40・婚活相手の事情。よん。
少し冷めてしまったお茶を飲んで潤いを取ってからキアラは口を開く。
「アルヴァトロさん、大変でしたね」
「一時期、女性不信に陥っていたんだ。下位貴族の令嬢にしても平民の女性にしても、デートをすると当たり前のように何かを買ってくれると思われて、ネックレスや指輪などの装飾品やら宝石を鏤めたドレスなどを強請られる。喫茶店でも奢ってもらうことが前提だし、植物園に行こうと誘ってみたこともあるけれど嫌そうな顔で否定はするし、観劇やら音楽会やらが良いと強請られる。それも貴族席の末端ではなく上席で。私は観劇も音楽会も嫌いではないけれど、侯爵家のコネを使わなければ取れないような席のチケットを当然のように強請られるのは、ちょっとね」
キアラは更に深く同情する。そりゃあ女性不信にもなるわ。そしてキアラは気づいた。
「もしかして、私との最初のデートでウィンドウショッピングを提案した時に眉間に皺を寄せていたのは……」
「ああ、済まない。嫌な気持ちにさせてしまった。あなたの予想通り、また何か買わされるのかと思ってしまったんだ。断った女性にケチだとか罵倒された上に騎士で金持ちなのにケチだと言いふらす、と言われてね。私自身は構わないけれど実家に悪評が届いてしまうのは避けたくて、結局その女性に好きなものを買ってあげることにした過去もある。そんな女性ばかりだったから、ついキアラ嬢もそんな女性の一人だと思ってしまってね」
なるほど。そんな過去があればキアラがウィンドウショッピングをしたい、と言った時にあんな表情になるわけだ。
「でも、あなたは違った。私に強請ることもしないし、無言で私を見て私が買うことを提案するように仕向けるようなこともなかった。ここでお茶をしても奢ってもらうことが当たり前だとも思わない。きちんと当たり前のように自分の分を支払った。そんなあなたを見て、こんな人も居るのかと驚いた」
キアラとて、まぁ男性からお茶くらい奢ってもらいたいな、とは思わないでもないけれど、抑々恋人でも婚約者でも無い相手だし、そうして欲しいとは思うけれど、絶対、とも思わなかった。
感覚としては友人とお茶して、今日は自分が支払うから次はあなたが奢ってね、程度の軽い気持ち。だから、アルヴァトロがキアラの分を支払わなくても別に構わなかった。そこまで親しくないし、で終わる程度。
「キアラ嬢はそれどころか私の分まで支払う、とも言ってくれた。お茶代程度、という気持ちだったのかもしれないけれど、そのお茶代程度でも奢ってもらって当然という女性ばかりだったから。私に奢ってもらうのではなく、逆に支払う気持ちを持ってくれる。そんな女性はキアラ嬢だけだった。植物園に誘っても嫌がらないし、楽しそうに私の話を聞いてくれるし、沈黙があっても全く苦にならない。居心地が良くて。だからランチに私が気に入っている店をあなたに紹介したかった。あの時から私はキアラ嬢と結婚したい、と思った」
ストレートにアルヴァトロに告白されて、キアラは顔が熱くなっていくことを止められなかった。
「あ、ありがとう、ございます。その、私はそこまで強くは思っていない、ですけど。でも、アルヴァトロさんなら、元婚約者みたいに私を雑に扱わないんじゃないか、と思います」
もう、マルトルの名前すらキアラは口にしたくなかった。アルヴァトロはそんなキアラの気持ちが伝わったかのように、頷く。
「キアラ嬢を大切にしたい、大切にする、と決めています」
大切にしたいという願望。
大切にするという決意。
似ているようで違う言葉を明確に口にするアルヴァトロをキアラは信じてもいいのではないか、と心を傾ける。
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