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僕の日記2  作者: Q輔
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パワハラについて②「復讐」

 令和七年一月九日(木)


 今から二十数年前。僕が建設業界で働き始めた頃、そこはまさにパワハラ天国だった。そもそもパワハラなんて言葉が存在しなかったと思う。いや、あったのかもしれないが、建設現場でセクハラだのパワハラだのを危惧する風潮は先ず無かった。


 上司からの怒号や罵声は日常茶飯事。暴力行為も風景だった。僕はチビで貧弱だったし、生まれ持った気品や頭の良さが体外へほとばしるほどの貴公子ぶりだったので、品格に欠ける大人たちから妬まれ嫉まれ、それはそれは数えきれないほどのハラスメントを受けましたよ。


「馬鹿」「低能」「チビ」「お前には期待をしていない」「俺の小1の息子のほうがお前なんかよりよほど優秀だ」「障害があるんじゃねえの?」「俺ぐらいの人間になると、一目見れば相手の能力が見抜ける。お前はクズだ。さっさと会社を辞めろ」「種なし」「子供が欲しければセックスの後に嫁をカクテルシェイカーのように振れ」などなど。そして、見ている前で物を破壊する。あるいはこちらに向かって物を投げる。あるいは、殴る。蹴る。などなど。


 同世代にもパワハラを好んで行う異常者は生息したが、少数だったように思う。やはり団塊の世代・バブル世代のパワハラは凄まじかった。この世代は日本の人口ピラミッドの主要部を占めていて、個体の絶対数が我々とは明らかに違うから、例えば僕が作業ミスをすると、どこからともなく上司がウヨウヨと湧いて出て、僕一人に対し三人がかりで寄ってたかって怒鳴り散らすという勢いであった。


 やっぱりアレだね。ぎゃーぎゃー言われると、肝心の情報が入ってこないという弊害があるよね。怒号や罵声を淘汰して、技術的情報のみをピックアップして脳内に放り込むという非効率的な行為に辟易するよね。ふつーに説明して頂いたほうが百倍理解できるのにね。暴力なんか振るわれた日には、頭の中が真っ白になっちゃってさ。知識や技術の習得どころじゃねえっちゅーの。


「親方さま、誠に申し訳ねえ。すべてはアッシの不徳の致すところでごぜえやす。お代官さま、すべてはアッシが悪いんでさあ。お殿様、アッシはあなたに叱っていただき嬉しいだよ。さあどうぞケダモノのようにお吠えになってくだせえ。お気が済むまで殴ってくだせえ」


 へりくだれるだけへりくだり、地面に頭をこすり付けて、アッシは歯を食いしばって耐え忍んだ。


 だって思い悩んで会社を辞めたり、一時の気の昂りで相手の胸ぐらを掴んだりしたら、相手に対して正当な復讐が出来なくなるじゃん。カッとなって相手を殺すとか、そういうの復讐として浅はかじゃん。欲が無さ過ぎじゃん。じっくり時間をかけて、しかるべき復讐を入念にするべきじゃん。当時の僕はこのように決意した。


 そして現在、僕はその復讐に成功をしている。


 どんな復讐かって?


 パワハラをした上司、全員まとめて自分の部下にしたのである。


 もちろん、かつて僕にパワハラをした上司を、ここぞとばかり不当に扱ったりとか、強引に退職に追いやったりとか、いじめたりとか、そんな欲のない復讐はしていない。逆に、同じ職場のパートナーとして良好な関係を築くという、極めて欲深い復讐を実行している。


 こちらは昔と変わらぬデスマス調でいんぎんに話し、僕に罵詈雑言を浴びせたかつての上司たちにもデスマス調で話てもらい。僕を退職に追いやろうとしたかつての上司たちを円満退社させるため、日々尽力を尽くしている。


 彼らは、僕を前にするとみんな揃って目が泳ぐ。


 真っすぐに相手の目を見て差し上げると、悲しいぐらいに泳ぎまくる。


 僕の復讐は、今も続いている。


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