15・婚活相手が分からない。さん。
貴族街にて先ずは以前から利用している宝石店に入る。入りますね、とアルヴァトロに声を掛けるとまた一瞬だけ表情が曇ったけれど彼は何も言わずに頷いた。
「おや、キアラさんお久しぶりですね」
「お久しぶりです、色々と新作を見せてもらいたいなぁと思いまして」
城の侍女職に就てから偶に利用しているので店員はキアラの顔と名前を覚えてくれている。新作は見せてもらい金額を覚えておいて気に入った物を後でお金を貯めて購入するのがキアラの買い物。高位貴族の方のように気に入ったわ、頂戴の一言でサインをして家に請求書を持って来て、なんて買い物は出来ないし、したことがない。同じ貴族でも下位貴族と高位貴族の差。
「お隣の方は良い人かい?」
まぁ二人で宝石店に来ればそう思われても仕方ない。自分の髪色や目の色の宝石を使用した装飾品を互いに贈り合うのは定番だから。
「いいえ。友人よ」
婚約者でも恋人でも夫でもないのでこの返事が無難である。そこで「またそんな」なんて笑って言う店員は三流。黙って受け流すのが一流。抑々詮索しないことは超一流だと王城に勤めているキアラは思っている。
店員はニコリと笑って流して新作の装飾品を何点か見繕ってきた。キアラはその中でブルートパーズのネックレスが気に入った。値段を見ると買えないわけではなかった。でも、直ぐに購入はしない。他の店にも行くからだった。
「後でまた寄らせてもらうわね」
店員も慣れたもので気に入ったものがあれば後ほど買いに来るキアラのことは知っていたので軽く頷いてまたのお越しを、と頭を下げた。
次はどこに行こうかと悩むキアラ。そういえば、と侍女仲間から聞いた新店舗の宝石店が二つ向こうの通りにある、とかだったか。キアラはアルヴァトロに確認をしてみる事にした。
「アルヴァトロさん」
「何か」
「また宝石店に向かいますけれど、嫌じゃないですか」
顔が曇ったことを思い出して尋ねれば彼は静かに首を振った。嫌では無いらしいが、キアラと一緒に居るのが嫌ではないのか、宝石店が嫌ではないのか、はたまた別のことなのか。全く分からない。
「キアラ嬢の好きなように、と言ったのだから気にしないでくれ」
相変わらず静かな声。取り敢えずキアラはそういうことなら、と頷いた。侍女仲間から聞いた店に足を向けて入ってみる。大通りでは無いことと新店舗だから客の出入りは少ないかもしれない、とは思ったけれど店員の接客は悪くないし、品揃えも目玉商品はあるのだろうけれどこれ見よがしということもなく、取り扱っている宝石の質も悪くなさそう。キアラはちょっと考えて先程の店に置いてあったのと同じくブルートパーズの装飾品があったら見せてもらうように頼んだ。
結果、あちらの店よりも良いブルートパーズのネックレスが出てきた。宝石の質も良いけれどキアラの好みに合っている。値段はこちらの方が些か高いがこちらの方が良かった。とはいえ、信用関係が築けていない此方の店に後ほど来るから売らないで、などと言えるわけがない。地道に足を運んで店と客の関係を築くしか無い、と諦めた。
その後シルクを取り扱うドレス店とか侍女仕事の時によく使う文房具など覗いてみては確認。常にアルヴァトロの機嫌を伺いながら……と思って彼を見ていたけれど、そんなに不機嫌は無かったことに安堵した。
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