37・婚活相手の事情。いち。
「そういえばアルヴァトロが君と交際をしている、と申し出ていたが。今回の件で無理やり交際を迫ってきたということは無いだろうね?」
騎士団長様が最後に確認をしたい、と言われたのでマルトルのことでまだ何か……と考えていたキアラは予想外のことを言われて「へ?」と取り乱した声を上げた。
厳しい顔のままの騎士団長様に見られキアラは慌てて首を振る。
「い、いえいえ。あの無理やり交際を迫られていません。というか、その、システィアーナ様の婚活というのでお互い知り合ったので、あのその……」
キアラはどこまで話せば良いのか分からず、しどろもどろになるが騎士団長様が「そうか」とカカカッと笑い声を上げたので、どうやら揶揄われたらしい、と今度は居た堪れなくなった。
「いや、済まんな。あの顔の所為か碌な女が寄ってこなかったものでな。良い女性と巡り会えたのならよかった。アルヴァトロを頼む」
騎士団長様に頭を下げられ「は、はい」と思わず答えたキアラ。併し冷静に考えると騎士団長様に頭を下げられて頼まれるような何かが二人の間にあるわけじゃなくて。困った、と思う間もなく。
ずっと側に居た侍女長が騎士団長様ともう少し話があるから先に戻るように、と言われて談話室を出た。多分キアラが困っていることに気づいて侍女長は助け舟を出してくれたのだろう、と思った。
違うと分かったのは談話室を出て直ぐにアルヴァトロがやって来た事だった。
「キアラ嬢」
「アルヴァトロさん、あの……?」
なぜここに? と首を傾げると、今日のことを知っていたからと言われ、王妃殿下の私室まで送って行きたい、と言われてしまう。仕事の休憩時間らしいので断るのもどうかと思って受け入れた。
「キアラ嬢、次の休みはいつだろうか」
アルヴァトロの少し固めの声に気づいたものの理由が思い浮かばず、そこは気づかなかったことにして問われたことにシフトを思い出す。
「次の休みは六日後です」
「そうか……。その、その日に私とあたなの今後について話し合いをしたいのだが、どうだろうか」
「それは……はい」
キアラが頷くとホッとしたような顔でアルヴァトロは時刻と場所を伝えてくる。いつも通り騎士団に近い門での待ち合わせのようでキアラは頷いた。
「その、キアラ嬢、もう頬は痛くないか」
次のことを決めてからアルヴァトロがそこを尋ねてきてなんだかちょっとおかしくなった。
今ごろ気にかけるなんて……とも思うが、それでももう赤くもない頬について尋ねてくるのだから優しい人だ、とキアラは思う。
「大丈夫ですよ。……マルトルの処罰を聞いて騎士団からの除籍なんて、かなり重い処罰だと思ったのですけど。でも頑張ればそれなりに良い待遇も可能性があるみたいですし。恋人と結婚も出来るみたいだし。結果的に良かったんじゃないのかな。会いたいとは思わないけど、幼馴染の情も無くなったけれど。それでも。酷い目に遭えばいい、とは思ってないから。二度と会いたいとも思わないし、連絡も取りたいわけじゃないし、気にかけることもしないだろうけど。偶には、そんな人も居たな……と思い出すことはあるかもしれないけど、それだけ。あなたはあなたで幸せになればいいんじゃない? と思ってます。私も私で今が既に幸せですしね」
キアラは何ともない。吹っ切れている、と分かるようにアルヴァトロに笑う。
アルヴァトロは「そうか」と頷いて。
「では、六日後に」
いつの間にか送り届けてもらっていて。帰り際にそれだけ言うとアルヴァトロは今まで無かった行動を取った。
……キアラの手の甲に唇を落としていったのである。理解したキアラの顔は真っ赤だった。
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