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出会い(刀威・匡)

 これは約三年前、二人が出会った時の話。


 阿宮あみや まさしは演劇部に所属している高校3年生だ。なお、自分から志望して入部したのではなく、勧誘されるがまま、気づいたら入部していた。

 理由は簡単。顔が良かった、以上だ。

 一切表情の動かない青年だが、それがミステリアスでいいとかなんとか、とにかく女子ウケする男だった。

 そんな匡に、学校側も目をつけたらしい。


「それで、学校のSNSアカウントの運用を任されたって?」


 スマホを睨んでいる匡、その目の前には弟のきよがいる。澄は呆れ顔でため息を吐いた。

 スマホの画面は学校から任された、若者に人気のSNSが表示されている。

 現在女子の割合が少ないことに加え、年々入学希望者が減少傾向にあった。そこで、匡を餌に学生を集めようという魂胆である。

 しかし、匡は流行に乗るような青年ではなかった。今回渡されたSNSも初めて触る。ましてや、期待されているであろう自撮りなんてしたことがない。

 澄はそれらを全て知っているが故、ため息を吐いたのだ。


「嫌なら嫌って言えばいいのに」

「嫌、ではない」


 その気持ちは嘘じゃなかった。

 匡は〈チャイル〉だ。とにかく一人を嫌う体質で、他人に落胆されるのも嫌がった。

 SNSの運用を拒否して先生たちに落胆されようものなら、それこそ子供化まっしぐらだっただろう。


「まさくんさあ、周りを信頼してなさすぎだよ。そんな簡単に離れてかないと思うよ?」

「それはお前だからだろう。俺は……、お前みたいに愛想良くできない」


 匡の周りに集まってくるのは、ノートを見せて欲しいだとか、クラスの係が一緒だとか、関わる理由がある人達だけだった。

 仲良くしたいから、と言う理由だけで関わった人はおそらくいない。少なくとも匡の中では。

 ――高嶺の花ってやつかな。

 と、弟の澄は思うが、匡自身は自分の見た目が良いだなんて思っていないのである。説明しても、褒め称えても、理解してもらえないレベルには思っていない。


「じゃあさ、なんでアカウントの運用任されたと思ってるわけ?」

「暇そうに見えたんじゃないか? 実際、部活の方も二、三個台詞覚えたら終わりだからな」


 所詮は客寄せパンダ、演劇部でも後半数分しか登場しない役が殆どだ。

 だからと言って道具の方に関われるほど器用でもなく、匡は暇を持て余していた。定期テストで学年一位を取り続けるくらいには勉強しかやることが無かったのだ。

 今回、先生から任されたこの仕事は、そんな匡への配慮だと、匡自身は捉えている。

 澄は呆れて言葉も出なかった。が、同時にあることを思い出す。


「まさくん、写真撮るの苦手ならさ、得意な人に手伝ってもらおうよ」

「出来ることならそうしたいが……、俺に写真が上手い友人なんていないぞ」

「そこは任せて」


 澄は胸に手を置き、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「俺の友達を紹介してあげる」


 次の日の放課後。匡が言われた通り裏門で待っていれば、澄が後ろに誰か連れてやってくる。

 制服からして、澄と同じ中学校の男子生徒だ。

 彼は匡の目の前まで来ると、肩を強張らせて頭を下げる。


「こっ、こんにちわ!」

「こんにちは」


 勢いよく上げられた顔は少し高揚していて、目はキラキラと輝いていた。

 ――それは、どういう感情だ。

 匡が困惑しているのを察し、澄から男子生徒を紹介する。


「この子がほり 刀威とういくん。一個下の後輩なんだけど、うちの写真部入ってる子だから、写真撮るの上手だよ」


 澄と刀威が通う、そして匡も以前通っていた光ヶ丘中学校の写真部はかなり力が入っていた。時折近所にある撮影館から人を呼んではレクチャーしてもらっているのだ。


「そうか。なら、早速一枚頼みたい」

「うん! ……じゃなくて、はい!」


 刀威は腕まで上げて、元気よく返事をした。

 当間大学附属高校には、部活関係でよく他校生も出入りする。そのため、見知らぬ人間がいても不審に思われる可能性は低いが、一応中学の学ランはやめて、匡のジャージを貸してあげた。ちなみに澄は帰った。


「えっと、どこで撮りたいとかある……ますか?」

「無理に敬語で話そうとするな。煩わしい」


 刀威は「わずら……?」と首を傾げてから、何事もなかったかのように質問を繰り返す。


「どこで撮りたい?」

「どこで……、特に考えていなかったな」


 一応、学校のPRが目的である以上、学内で撮るのが良いだろう、くらいしか考えていなかった。

 匡が腕を組み考えているのを見て、刀威は提案する。


「じゃあ、中庭行こうよ。綺麗なところあったよね」

「中庭か……。確かに、今なら藤が満開だな」


 四月も中盤、桜はとっくに散ってしまったが、藤棚は見頃を迎えていた。

 中庭に着くと、匡の言った通り藤棚が鮮やかな藤色で埋め尽くされている。小さく拍手をする刀威の横で、普段中庭に立ち寄ることのない匡も感嘆の声を洩らした。

 その後、撮影はスムーズに行われた。匡がどうすれば良いか聞けば、藤棚の下を歩くだけで良いと返されたので、匡は本当に歩いていただけである。

 写真はスマホで撮った。SNSにあげるならこっちの方が楽だろう、という刀威から提案があったためだ。


「それなら、連絡先交換しておくか」

「いいの⁉︎」

「良いも何も、写真を貰わないとだし、次を頼む時に大変だろう?」


 匡のさも当然、と言う態度に対し、刀威は頬に手を当て「次もあるんだあ」とにやける顔を押さえつけていた。

 その日の夜、澄が熱のとれたクッキーをラッピングしていると、送られてきた写真を眺めていた匡から声がかかる。


「なあ、澄」

「んー?」

「堀のやつ、もしかして俺の見た目が相当好きか?」


 澄は素直に驚く。今まで、匡から自分の外見が好かれている、なんて話を聞いたことが無いからだ。


「鈍感さんのまさくんにしては鋭いね」

「堀は、他のやつより分かりやすい」


 匡は再びスマホに視線を戻す。よく撮れている、という感想を持つと同時に、気恥ずかしさまで感じてしまうのは、刀威の撮り方のせいだと匡は思うのだ。

 あなたの素敵なところを知っていますよ、と言わんばかりの撮り方をするせいだと。

 照れ隠しで険しい顔になる兄を見て、澄は口角を上げた。反対に眉は下がる。

 ――勝手に言うわけにはいかないからなあ。



ほり 刀威とうい

 体質:〈スタッフ〉

 高校二年生。写真部所属。

 匡を撮るのが好きで、色んなところに連れ回している。


阿宮あみや まさし

 体質:〈チャイル〉

 大学三年生。演劇サークル所属。

 刀威の撮る写真が好き。撮られるのはいつまでも慣れない。

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