41・婚活は成功したと言えます。いち。
それから三日。
キアラはターナ様の元を訪れていた。
「実は、アルヴァトロさんから交際……というかプロポーズを受けました」
「あら。急展開。そういうことってあるのね」
ターナ様は目を丸くしてキアラの報告を聞く。
「それで、ですね。ご相談がありまして」
……どうやら報告だけでは無いらしい。
「相談?」
「はい、あの、私はアルヴァトロさんほどの気持ちが無くて、ですね。その結婚したいとまでは思っていないものですから、どうしたらいいか分からなくて、ですね」
ターナ様はうん? と首を傾げる。
「落ち着いて、キアラさんの状況と気持ちを教えてもらっていいかしら」
ターナ様は目配せする。心得たようにターナ様付き侍女が手早くお茶の準備をした。
一口お茶で喉を潤すと同時に心を落ち着かせたキアラ。ポツポツと心情を溢していく。
「アルヴァトロさんが、彼の事情を打ち明けてくれたのです」
侯爵家の長男だけど跡継ぎになる気はないこと。複雑な家庭環境ゆえに敢えて家のための婚約はしないと決めていたこと。紹介された女性たちとの交際事情。それによる女性不信。
「それでアルヴァトロさんは敢えてケチな行動を取ろうとしていたことが一時期あったそうです」
「ああ、それでキアラさんの前に紹介した女性の方からあんなケチな人は嫌ですってお断りがあったわけですか」
キアラがそこまで話したところで、ターナ様付き侍女がそんなことをポロリと口から溢す。
「ちょっと! そういう婚活を希望している方の事情を勝手に喋らないで! 守秘義務に反するわ。この仕事は信用第一なの。三ヶ月は私付きから離れてもらうわ。あと給金も減額ね」
「お、お嬢様っ! すみません!」
ターナ様付き侍女が口を滑らせたことにターナ様は速攻で叱り飛ばし、処罰もサクッと与える。真っ青な顔をした侍女は平謝り。でもターナ様は全く許さない。そんな二人を見ながら、そういえば以前、アルヴァトロさんを紹介してもらった時に、この侍女はターナ様に「紹介するんですか」と良い顔をしていなかったことを思い出す。キアラから事情を聞いて、ついそんなことを言ってしまったというところか。
助けてあげたい気持ちに駆られるけれど、キアラとて王妃殿下の部屋付き侍女。守秘義務の大切さは理解しているし、それに関して罰するというのも理解出来るわけで。ここは口出し出来ない、と無言を貫く。
「あのね、謝るのは私だけじゃないのよ」
ターナ様は侍女に諭すように続ける。ターナ様が婚活をしたい男女を紹介するに辺り、相手のことを話すのは、事前に話しても良い範囲を確認しているから。また、どんな相手でも紹介する方たちに余計な先入観を与えてはいけないから、マイナス部分を話すことはしていない。それから別の男性或いは女性を紹介したことがある、と言うのは、タブーだと言う。
「例えば、自分よりも前に紹介された人がいるのにうまくいかなかったから自分に紹介された。つまりうまくいかないような何かがあった、と思う人もいるでしょう。単に趣味が合わなくてうまくいかなかっただけかもしれないのに、借金があるからうまくいかなかったのか、なんて想像を働かせてしまう人も居るかもしれない。そんな想像は全く無くても、例えば前に紹介された人と自分を比べられたらどうしようって思う人も居るかもしれない。喋ることで余計な心配をすることもあるの。だから、話しても良い、と言われたこと以外は話してはいけないの。キアラさんにもアルヴァトロさんにも謝ることだしね。その他にも簡単に喋ってしまうことで信用されなくて仕事として成立もしないの。簡単なように見えるけれど、難しいのよ。あなたも我が家の侍女として仕事していて守秘義務の大切さは理解しているはずだと思っていたのだけれど」
ターナ様が丁寧に説明していくうちに、ターナ様付き侍女は真っ青な顔に涙を浮かべて本当に反省している様子。
「本当に、すみませんでした。お嬢様にもキアラさんにもアルヴァトロさんにもご迷惑をおかけしました……」
涙を流しながらキアラに頭を下げるのでキアラは謝罪を受け入れます、と頷く。
「ありがとうございます、キアラさん。侍女が大変失礼しました」
ターナ様も頭を下げて謝り、キアラは慌てた。侍女は当然だけどターナ様が頭を下げることは大げさだと思ったから。
「大げさではないんです。私は仕事をしている身としてお客様の大切な情報を勝手に打ち明けたのですから、問題なのです。だから謝るのは当然で、詫びの印も後ほど考えておきますので」
「い、いえ、そこまでして頂かなくて大丈夫です。侍女さんとターナ様と謝ってもらったので、私はそれで十分です」
キアラがそう言うとターナ様は「本当に?」と首を傾げるので強く頷く。納得していなさそうなターナ様に本当に十分ですから、と言ったキアラは、ターナ様の仕事に対する姿勢に感銘した、とも言う。こんなターナ様なら、侍女の失態もカバー出来ることだろう。きっとこの侍女も罰が終われば、益々しっかりと仕事に励みそうだ、と思いながら、キアラは話がズレていることに気づいて軌道修正することにした。
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