5・婚活は本気度を見ている?
「じゃあ先ずはあなたの好みや希望を聞かせてくれるかしら」
挨拶もそこそこにそんな風に尋ねられたけれど、好み? 希望? と首を傾げる。
「あの、好みや希望って……」
「そのままの意味よ。例えば相手の方の身長が高い方がいい、低い方がいい。髪の色や目の色。声が低め高め。色々好みがあるでしょう? 希望は、跡取りに嫁ぎたい、婿を取りたい、仕事を続けたい、平民でも構わない、貴族じゃなきゃ嫌……とか」
キアラの質問にターナ様はあっさりと答えて例まで出してくれる。
……と言われてもなぁ。
「あの、私、好みって無くて」
抑々男性を好きになったことは無い。婚約者が居たから。まぁあの婚約者を男性として認識していたか、というのはさておき。
「あらそうなのね。じゃあどんな方でもいいの?」
「そう、ですね。身長も髪も目も全く気にしませんね。ハゲていても構いませんし、太っていても特に何とも。あ、でもあまり太っていらっしゃるとご飯の準備や着る服にお金がかかりそうだから、太っていらっしゃるならお金はあった方がいいかもしれませんね」
「それはそうね。でも残念ながらと言えばいいのかしら。婚活希望者が少ないからハゲている人も太っている人も紹介出来る相手に居ないわ」
紹介というのは、男性なら好みの女性を、女性なら好みの男性をターナ様がご紹介するそうで。とはいえ、希望者が少ないから紹介出来る相手も十人くらいだとか。女性はもう少し多くて二十人ちょっとらしい。
そんなことを話しながら好みの男性が居ないとなると、会い易い人から紹介しようかしら、とターナ様が呟いている。
「希望もないの?」
「あ、跡取りじゃなくても貴族でも平民でも構いませんが、仕事が楽しいので結婚してからも侍女の仕事を続けることを許して欲しい、です」
ターナ様はふむふむと、紙にキアラの要望を書き留める。相手の要望を聞いてなるべくその要望に沿った相手を探すために必要、らしい。
「あと」
コレを言っていいのか分からないので口籠もる。
「なに、なんでも言って? 誰かに話して欲しくないのならこの場限りで終わりよ」
ターナ様が力強く断言するので、少し考えてから決める。
「浮気、しない人がいいです」
「それは大事ね」
ターナ様はあっさりと共感してくれた。
「冷やかし半分で婚活希望としてやって来た人に女性を紹介してしまったことがあるの。最初は私が日程調整をして、後はお二人で仲良くしてね、と言うつもりだったのだけど、相手の男は最初の日に待ち合わせ場所に来なくて、女性はずうっと待っていたそうなの。私は悪いことをしたな、と思って女性に謝ったけれど、彼女は結婚願望が無くなったと落ち込んでいたわね。相手の男には私のお父様のお力を使って、徹底的に調べ上げて女性と私に誠意を見せろ、と慰謝料を巻き上げたけれどね」
男は顔面蒼白でお金を払った上で、次にやったら公爵家の権力を使うわ、とターナ様に言われて、すっかり大人しくなったらしい。
ターナ様はこのことを大いに反省して、初日だけはお互いがきちんと出会えるように立ち合うことを決めた、ということを話してくれた。
「ええと私も冷やかし半分です、ごめんなさい」
そんなことを聞かされてしまえば本音を言う必要がある。青褪めているだろう顔で謝るとターナ様は素直でよろしい、と笑って許してくれた。
「でも、それならどうして婚活をしようと思ったのか教えてくれる?」
ターナ様の疑問は尤もだけど、話そうか迷う。
「ああ、いいわ。話したくないことを無理に聞く気はないもの」
ターナ様はあっさりと先程の質問を撤回した。この国がガチガチの身分制度を重んじていたとしたら返答しなかっただけで罪に問われても仕方なかっただろうけれど、ターナ様はもしもそういった風潮だったとしても、きっとそういった感じは無いだろうという雰囲気で。
「事情がありまして……心配をかけた母や伯母を安心させたい、と」
だから、口からポロリと溢れた答えに、ターナ様はなるほどねと頷いた。
「親を安心させる、つまりお母様はキアラさんにお相手が居ないことを心配した。それは伯母様もご一緒ということ。キアラさんは安心させたくて婚活をする。そういうことも切っ掛けよね。ということは、結婚願望というより婚約者か恋人が居るくらいで構わない、ということかしら」
ターナ様の確認にコクリと頷く。
そう、強い結婚願望は無い。
「ふむ。じゃあお互いに相性が良ければ、いずれ結婚する、くらい?」
「そう、ですね。それくらいの気持ちです」
「分かったわ。何がなんでも直ぐに結婚したいって相手も今のところ居ないから、紹介は出来る。お相手の都合とキアラさんの都合が良い日がいいわね。キアラさんの都合の良い日を教えてくれる? 候補の方に打診してみるわ」
ターナ様は心当たりのある男性を紹介するわ、と笑ってくれたので、取り敢えず次の休みの日は伝えておいた。
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