瞳の奥に映る者
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実在の人物、団体、地名とは一切関係ありません。
「梨沙、その手に持っている本は何?」私は梨沙に聞いた。
「これは村の図書館で見つけて来たんだ。ミツメ様の伝承について書かれてるの。ほら」
梨沙はそう言うとその本を私に渡して来た。
(そう言えば、うちにも似たような本があったな......)
私はその本の中身を読むことにした──
【ミツメ様の伝承について】
この本はとある民俗学者が調べたミツメ様の伝承について書かれていた本のようだ。
ミツメ様の起源は千年ほど前のある"ウワサ"から始まったと言われている。
そのウワサといのは、目瞑村の近くにある六里山に三つ目の鬼が出たというものだ。
いくつかの文献を見て、このウワサは元々ある村人の"嘘"だったと私は考えている。
しかしながらその嘘のウワサはあっという間に村中に知れ渡った。
やがて三つ目の鬼のウワサにはおひれがつき、人を食うだの睨まれたら死ぬだの妙な設定が付け足され付け足され、やがて神のような存在へと昇華された。
その三つ目の鬼の話は次の世代へ受け継がれていく過程でさらに変化していき、遂には"嘘のウワサ"から"伝承"へと形を変えた。
その過程で村の人々は三つ目の鬼を"ミツメ様"と呼ぶようになり、やがて畏怖の対象となった。
そしてかつての村人達は石像をつくりミツメ様を信仰することで村を見守ってくれるように祈った。
このことからミツメ様というのは単なる畏怖の対象では無く、村を見守ってくれている守り神のような側面があると思われる。
しかし、それだけでは無く本来の三つ目の鬼だった原型の影響で、怒らせれば"呪い殺される"というような恐ろしい側面も持っている。
村の文献を探る中で興味深かったのはミツメ様の呪いを解き、怒りを鎮める方法が記述されていたことだ。
それも参考までにこの本に記述しておく──
(呪いを解く方法......!)
愛美の"呪い"という発言と"ミツメ様"の意味がここでわかった。
私は気になってその呪いを解く方法と言うのを見てみることにした。
ミツメ様の呪いを解く方法は四つ。
一、ミツメ様を讃え祈る。これにはミツメ様を讃える歌も書かれていた。
二、伝承を他の者に伝えること。
三、三人の生贄を捧げる。
おそらくこれが愛美たちのやろうとしていたことだろう。
前半の二つはまだ平和的に感じたが、三つ目は完全に常軌を逸しているといえる。
おそらくは過去に村の者たちが生贄を捧げるような心理状態になるほど追い詰められる何らかの事象があったのだと考えられる。
この後の記述はほとんど筆者の感想のようなものだった。
そして、最後の後書きにこの伝承を話せる村人はいなかったのが驚いた。大体の伝承は少なからずその地の住人が知っているものだが......と書かれていた───
私がこの本を読み終えると梨沙は言った。
「呪いを解く方法が書いてあったでしょ! 早く私たちの呪いを解こう」
「いや、待ってよ。呪いを解く方法は四つあった。でも愛美のとった方法は一番残虐なものだった。それって他の二つが......」
私がそれを言いかけた時、梨沙は言った。
「......そんなわけないじゃん! きっと大丈夫だよ......そうに決まってる」梨沙はすがるような表情で言った。
「......」
私たちは何も言わずにミツメ様の石像のある山の方へ向かった。もうその時には夜になっていたが満月だったので真っ暗では無かった。
私たちは上半分が壊れている石像の前で手を合わせて出来る限りの礼を尽くし祈り、本に書かれていたミツメ様を讃える歌を歌った。
そして一通りそれを済ませてから私たちは共に下山した──
それから私は一度実家に戻ることにした。しかし梨沙はこの村に長居したくないのか車で先に帰った。
こうして私は一人実家に帰った。
実家は両親も祖父母も既にいないため空き家同然となっているが、思い出の場所なので取り壊したりはしていない。
「久しぶりだな......」久しぶりの実家に私は何となく安心感を覚える。
ふと、私はあるものを思い出し見てみることにした。
家に昔からある古くさい押し入れ。私はその戸を開き中を見た。
そこには一つの新しい金庫があった。
「昔からこの金庫の中は開けるなって言われていた。でも、何となく開けるべきだと思う」
私は父から貰っていた金庫の鍵で中身を開いた。
──金庫の中には一冊の古い本があった。
(そうだ、昔に金庫を新しくする時、ちらっと見たこの本に見覚えがあったんだ)
私はその本を手に取り、中を見た。
それを読んで、私は思わず本を落とした──
私が本を落とし呆然している時に突然、"恵子の霊"が現れた。
恵子は依然として無表情で、ただこちらを見つめていた。
恵子は昨夜よりも明らかに近づいていて、嫌な視線を常に感じ続けて緊張からか冷や汗が出る。
「......ははは、本当にそうなんだ。この呪いは......」
ひどく枯れた恐怖から来る笑いが口から溢れた───
次の日の朝、梨沙が"死んだ"と電話があった。
交通事故だったらしい。
話によれば、梨沙は突然ハンドルをきりそのまま車は横転。そして後ろにいたトラックが止まりきれず車ごとペシャンコにしてしまったとの話だった。
それはきっと、恵子の霊のせいだろう。四人だった私たちは遂に私一人になってしまった──
思い出したことがある。
昔、私たちが四人で遊んでいた時だ。ミツメ様の石像を私と梨沙が恵子と遊んでいた時に誤って壊してしまったことがあった。
今思えば、あれが原因だったのだろう......
