちゃドヤ顔してみた。
だってね、思ったんだ。
この瞬間、ぼくは世界でいちばん幸せなポメラニアンだって。
写真の中には、えりことゆうちゃんのやさしい笑顔と、
そのあいだにちょこんと写る、ぼくのふわふわしっぽ。
写真って、動かないのに、なんだかそのときの気持ちがずっとそこに残ってるんだね。
これが、ぼくの宝物。
ぼくたち、3人でちゃんと家族になったんだなって。
そんな気がした、やさしくて、うれしい1日だったよ。
けだま日記:第五話聞こえなくなっても
最近ね、ぼくの耳、ちょっとサボり気味なんだ。
えりこの声、だんだん届かなくなってきた。
あのやさしい呼び声も、「おいで」も、「だいすき」も。
でもね、ぼくにはちゃんとわかるんだよ。
えりこが笑ってるときの目、ちょっと困ってるときの眉毛、
うれしいときの足取り、そして、ぼくの頭をなでる手のやさしさ。
「声」が聞こえなくても、
えりこの「きもち」は、ちゃんと聞こえてる。
朝、いつものようにそっとぼくの頭をなでてくれる。
お水の器をトントンってして、「ここだよ」って教えてくれる。
目が合うと、にっこり笑って、まるで「けだま、大好きだよ」って言ってるみたい。
ぼくも、できる限り、えりこに伝えたい。
「ぼくも、ずっとだいすきだよ」って。
耳が聞こえなくなっても、
心はもっと静かに、でもはっきりと、えりこのことを感じてる。
えりこ、ありがとう。
ずっと、そばにいるよ。
けだま日記 最終話 僕から えりこへ
えりこ。
人間の世界はたいへんそうだ。
お仕事とか、人間関係とか、
たまに泣いてるえりこを見ると、
ぼく、胸がキューってなるんだよ。
ぼくにできることはあんまりない。
おもちゃを並べることと、ぺろぺろすることと、
あとは…えりこのそばにいることくらい。
でも、それでいいと思ってる。
だって、ぼくはえりこの世界一の味方だから!
たまに、ゆうちゃんに先こされて悔しいけどね?
ぼくが見つけたひざの上、ゆうちゃんに取られたり!
夜、ぼくが寝てるのに、えりこの手を握ってたり!
(もう、ぼくの方が先に家族だったんだからね!)
でもさ、ぼく、知ってる。
えりこがぼくをどれだけ大事にしてくれてるかってこと。
だから…まぁ、ゆうちゃんのことは、ぎりぎり許す。
ぼくら“家族”だもんね。
えりこ、ほんとうにありがとう。
ぼくは、えりこの家族になれて、
ほんとうによかった。
時間は限られているかもしれないけど、
えりこと過ごす一日一日が、宝物だよ。
ずっとずっと、いっしょにいるからね。
ゆうちゃんにだって負けないくらい、
えりこのこと、大好きだよ。
――けだまより
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
この物語は、私の家族であるけだまの目線で描いた、ほとんどノンフィクションの毎日です。
言葉は交わせなくても、心はこんなにも通い合っている。
そう思わせてくれる存在に、私は毎日救われています。
ゆうちゃんとのちょっとした三角関係(?)も、けだまの目にはまっすぐ映っていたことでしょう。
そんな嫉妬も、やきもちも、全部ひっくるめて愛おしい日々。
耳が聞こえなくなっても、けだまはちゃんと私の気持ちを理解してくれる。
だから、私もけだまに負けないくらい、目で、手で、心で伝えていきたい。
いつか訪れる“さよなら”のその時まで、
笑って、泣いて、一緒に過ごしていこうね。
そして、読んでくださったあなたへ。
あなたにも、そばにいる誰かとの時間が、温かく続いていきますように。
どんな日も、あなたが一人じゃないと感じられますように。
けだまと、私と、ゆうちゃんから。
愛を込めて。