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42・婚活は成功したと言えます。に。

「それで、ですね。話を戻しますけれど」


 やや強引にキアラは切り出す。ターナ様はハッとした顔で「ええ」と頷く。


「その、ターナ様に話した通り、婚約者との関係が無くなった私を心配する家族たちを安心させるために、ここに来ました。ただ、その、そこまで強い結婚願望は無いことも話したと思います」


 キアラの事情にターナ様は耳を傾ける。


「そのようなお話でしたね。だから結婚相手を探すというより、婚約者というか恋人というか。ゆくゆくは結婚しても良いかな……くらいのお相手を探したい、というお望みでしたね」


 ふむふむ、とターナ様が頷く。


「そう、それなんです。確かに私はアルヴァトロさんに求婚されましたけど、ターナ様の婚活に応募したのは、今すぐ結婚したい、ということではなくていつか結婚出来たらいいなぁ……くらいの、お相手だったものですから。求婚をどうしていいのか分からなくて、ですね。少し考えさせてくださいってお願いしたのです」


 キアラの相談というのはこれである。

 今すぐにでも結婚したそうなアルヴァトロとそこまで強い結婚願望の無いキアラ。

 二人の気持ちに差があるのでキアラとしても戸惑ってしまってどうすればいいか悩んでいる、といったところ。

 ターナ様は「そうね……」と呟いてから、ヨシ、と頷いた。


「まずはキアラさん、紙に自分のことを書いてください」


「はい?」


 相談しているというのに、的外れなことを言われてキアラが首を傾げる。


「客観的になるのにちょうどいいの。なんでもいいわ。自分の気持ちを全部紙に書き出すの。時間はあるかしら?」


 そう言われてキアラはハッと時計を見る。今は侍女仕事の休憩時間。もう戻らなくてはならないことに気づく。キアラの焦った様子を見てターナ様が心得たように続けた。


「今すぐじゃなくて、夜、寝る前でも構わないので私に話したこと、全て紙に書いてください。紙に書いて自分で読み返してみて。声に出して読み返しても良いし、ただ見るだけでもいい。それが終わったら紙を見えないようにして、忘れてしまって構わないわ。次に私のところに来る時に思い出して紙を持ってきてください」


 ターナ様に促されてキアラはよく分からないままに紙を渡される。取り敢えず二枚渡しますね、と押し付けられるように渡されてそのまま仕事に戻ることになった。

 本当にどういうこと?

 と思いながら、時間であることも確か。ポケットに渡された紙を入れて仕事に頭を切り替えて。仕事を終えて夕食を終え、お風呂だと着替える時にようやく紙の存在を思い出した。

 よく分からないまま、とにかく時間が出来たキアラは寝る前に渡された紙に只管自分の気持ちを書き出してみた。

 アルヴァトロとの出会いとかデートの様子とか。

 会話とか植物園での無言時間とか。

 元婚約者とのこととか。処罰とか。それに対する気持ちとか元婚約者の家族への気持ちとか。

 アルヴァトロに求婚されたこととかそれに対する今の自分の気持ちとか。

 全部全部紙に書いたら二枚じゃ全然足らなくて。結局自分の手紙を書くための便箋にも書いて書いて書いて。

 書き終わったら、なんだかそれだけでスッキリしてしまった。

 それからキアラに言われた通りに書いたことを読み返してみる。書いてあることを読み返してから気づく。なんだかアルヴァトロに求婚されて頭の中がグチャグチャしていたことが嘘みたいだ、と。

 読み返してみて自分の気持ちに気づいていく。


「私……アルヴァトロさんと結婚することに関しては、嫌じゃないんだわ」


 こうして書いてみるとアルヴァトロから求婚されたことを嬉しく思っている自分に気づく。

 だから結婚は嫌じゃない。じゃあ即答出来なかった理由は……と考えて思い付く。


「ああそうか。私、仕事を辞めてまで結婚したい、とも思ってないのよ。仕事を続けながら結婚することを許してくれるのなら結婚してもいい、かも」


 そう思っていることにキアラは気づく。

 紙に書いて自分の気持ちが見えていく。結婚が嫌なのではなく、仕事についてどうしたいのか、など話し合っていないから躊躇しているのだ、ということに。

 客観的に見つめてみることでどうしたいのか分かる。きっとターナ様はこうして自分の気持ちに気づけるように、と紙に書き出せ、と言ったのだろうと理解した。けれど。書いた紙のことを今度は忘れるように言った理由についてキアラはまだ分からない。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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