21・再びのデート。さん。
次のエリアは水生植物だとアルヴァトロが説明してくれる。川や湖などの側に生える植物。
「我が国に流れている川は北部にある湖を水源として王都の東側を通り南部へと流れていますよね」
そう確認されたが、実は地方の子爵領を持つキアラの実家は、西部方面なので川を見たことがない。そして国内のこととはいえ、領地には関係ないので説明を受けても朧気にしか覚えていなかった。
「恥ずかしい話ですけど、私、あまり国内の他領に興味を持っていなくて……」
知らなかった、の一言が小さく呟きに近い音で零れ落ちる。
「知らないことを知らないと言えることは恥ずかしいことではないですよ。平民は自領のことで精一杯だったり領地経営をしている当主でも他領と積極的に関わる特産品でも無い限り他領のことを知らなかったりします」
キアラが肩身の狭い思いをしていることに気づいているのか、淡々とアルヴァトロは気にしないようフォローを入れる。ただその口振りは知らないことを知っているように話す人を実際に見たことがあるようでもあった。
「ありがとう、ございます」
知らないことは恥ずかしい事じゃない、とフォローされて居た堪れないキアラ。更に他の誰かのことを比較しているような口振りに何とも言えない気持ちに駆られる。知らないことを知っているフリをする人が苦手なのだろうか。それならば素直に知らないと言うキアラのことはまだ好意的に見られるのだろうか。
「いえ。偉そうなことを口にしました。知り合いに何人か、知らないことを知っているような口振りで話を聞く者が居まして。知らないなら知らないと素直に言えばいいのに、と思ったことがあったものであなたが知らないことを素直に口に出来ることに好感を持てました」
キアラの心を見透かしたような言葉だが、本当に見透かしたわけではないだろうから、普段から思っていることなのかもしれない、とキアラは頷いた。
そんな話をしながらも水生植物の説明をするアルヴァトロ。やはりとても詳しいので植物が好きなのだろう、とキアラは納得していく。
「本当にアルヴァトロさんは物知りですね」
キアラは感心した声をあげてアルヴァトロを見るが、アルヴァトロは困ったような表情を浮かべてキアラの賛辞を受け止めた。
「あなたが見栄を張らずに素直に仰ってくれたので私も打ち明けますが、確かに好きなことは好きですが、ここまで詳しく話せる程では無いです。実は好きだから何度かこの植物園に来ているうちに、職員の方と仲良くなりまして。その職員から植物園の成り立ちだったり植物の説明だったり……と聞いていました。今は覚えていたそれをあなたにお話している、謂わば受け売りです」
好きでもここまで詳しくないですよ、と照れているのか困惑しているのか、そんな微笑みでアルヴァトロが正直に打ち明けるので、キアラはなんだか楽しくなってふふ、と笑みを溢した。
「アルヴァトロさんは良い人なんですね。そんな話をしなければ私は知らないで、あなたに物知りな人なのね、と感心するだけで終わるのに。正直にお話してくれるのですから。でも正直に教えて下さりありがとうございます」
「いや。……幻滅する、と言われなくて良かった」
「えっこれくらいで幻滅なんてしていたら、王城の侍女仕事など勤まりません」
幻滅していないキアラにホッとしたようなアルヴァトロを見てキアラは思わずそんなことを言う。だが、確かにこれくらいのことで相手に幻滅していたら本当に様々な人が働く王城では幻滅する相手ばかりになってしまう。キアラの実感籠った口振りにアルヴァトロも様々な人に会って来たのか「確かに」と深く同意してみせた。
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