愛美が言った『償え』という言葉。一緒に居合わせただけだった愛美も呪われたのだろう......
おそらく愛美とその両親は梨沙の持っていた本を読んで二つを既に試したのだろう。
しかし効果が無かったので最後の手段である"三人の生贄"という方法を取ろうとした。
そして金庫にあった本に書かれていたのはミツメ様の"真の伝承"だった。
ミツメ様の名の由来、それは『見つめる者』そこから『三つ目』の鬼という過程を経て現在の『ミツメ様』になったのだ。
そしてミツメ様の真の原型、それはいないはずの人間が見えるという"幻覚"の一種だ。
過去の目瞑村の住民に発症したその幻覚がウワサとなりおひれがつき、やがてそれは神として崇められる存在となった。
そして、この『見つめる』という原型は"呪い"という形でミツメ様の伝承として残り、それは私たちの身に実際に起きた。
呪いは実在したのだ。
そして、その末路を私は既に知っている───
ある場所で二十二歳の女性が自殺未遂を起こしたが、偶然居合わせた人物によって救われた。
それ以降のことはしられていないが、ウワサによると、彼女は現在、精神病院に入って治療を受けている。
しかし数年経った今でも一向に回復の兆しは無く、時々狂ったように叫び出す。
加えて精神的な影響で目も見えなくなったにも関わらず、彼女は今も誰もいない場所に向かって「こっちを見るな!」と叫んでいる。
「彼女の見えない瞳には何が見えているのか、私たちオカルト研究会は調査していきます」一人の高校生がそうカメラに向かって語った。
女子四人組の高校生グループがオカルト研究会とカメラに向かって名乗り、ライブ配信をしながら"目瞑村"に訪れているのだ。
そして、彼らは村のある空き家に目星をつけた。
「ここが、その女性の実家......なんだよね」四人のうちの一人がオドオドとした声で言う。
「調べたところそうらしいね。もう取り壊す予定らしいから、きっと入っても問題ないね」一人がそう言う。
彼女らはその空き家にこっそりと忍び入り、その家にあるオカルティックなものを探していると、"古びた一冊の本"を見つけた。
四人のうちの一人がカメラに向かいその本の中身を声に出して読み始めた。
ミツメ様の呪いについて......ミツメ様に呪いをかけられたものはいないはずの誰かに見つめられる。
初めの頃は夜に数時間ほど見つめられる程度だが、次第に見つめる者の距離が近くなり、見つめられる時間も増していく。
一週間もすれば四六時中誰かに見つめられるようになり、やがて"視界の全て"を見つめてくる誰かによって埋められて見えなくなる。
この呪いがかけられたものは気が狂い、発狂する。中には無駄だと言うのに目を潰すものもいたようだ。
私が産まれる何百年も前にミツメ様は石像に封印されたが、それも完全では無い。なぜならミツメ様の真の姿は"ウワサ"なのだ。
この呪いは伝承の一部に刻まれ、誰かに伝えられ続ける限り伝播し続ける。
私もまたこの"伝承"を知っているためいるはずのない者が見え始めている。
だからこそ、私はこの本に呪いを残すことにした。理由などない。ただ、強いて言うなら道連れにしたいのだ──
きっと、私のようなものがいる限り、永遠にこの呪いは消えないだろう。
なぜなら、人のウワサに対する好奇心は誰にも止めることは出来ないのだから。
そして、古びた本の最後のページにはこう書かれていた。
「君たちはミツメ様に見られている」
この物語はフィクションです。
読んでいただきありがとうございます。
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