パワハラについて①「おまーの目的って何?」
令和七年一月五日(日)
巨大な建物の改修工事で、水道屋の親方が、他の業者が見ている前で、若い従業員を凄まじい剣幕で叱っている。少なくはなってきたものの、いまだに建設現場でチラホラ見る風景である。
「馬鹿、ボケ、カス! 何度言ったら分かるんだ、水道用塩ビパイプはノコギリではなくて、塩ビカッターで切れって言ってんだろうが! とっとと土下座しろ! 次に同じ間違いをしたら殺すぞ!」
……嘆かわしい。このような輩がはびこっているから、建設業界の過疎化が進むのだ。
この親方の発言は四つの意味をはらんでいる。それでは分析してみよう。
①「馬鹿、ボケ、カス」
公衆の場でのこのような発言は侮辱罪にあたり、1年以下の懲役、若しくは禁錮、若しくは30万円以下の罰金、又は拘留、若しくは科料に処される。
②「水道用塩ビパイプはノコギリではなく、塩ビカッターで切る」
これは技術的な情報を伝達する言葉だ。
③「土下座しろ」
人を脅かして義務のないことを行わせることは強要罪にあたり、3年以下の懲役、又は最悪の場合は実刑という重い結果になる。
④「殺すぞ」
明らかな殺人予告。まがうことなき脅迫罪。2年以下の懲役、若しくは30万円以下の罰金の法定刑が定められている。
分析の結果、先の水道屋の親方の発言は、大きく二つに分けられる。
②は、技術的情報の伝達。
①③④は、犯罪である。
パワハラを行う者について僕が率直に思うのは――
おまーの目的って何?
――これに尽きる。自分が相手にしたいことは何なのか? 発言の目的は何か? それを明確にすれば事の本質がおのずと見えてくるはずだ。
やりたいことが②の技術的情報の伝達であるならば、どう考えても冷静にお話しをしたほうがよい。感情的にならないほうがよい。大きな声を出さないほうがよい。そのほうが相手により効率的に情報を伝達できる。経験上そう言い切れる。間違いない。
そうではなくて、俺様の目的は①③④のように、相手を侮辱したい、義務のない行為を強いたい、怖がらせて自分の強さを誇示したいのであ~る、と言うならば話は別だ。そういう者は速やかに現場から退場していただき、堅気の生活は向いていないと思われるので、然るべき反社の道を邁進したほうがよい。
「パワハラパワハラ言われたら、指導も何も出来やしねえ!」パワハラ気質の連中は口を揃えて言う。その通り。目的が侮辱・強要・脅迫であるならばパワハラ防止法で何も出来ない。だって捕まっちゃうからね。でも目的が技術的情報の伝達であれば、ふつ~に業務は遂行出来るのだけどね。
発言の目的は何だ? 技術的情報の伝達がしたいのか? 犯罪行為で相手を傷付け、おのれの溜飲を下げたいのか?
「技術的な情報伝達」と「犯罪行為」を混ぜて発言するのはよくないことだ。どちらも中途半端にしか伝わらないし、正論と侮辱と強要と脅迫を混ぜ合わせることで、さも犯罪が正しいことのように錯覚してしまう。紛らわしいのでやめて欲しい。
技術的情報の伝達と犯罪、どちらも目的だと言う者は、せめて同時に発言することは控えてくれんかね。これからは分割して発言することをお願いしたいよ。先ずは技術的情報の伝達を冷静に粛々と行い、しばらく間隔を置いてから「馬鹿、ボケ、カス! 土下座しろ! 殺すぞ!」と半狂乱になって叫び回り、警察に捕まるなり、法に訴えられるなり、病院に収容されるなりすればよいのだ。そうすれば、技術的情報の伝達は正しく行われ、建設業界に担い手が育ち、犯罪者は一掃される。
あらためて、パワハラを行う者に問う。
おまーの目的って何?




