4・コンカツとやらが話題らしい。
拙作【転生をお願いされてお見合いババァを命じられました〜え、めんどくさい〜】の
システィアーナ(ターナ)登場回。
さて、どうしたものか。
伯母がキリキリと父を締め上げてくれたお陰で父は暫く婚約については黙っていてくれるだろう。問題は母の方だ。嵐のように去って行った伯母を何とか見送った後で母はとてもとても凹んでいた。
それはそうだろうなぁ。噂になっている、と聞いてしまっては。
とはいえ、別に婚約破棄なんて珍しくもない。破棄というのは一方的でされる側に落ち度がある、と大昔は思われていたようだけど、今では言い出す方にも落ち度があると思われている。
そして今回の場合、マルトルがキアラではない女性と親しくしていたのは、下位貴族の間では割と知られている。
また有名とまではいかないが、キアラとマルトルが幼馴染で長年、婚約関係に有ったことを知っている下位貴族の当主夫妻や親しい友人が結構多い。
幼馴染であることから交友関係も一緒であることも大きいので、キアラの落ち度ではなく、相手の落ち度であることは理解されるだろう。
とは言っても、元々誰が誰と婚約していようと別れようと一時噂になるだけで後は全く無関心。それがこの国の貴族だ。
寿命が三百歳前後だからなのか、婚約者も恋人も居ないで独り身の人が多いし、政略結婚だの契約結婚だのもあまり無い。
あるのならよっぽどお金に困っているとか、自家だけではどうにもならないことがあるとか、そういう時のみ。
前者はさておき、後者は例えば隣国から仕入れる物品の流通ルートの確保とか、自領から王都までの道の整備のための資金財源確保とか、そういうことである。道の整備は王家と折半になるらしいがそれでも負担金が多すぎる、と判断されて政略結婚という形になることもある。
契約結婚の方はどちらかと言えばお互い結婚する気はないけれど体裁のために婚約者が必要、或いは結婚したくないけれどどうしても結婚しなくてはならないので互いに契約して妥協して伴侶になる、など個人間でのもの。そういった裏事情など貴族はあまり必要としていない。
大昔も大昔では、そういった裏事情も把握して情報こそが貴族の命、などという時代もあったらしいけれど、何しろ寿命が長いからか、結婚してからも互いに好き勝手して子どもを作らないで数十年が経つということも当たり前のようにある。
段々と当主交代しても百年や二百年は変わらないから、駆け引きだのなんだのというのも面倒くさいという雰囲気に変わっていき、今では誰と誰が婚約しようが結婚しようが婚約破棄しようが離婚しようが気にならない風潮に至っている。
……のだけれど。
親というのは、そういうものでは無いようで。
ーーこの国には前世持ちと呼ばれる人が結構居て、その前世の記憶を持っている人達が口を揃えて言うのに、寿命は百歳前後だったそうで。こちらでは成長速度がある程度の年齢に達すると途端に止まったと思うくらい緩やかになるから、実年齢が百歳でも見た目は二十代後半か三十代くらいと変わらない、のだとか。
そんな話を前世持ちの人達がよくしているのは、見た目と実年齢の差にやられるかららしい。
キアラの見た目年齢は十代後半で緩やかになってしまったので、その頃と変わっていない。
そういうものだ、と思っているこちらからすると、前世持ちの人は実年齢と見た目年齢の差で暫く混乱するという気持ちが理解出来ない。
余談はさておき。
そんな事情から別に婚約破棄されようと、噂になっていようと、なるべく気にしていないキアラ。
気にしているのはちょっと外見について気にしていることを無神経に抉ったマルトルの言葉。
だけど、母は娘が婚約破棄された、と噂になっていることが耐えられないようでとても分かり易く落ち込んでいる。
此処は一つ、娘としては親を安心させるために新しくお相手を作るべきか、と溜め息をついた。
正直なところ、面倒なんだけど。
仕事面白いし、結婚願望無いし。
それに幼馴染としても婚約者としても長年一緒に居た相手から外見について無神経な発言をされて、それはちょっと尾を引いているし。
とはいえ、母を安心させるのもまた娘としての義務かもしれない。
そういえば、今、王家に次ぐ権力者である、とある公爵家のご令嬢が前世の記憶を活かしてコンカツとやらを行っているそうで。
侍女仲間から耳にしていたキアラ。どうせなら城勤めの使用人達の間で流行し始めている、そのコンカツとやらを利用してお相手を見繕ってみるか、と考えてみる。
お相手が出来るとは思ってないけれど、まぁ出来たら母に報告して婚約破棄の噂が上書き出来るよ、と一言足せばいい、はず。
……尤も噂なんて直ぐに消えるだろうけど。
だけど婚約を無くすことに力を注いでくれ、慰謝料もふんだくってくれた母のためなら。女は度胸。物は試し、と突撃してみることにする。
ーーそして。
結婚したい人たちを会わせてサポートするのがそのご令嬢の仕事らしい。結婚したい人たちが活動する。それを婚活と言う。
コンカツの意味を、三日休暇明けに冷やかし半分で、その公爵家のご令嬢に会おうと人から紹介してもらって会った時に、そのご令嬢が熱弁して教えてくれた。
「初めまして。婚活希望の方とか? よろしくね。私はシスティアーナ。ターナと呼んで頂戴」
快活に笑ったその人は、公爵家のご令嬢には見えなかったけれど、でもカーテシーやソファを勧める仕草など所作はさすが上位貴族のご令嬢、とばかりに指先まで美しかった。
「キアラと言います。男爵家で……」
「ああ、爵位とか別に不要よ。情報として相手方に教えたい、というのなら兎も角、私には不要。礼儀とかも気にしないで。平民の方も相手にするから。さて、早速で悪いけれど、あなたの好みや希望を教えてくれる?」
……テンポのいい会話で、キアラはすっかりこのターナ様の人柄に惹かれてしまった。
が。
この直後。
婚活に対して冷やかし半分でやって来るのでは無かった、と後悔する羽目になるとは露ほども思っていなかった。
婚活ってこんなに質問攻めに合うものなの⁉︎
……という声にならない悲鳴を上げながら。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
次話はお見合いババァことターナの手腕発揮(?)です。多分。