23・再びのデート。ご。
先ずは食べることに専念、とばかりに向かい合わせに座った二人は無言で食べる。ガーリックバゲットの香りがアルヴァトロの空腹を刺激したのか鳴っているのをキアラは軽やかに笑い、自分はお勧めというクロワッサンを口にする。バターの香りが鼻から抜けていくし、パリサクッとした食感はどこの店で食べても美味しいクロワッサンなのだが、少し砂糖とは違う甘さを感じて首を捻る。ジッとクロワッサンの生地を見つめて気づいた。
「このクロワッサン、クリームが練り込まれているのですね」
キアラは初めてのことにちょっと興奮して大発見したような口振りでアルヴァトロに話しかける。
「ええ。この店のオリジナルだそうでそのクロワッサンのために地方から王都に出てきて、人が買い求められるそうですよ」
素直に美味しい、と喜ぶキアラを見たアルヴァトロも口元を緩ませて説明する。甘いものが好みのキアラが気にいると思っていたからその反応にやっぱりと納得したようだった。
クロワッサンを夢中で食べたキアラは紅茶を一口飲んで次はアップルパイ、とフォークを手に取る。こちらもパイ生地はサクッとしているがりんごのトロリとした食感が口の中でいっぱいに広がったことがとても幸せに思えた。
「キアラ嬢、美味しそうに食べますね」
「ええ。りんごのトロリとした食感が口の中でいっぱいに広がって幸せな気分です」
話しかけられたキアラが頷き味を噛み締める間には、ガーリックバゲットを腹の中に収め、マスタードたっぷりチキンサンドを半分近く平らげたアルヴァトロ。前にも思ったが本当によく食べるとキアラは感心した。
アップルパイを食べ終えたキアラがのんびりと紅茶を嗜んでいるとチキンサンドも食べ終えたアルヴァトロが再びキアラに尋ねる。
「何か要望はありますか」
「本当に無いのです。一日植物園でも良いと思っていたくらいで……」
キアラは答えながら、ふっ……と思い出したことがあった。
「そういえば、アルヴァトロさん、人力車ってご存知ですか」
「ああ、アーセスが俥夫というのをやってました」
「それ、広場で騎士様たちが交代でやっていらっしゃるとか……」
アルヴァトロは「ええ」と頷き、自分も休日のどこかで割り当てられるのだ、と話す。
「私、それを見てみたいです」
「なるほど。いいですよ。では広場に参りましょうか」
乗るというよりどんな物なのか見てみたい、とキアラはアルヴァトロに頼んだ。乗り物だと聞いているし、人力車の発案はターナ様だと聞いている。結婚式で使用されたことも聞いているがその結婚式をキアラは残念ながら見られなかったので、人力車もよく分からない。侍女仲間で噂になっていたので気になっていた。
人力車はその後王都に観光に来た貴族や平民たちの間で人気の乗り物になっているそうで、俥夫を務めるのは王国の騎士たちということもあって、それも噂になっている。というか、貴族平民問わず女性たちが今一番気になっている話題だと思うので、乗らなくても見ておきたい、と思うのもまた当然であった。
そんなわけでパン屋を出た二人は辻馬車に乗り込んで広場へと足を向けることにした。
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