8・二人の婚活相手様。に
「うーん。それにしてもあんなのを紹介しようとして申し訳なかったわ」
改めて、とターナ様に謝られるキアラ。気にしてませんから、と再度伝えるとターナ様がふむ、と一つ頷いた。
「今日お休みならまだお時間は大丈夫よね?」
「はい」
「それならもう一人のお相手の姿だけでも見ておきましょう」
もう一人のお相手とは、ターナ様付きの侍女さんが難色を示していたアルヴァトロさんのことだろうか、とキアラは考える。まぁ会ってみないと分からないことは確かだし。併し、本日はアルヴァトロさんは騎士の仕事で忙しいのでは無かったか、とキアラは思い出す。そんなわけでアルヴァトロさんの勤務とキアラの勤務が比較的早く終わる四日後にきちんと紹介してもらえるという話だったような。
「ああ、もちろん正式に紹介するのは四日後よ。でも折角時間が出来たから、普段どのように仕事をしているのか見ても良いと思うのよ」
ターナ様の発言にキアラは深く頷く。普段の姿を垣間見ることは確かに相手を知ることの一つになりそうだ、と。ちょうどこの時間帯は騎士団の訓練が行われているはずだ、というターナ様の後ろを追っていく。
彼女の美しい所作は歩く姿勢にすら出ていて、真っ直ぐな背筋はキアラの目から見ても堂々としている。上位貴族とはこんな姿勢ですら人の目を集めるのだ、と納得する。自信も有りそうなその姿に誰かを彷彿とさせて、誰に似ているのかと少し考える。
そしてーー思い至った。
まるで王妃殿下のよう、だと。
その自信のある歩く姿勢は、専属侍女を目指しお仕えしている王妃殿下のような後ろ姿に見えて。
上位貴族として生まれ育ったからというのもあるけれど、多分この方は本当にご自分の仕事に誇りを持っていらっしゃるのだろう。キアラから見る王妃殿下も王妃という仕事・役職に誇りを持っていてこのような姿を見せるから。
それに気づいたキアラは、ターナ様の仕事を胡散臭く思っていたことを、冷やかしだったことを反省して信じることに決めた。
そんな決意を胸に騎士団の訓練場に辿り着くと令嬢たちの黄色い声援が聞こえてきた。
「あら、休憩中なのね。ちょうど良かったかしら」
ターナ様の呟きに、よくよく目を凝らすキアラ。どうやら令嬢たちの中にはお目当ての騎士が居るのか、或いは婚約者でも居るのか、一角で休んでいるらしい騎士たちの周りに侍っている。そして多くの令嬢がハンカチを差し出したりクッキーだろう菓子を差し出したり……と姦しい。
その中にはキアラでも知っている騎士・アーセス様がいた。
アーセス様と言えば、ターナ様が紹介する、と言っていた候補者として一瞬扱われた、例のターナ様の婚約者候補、では無かっただろうか。
キアラは何とも気不味い思いをしたが、チラリとターナ様を見れば全く気にも止めてないようで、ふふふと笑っている。
「本当にアーセス様ってモテますわねぇ。私がお相手を紹介しなくても平気そうなのだけど、いつもお声がけされる令嬢方のことをお断りされているらしいのよねぇ。……どんな方ならお好みなのかしら」
キアラは独り言のようにのんびりとした口調で言うターナ様に戦慄する。ターナ様の婚約者候補だから、お断りしているのではないのだろうか、とキアラだって想像がつくのに、何故、ターナ様がその可能性に気づかないのだろうか。
そして彼女の仕事は結婚したい方の活動を応援する婚活の仕事では?
婚約者候補であるアーセス様が令嬢たちのお誘いをお断りしているということは、ターナ様を諦めていないということだと思うのに、そういう発想にならないということは結婚したい人の気持ちをこの方は本当に理解出来るのかしら⁉︎
えっ、本当に大丈夫、なのだろうか。
キアラは急に不安な心持ちになった。
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