26・元婚約者の現在・さん。
些細なことですが。章タイトルの末尾に付けていたアラビア数字の1、2をひらがなのいち。に。と変更しています。
キアラとアルヴァトロが分断され女性たちに囲まれたアルヴァトロをちょっと見ながら、キアラはさてどうしようか、と軽く息をつく。アルヴァトロを放置して帰る……案が一瞬頭を過ったけれど、さすがにそれは良くないかと思い直す。だが、現状は分断されている……ん? とキアラはアルヴァトロを見て気づいた。
キアラと話している時は少しだけ口元を緩ませていたアルヴァトロだが、現状女性たちに囲まれた顔は口元も緩まず無表情。背が高いアルヴァトロなので女性たちに囲まれても顔はよく分かる。その顔が無表情だ。
ーーアルヴァトロさん、実は女性嫌い?
そういえばウィンドウショッピングをしたい、と言った時、キアラのことを少し嫌そうに見ていたことを思い出す。
あの時も女性が嫌いなのだろうか、と思ったけれどこうして女性たちに囲まれた姿を見れば予測は間違いでは無いらしい。
ーーでも、婚活はしているのよね?
結婚したくないけれどしなくてはならない事情でもあるのだろうか。もしかしたらキアラのように家族や身内を安心させたくて相手を募っているのかもしれない。
でも、それならばこれだけモテるアルヴァトロなので婚活という形ではなく、その気になればいくらでも相手が見つかりそうだ……ああ、だからか、と一人キアラは納得した。
女性嫌いだけれど身内を安心させたいから相手を探す。でもこのように囲まれてしまうのは女性嫌いだから勘弁して欲しい。
その結果が婚活であり、現状キアラと交流している、というところだろう。
ということは。
もしやキアラは、この女性たちの囲みを突破してアルヴァトロを救出しに行かなくてはならない、のか? と考えてゾッとする。
キアラとてこの女性たちの囲みの中に足を踏み入れるのは嫌だ。恨まれ憎まれるに決まっている。下手に関わって嫌がらせでもされた日には……。そこまで思い至って過去を振り返る。
確かに女性たちのやっかみは大変だ。
侍女仕事を始めた頃、メイドたちから嫌味を言われたことはよくあったし、ちょっとでも先輩侍女や侍女長に褒め言葉を言われたら突き飛ばされることもあった。
それどころか王妃殿下の部屋付きに昇進した今は嫌味や突き飛ばしどころか揚げ足取りも入った。ちょっとでも失敗すれば直ぐに笑われる。そう考えると失敗しないように、と常に緊張感を持つようになったし嫌味だの笑われるだの程度で凹まない逞しさも身についた。
ーーふむ。そう考えると彼を助けに行ったとして恨まれ憎まれても大したことは無いかもしれないわね。
キアラは一つ頷きアルヴァトロと囲む女性たちの間に入り込もうと一歩踏み出した。……のだが。
「キアラ、なぁなぁ、ちょっと相談に乗ってくれないか!」
タイミングを見計らった……わけでは無いのだろうが、どうやら人力車の俥夫を交代したらしい元婚約者で一応幼馴染のマルトルが声を掛けてきた。
……キアラとしては掛けて来なくていいんだけどな、という気持ちだ。最早幼馴染の情すらうっすらとも残っていない相手。顔見知り程度の感覚で挨拶くらいはしても話したいとも思っていない。
婚約が無くなったからというより、やっぱり最後の別れにキアラの容姿を傷つけるようなことを平然と言うようなマルトルが嫌で嫌で仕方ないから、である。残念なことにマルトルはキアラを傷つけた、という気持ちは全く無いので、当たり前に声をかけた。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




