17・1度目の報告。いち。
「それで、どうでした?」
今、キアラはターナ様の執務室に来ている。ターナ様の婚活に登録して紹介された後、お互いが気に入ってデートをしたのなら、そこでトラブルが無かったか、或いは相性はどうなのか、など報告をすることになっている。アルヴァトロよりキアラの方が先に報告に来ていた。
「ええと、トラブルというのはどういった場合なのでしょうか」
トラブル報告と言われてもキアラはどの程度を報告するのか分からず戸惑う。ならず者に絡まれる、とか? ひったくりに遭った、とか?
「例えば犯罪性のあるものは当然ね」
なるほど、とキアラは納得する。だが、ならず者に絡まれたりひったくりに遭ったり酔っ払い同士のケンカに巻き込まれたり……などということは無いので、何も無かった、と報告しようとして、ターナ様が「それから」と続ける。
「それから、相手の方に元恋人や婚約者が現れた、とか。男性や女性から絡まれた、とか。互いの間にお金の貸し借りがあった、とか。相手側から暴言を吐かれたり暴力を振るわれたりした、とか。そういったことね」
キアラは目を瞬かせてターナ様のトラブルというものに驚いた。
……それって当人同士で解決する事じゃないの?
「それは報告すること、なのでしょうか」
オズオズと困惑したままキアラが尋ねると、ターナ様は「もちろんよ」と即答する。
「当人同士で解決する問題だと思うレベルかもしれないけれど、それは例えば普通の婚約者とか恋人同士とかご夫婦ならばそうかもしれないわね。そういった場合だって第三者を介入させることもあるでしょうけれど。でも、キアラさんとアルヴァトロさんの場合は、私の婚活……結婚相談所、に登録してくれているわ。ということは、私が責任を持ってあなた達二人を出会わせたの。全てをサポートするとは言えないけれど、そういったことを報告してもらわないと、お二人の相性が良くなくて、別の相手を紹介することになった場合」
そこで話を切ったターナ様にすかさずキアラは、ハッとした顔で続きを口にする。
「もしかして、トラブルを知っておかないと、次の方に注意を促さないとならない、とか?」
「そういうことです。キアラさんに問題があった場合、次にご紹介する男性にこのようなことがありました、と伝えてから紹介する……かもしれません。その程度によって、ですね。キアラさんが悪くないのに結果的にトラブルを起こしたとしたら、それを伝えることはしない。でも、次の方とも結果的にトラブルを起こしてしまったのなら、それも似たような問題で起きたのなら、その次の方には伝えておくかもしれない。……そういったことも私の仕事の一環なのです。ご了承頂いたはずですが」
キアラは改めて説明されて、ようやく最初の説明で色々と言われたことが納得出来た。トラブル報告を相手側に伝えることもありますよ、とか、お相手に対する好み、とか、望むこと、とか、色々色々聞かれはしたけれど、初めてのことでイマイチ飲み込み切れていなかったから。
「そういうこと、なのですね。イマイチ理解出来てなかったものでごめんなさい」
「いいえ。初めてのことですものね。私の説明が下手だったのでしょう」
「いえ、ターナ様の説明が下手なのではなくて、初めてのことで理解したつもりになっていただけでした。すみません」
ターナ様が落ち込んだけれど、これはきちんと理解出来なかったキアラの方が悪いのだ、とキアラは謝る。ターナ様が分かり易く理解してもらうのも私の仕事なのよ、と困ったように笑ったので、それ以上キアラも謝ることはしなかった。
取り敢えず、気持ちを切り替えて改めて報告をすることに。
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