20・再びのデート。に。
「ここは我が国の王家の皆さま方の象徴である樹木を含めた自生の植物ですね」
アルヴァトロが入り口に近いエリアの説明をしながらキアラに合わせて歩く。王族の方々にはそれぞれを象徴する花があるが、それとは別に王家の象徴である樹木がある。長寿という意味を持つイチョウという樹木。王族の方々はこのイチョウの葉に自分たちを表す花を合わせた封蝋を押す。それでどなたが手紙を出したのか分かる仕組みになっている。王家主催の夜会の招待状なんかはイチョウの葉のみ。組み合わされた花があれば直々のお招きということを示していた。
尚、キアラが仕える王妃殿下は百合の花が象徴する花である。無垢や威厳という意味を持つので王妃殿下に似合う花。
もちろんそのエリアには百合の花も植えられている。我が国で自生している植物を改めて植えて魅せているのがこのエリアだ、とアルヴァトロが説明していく。その他に国王陛下を象徴するイエローサルタンという花もある。サルタンは異国の言葉で意味は「王」だと言う。陛下にピッタリだろう。
キアラも花の種類と花言葉は知っているがアルヴァトロはそういった説明よりも植物園の成り立ちやエリアごとの説明をしていく。物知りな人のようだとキアラは聞いていて思った。
「……済まない」
「え」
説明が途切れたと思ったら急に謝られてキアラは首を傾げる。
「いや、植物園が出来るまでとかエリアごとの説明だとか、植物そのものの話でもないからつまらないのではないか、と」
「いえ、植物園の歴史を知ることはおもしろいですし、エリアごとにどういった意図があるのか知ることも楽しいですし、アルヴァトロさんは物知りなのですね、と思いました。それにこの植物園が好きなのかもしれないな、と。好きだからそれだけお詳しいのかな、なんて思ってました」
それに前回のウィンドウショッピングでは殆ど喋らなかったのによくお話をされたことも好きなのかな、と思いました。と続ければ、驚いた顔どころかマジマジとキアラのことを見つめてくる。
まるで初めてキアラという存在を見たかのようにマジマジと。
それまではただ婚活相手の女性の一人、のような雰囲気だったのに、今はキアラという一人の人を知ったような顔でキアラを見つめている。
あまりにも強い視線にキアラはなんだか居た堪れないようなソワソワした気持ちに駆られてしまい、思わずアルヴァトロの視線から顔を逸らした。アルヴァトロはキアラのその行動でようやく我に返り、自分が不躾にキアラを見ていたことに気づいた。
「不躾に見続けてしまい、済まない」
「……いえ」
「もし、不快では無かったのならこの先のエリアも見に行きますか」
キアラは「はい」と俯いたまま頷く。物知りなアルヴァトロの説明をもう少し聞いていたい気もしたし、今日は互いに一日、時間があることは前から知っていたのでもう少し互いのことを知るためにも打ち解ける必要もある、と思う。
キアラとしては一日、アルヴァトロと時間を過ごしてみようと決意していた。アルヴァトロの方はどう考えているのか分からないけれど。でも今のところはキアラともう少し一緒に居たい、と思ってくれていると判断して良さそうだ。
今度は黙ってエスコートを受けているけれども、その沈黙が不思議とキアラは居心地が悪いとは思わず吹く風に黙って身を任せてのんびりとした気持ちになっていた。
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