39・婚活相手の事情。さん。
「それで、騎士として働き出してから有体に言えば敢えて下位貴族の令嬢か平民の女性を恋人か婚約者にしよう、と騎士仲間から紹介をしてもらったこともありました」
キアラと出会う前のアルヴァトロはそういった形でお相手を探していたらしい。
「アルヴァトロさんなら直ぐに見つかったと思いますが」
キアラは南国出身だと言う亡き実母に似ているのだろう、我が国では見ない顔立ちを見ながら率直に言う。
「居ないわけじゃなかったのですが。私が侯爵家の長男であることを知って侯爵夫人になれる、と勘違いする令嬢や、貴族出身であることを伏せて平民の女性とお付き合いしても、騎士であることからそれなりに贅沢が出来ると思う人ばかりで」
「ああ……」
キアラは物凄く深い納得をしてしまう。
確かに下位貴族と言えども玉の輿狙いの令嬢ならばアルヴァトロの素性など直ぐに分かるだろうし、貴族出身であることを伏せても騎士という職業は給金が良いのだから、想像は易かった。
抑々騎士は爵位を授与されたもの。つまり一代限りの貴族。王族や貴族と関わることや国に一大事が起きた時の防衛力として考えられているため、訓練はとても厳しいし、目上や同僚との派閥争いに巻き込まれてしまえばストレスも溜まる。そこは王城の使用人として侍女仕事をしているキアラでも分かること。
そういった諸々込みで給金くらいはせめて、とキアラもかなり頂いている。騎士も同じだろう。特に騎士の場合、万が一のことが起きたら生死も危ぶまれることを考えるに、遺された家族のためにも、と更に給金が上乗せされると聞く。その他、実際に仕事中に落命してしまえば遺族に手当ては別途出るらしいが、それはさておき。
つまりまぁ平民の女性からすれば、騎士という職業の男性は金持ちの一言に尽きるわけで。それは贅沢が出来るかも、と勘違いする女性が出てもおかしくない。
ただ、恋人や婚約者には騎士という職業に就いている人は人気だが、結婚相手となると途端に人気が落ちるというか、離婚率が高いとも聞く。
ただでさえ結婚に興味が無い男女が多いのに、折角結婚しても離婚する可能性が高いのでは、騎士は報われなさ過ぎではないか。
とはいえ、騎士という職業柄、王城で泊まり込み勤務もあるし、遠征といって国境付近まで出向いて国境を守る警備隊と定期的に演習も行っているそうで、その演習任務の場合は年単位での長期任務にあたるので、その間は不在。
昔々は手紙でしか遣り取りが出来ず、仕事もしていない妻の中には気を病んでしまうとか寂しくて浮気をしてしまうとか、そういったことがあったらしい。
今は魔道具の発達で毎日顔を見ながら互いのことを話せる電話があるのだが、電話が出来ても物理的な距離の寂しさは変わらないからやっぱり浮気してしまう、という妻も居れば、夫が居ないことに慣れきって帰って来て一緒に生活することに耐えられない、という妻も居るらしく。
離婚率は変わらない、らしい。
魔道具製作の過程で利用状況を知りたい魔術師調べだとかで本当かどうか、キアラは知らないが。
更に言えば、騎士という職業柄、任務に着くと妻だろうと親兄弟だろうと、どんな任務なのか一切口に出来ない守秘義務もある。その性質ゆえに隠し事が疑念を呼んで夫婦間に亀裂も入るらしい。
キアラは王妃殿下の部屋付き侍女なので守秘義務はとてもよく分かるが、仮に平民の女性が結婚しても、守秘義務は理解出来ないかもしれないな、とは思う。
それは平民だからとかではなく、貴族でも要するに守秘義務の大切さを身に沁みて理解してない限りは、難しいのだ。もしかしたら理解出来るキアラでさえも、疑念が沸くことがあるかもしれない。
守秘義務とはそれくらい、徹底して口外出来ないことだから。任務が終わり、上からこの程度なら話しても良い、という許可を得て初めて話せる範囲とかも出てくるだろう。
騎士に関わらず守秘義務とはそういうものだ。
……それが分からない人に説明して納得してもらうのも大変だけど、それでも理解しようとする人だっているのだから、まぁ最終的にはその人次第と言ってしまえばそれまでなのだが。
アルヴァトロの相手はそこまでいかない人たちばかりだったのかもしれないが、結婚の話が出ても守秘義務の大切さを理解出来たかどうかは……神のみぞ知る、といったところ。
そんな諸々をキアラはとても深く納得しながら聞いていたし、なんだったらアルヴァトロに同情もしていた。
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